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【第3話 真実と過去】
刃物の触れ合う音が
静寂の浜辺に響いていた
湊さんは私を相手に
容赦している気がする
“真剣にやってくだい”
その台詞が仇になった。
私は一瞬で消えた湊さんの姿を
見ることができなかった。
“結城は何様なんや?”
あの時感じた圧と同じ
緊張感と焦りが込み上げる。
“もう勝負は辞めや”
“俺の事務所に帰んで”
そう言って湊さんは
呆れたような態度をした。
私はその時
自分の弱さに絶望感を抱いた。
湊さんは今
情報屋をしているらしい。
彼の事務所は
マンションの一室のように
質素なものだった。
“その辺に座っとき”
湊さんは私の前に
そっと珈琲の入ったカップを置いて
“結城は何で本部に入ったん?”
そう話しかけてきた。
疑問に思いながらも会話を続ける。
“両親を殺した魔物を追っていて”
“強くなりたいんです”
そう言った瞬間
湊さんの表情が曇ったのがわかった。
“昔の俺もそうやったなぁ”
ふと”昔の”という言葉が
懐かしく感じた。
“俺には余命数ヶ月の彼女がおんねん”
“そん時、彼女は本部に入っとって”
“一目惚れだったんよ”
湊さんに彼女が居ることが
私はあまりにも衝撃的だった。
“その彼女さんって…”
つい口が滑ってしまった。
怒られるかと思ったが
湊さんは優しく答えてくれた。
“まだ諦めきれんよ”
彼らしくない返答だと思った。
その後も湊さんは
彼女の病気のことを
私に沢山話してくれた。
“大好きな彼女やから”
“早く楽にしてやろうかと思う日もあった”
“でもアイツの笑顔見てると”
“自分の気が狂うねん”
私は珈琲をすすりながら
湊さんの話を
真剣に聞いていた。
誰かのために
一生懸命な姿の湊さんは
私と似ている気がした。
プルルルル
ふと電話が鳴り響く。
それは本部からの電話だった。
“結城、今どこにいる?”
電話の主は最高司令官らしいが
息荒い声で慌てていた。
“湊さんの事務所ですが…”
すると湊さんの携帯からも
着信の音が響いていた。
“今すぐに本部に来てくれ!!”
””アリス“が出たんだ”
“もしもし、湊やけど”
“緋翠様、入院中の紗夜様ですが…”
嫌な予感がした―。
“落ち着いて、お聞きください”
“魔物の襲撃によって紗夜様が…”
“どこかへ連れて行かれました”