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「ん! んま!」
いちごを口いっぱいに頬張って、お目々をキラキラさせてるくうちゃん。
それを、自分は何も食べてへんもとちゃんが、頬杖をついてニヤニヤ眺めてる。
……なんなんこの人。幸せそうすぎて、正直ちょっとキモいわ。
「あ、しゅうたとゆうと合流したって。偶然見つけた屋台でイカ焼き食ってるって」
スマホを眺めていたもとちゃんが、急に弾かれたように顔を上げた。
「え! やば、俺もイカ焼き食べたい! これ、もういらんから残りもとちゃんにあげるわ」
「え……?」
せっかく捧げたパフェをあっさり突き返されて、もとちゃんが絶望的な顔をして固まる。その落差がおもろすぎて、俺は思わず口の中のアイスを吹き出しそうになった。
「……はんちゃん、お口にアイスついてるわ」
くうちゃんが、真顔で俺をじっと見つめてくる。
「ん、ごめ、くうちゃん拭いて」
ふざけて甘えるように顔を突き出すと、くうちゃんは黙ってナプキンを手に取った。
唇に触れる指先に伝わる感触が、心なしかいつもより硬い気がする。
「……ん、はい。とれた」
「……ありがとう、くうちゃん」
「ん、ええよ」
……あれ。
なんか、やっぱおかしい。
さっきまであんなにふざけてたくうちゃんが、どこかへ行ってしもたみたいに冷めてる。
俺、甘えすぎて気持ち悪がられた? くうちゃんの機嫌、損ねてしもた?
「……あ、ごめんな、俺待ちか」
気まずい沈黙に耐えられず、何もなかったふりをして残りのパフェを急いで口に運ぶ。
くうちゃんは何も言わんと席を立って、そのままトイレへ行ってしもた。
なんやこれ。正月早々、心臓がキリキリ痛い。
「……さっき、くうちゃん怒ってなかった?」
不安に耐えきれず隣のもとちゃんに小声で聞くと、彼は「ふふっ」と仏みたいな笑顔を浮かべた。
「え? いつ? ていうか、そらが怒ったとこなんて一回も見た事ないけどな?」
余裕たっぷりのもとちゃんの横顔を見ながら、俺はぐるぐると考え込む。
くうちゃんは、やっぱりもとちゃんみたいな、なんでも受け止めてくれる優しい人が好きなんかな。もとちゃんだって、絶対くうちゃんの事好きやし。
インスタに載ってた元カレも、雰囲気がもとちゃんに似てる柔らかイケメンやったし……俺なんかじゃ、って。
……いや、ちょっと待て!
なんで?! 俺、いつの間にくうちゃんに恋してる設定になってんの?!
好きになる瞬間なんてどこにもなかったやろ!
だって俺ら、親友やし! くうちゃんが唯一、何度も会ってくれる大事な親友やし!!
「はんちゃん、もう食べた? そろそろ行こか?」
混乱する俺の頭を冷やすように、くうちゃんが穏やかに声をかけてくる。
「ちょっと待ったってえな。食べたばっかりで歩くとお腹痛なるやろ?」
あ、そうや。もとちゃんてこういう人やった。
くうちゃんだけやなくて、誰に対してもこうやって過保護に優しい人なんや。
「大丈夫。もとちゃん、ありがとうな。俺、赤ちゃんちゃうし、そんなすぐお腹痛ならんで?」
強がってニコッて笑いかけてみたけど。
戻ってきたくうちゃんは、やっぱりどこか怒ってるみたいや。
なんも言わんと、俺らより先にスタスタ出口に向かって行ってしもた。
え、ほんまに俺、なんかした? なんか……泣きそうなんやけど。
「もとちゃん、ごちそうさまでした」
「もとちゃんは幸せやな。正月早々、こんなイケメン二人連れて歩けて、ご飯もスイーツも全部奢ってあげれて。全国民が羨ましがるわぁ」
くうちゃんが俺の背中越しからもとちゃんにふざけて言うてる。
「……もはやどっから目線の発言かも謎やわ」
「ぎゅう~っ」
「……っ?!」
本気で驚いているもとちゃんを笑いながら見ていたら、不意に耳元でくうちゃんの声がした。
後ろから抱きつかれ、俺のお腹が両手で包まれる。
……なになに、なにこれ。
さっきまでの冷たい態度はどこへやら、豹変しすぎやろ。緊張で一瞬にして身体が強張る。
「この大きいぽんぽんには、ちめたいアイスがぱんぱんに詰まってるんやな! お腹冷えて風邪ひきまちよ」
「いやや、くうちゃん、くすぐったい!」
一瞬で顔中に血が上るのがわかった。
あかん。こんな顔、今見られたら……まるで俺がくうちゃんのこと好きみたいやん。
「そらのお腹には、ぐっちゃぐちゃのいちごがぱんっぱんに入ってんねやろ?」
もとちゃんの茶化すような声に、くうちゃんが勢いよく振り返る。
「なんやと?! ぐちゃぐちゃのいちごのパンツなんて履いてへんわ!」
「そんなん言うてへんやん!!」
ぷくっと頬を膨らませたくうちゃんが、ポカスカともとちゃんを叩き始める。
良かった。二人とも気づいてない。……俺の顔が、今ありえへんくらい真っ赤なことに。
ていうか、二人のやり取りがおもろすぎて、結局最後は腹抱えて笑うてしもたんやけど。
♢♢♢
「しゅうたぁ、ゆうとぉ、おひさぁ~」
くうちゃんのお気楽な挨拶で合流した二人は、すでにお祭りモード全開やった。
「ちょ、みんな遅いて。もう一通り食べてもうたわ。もう帰ろかな言うてたとこ」
「え、お参りは? もう二人で行ったん?」
「ううん、まだやけど」
「ゆうと、初詣の意味間違えてない?」
「てへ、純粋に忘れてた」
「ぜんっぜんかわいないから、一人で帰れ」
「こわっ……。くうちゃん、なんかあったん?」
「あ~、聞かんであげて」
くうちゃんは、俺ら二人に事情を話して疲れ果てたんか、ゆっくりと首を横に振る。
そうやんな。面白おかしく何回も言うの、ほんまは辛いもんな。
神様の前までたどり着くのは、容易なことやなかった。
長い行列の中、お腹いっぱいで歩くのが遅いゆうとに歩幅を合わせる。
「……お願い事、考えた?」
俺の問いかけに、ゆうとが少し真面目な顔をした。
「……好きな人と、末長く一緒にいれますように」
「え、ゆうと彼女できたん?」
「まぁまぁ。『一緒にいれますように』やからな」
「……片思いってこと?」
「伝えん方がええ場合もあるんよ。……大切な人やったらな」
珍しい。あのゆうとが、ふざけずに真っ直ぐな目で言うてる。
そうやんな。その気持ち、今の俺にはちょっとわかる気がする。
自分だけのものにするのはおこがましい。ほんのちょっと、好きな人が俺のことを思い出して、「会いたいな」って思ってくれるだけでいい。
「……うわ」
「なんよ? 落とし物でもしたん?」
「いや、すっごい事に気づいてもうた」
「お、俺だけにコソッと教えてや」
「……俺も、好きな人おるかもしれん」
「いえい。俺の言葉で覚醒」
指パッチンを鳴らして、ふざけんで。
ほんま……こんなこと、気づかん方が絶対幸せやったのに。
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