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せれあ
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小森探検隊、ベネせれあ共和国の禁足地へ
第67音声観測所跡地にて、誰も知らない葬列が歩いていた
ベネせれあ共和国、北部森林地帯。
時刻は午後16時47分。
ベネせれあ共和国の大統領・せれあが管理する地図には、森の奥に奇妙な空白地帯が存在していた。道路も建物も記載されていない。航空写真を見ても、そこだけ木々の配置がおかしい。
そして、その周辺では毎週のように家畜が消えていた。
せれあ「というわけで、今回はこの森の調査を行います」
小森「マイクラやろ?」
せれあ「今から現実の森に入るんですけど」
小森「木材集めて作業台作ればいいじゃん」
神影零「なんで会話にならねぇんだよ!!」
包帯「お前ら、開始30秒で本来の目的から逸脱しないでくれる?」
野獣先輩「なんか腹へんないすか?」
せれあ「この国の大統領として断言します。今回の調査は危険です。現地の住民からも、森の奥から変な音が聞こえるという報告が上がっています」
小森「どんな音?」
せれあ「『ヲロ、ヲロ』とか、『七番目の雨がどうこう』とか……」
包帯「情報の時点で嫌すぎる」
神影零「誰だよ七番目の雨って」
野獣先輩「知らないっすねぇ」
せれあ「ちなみに、森に入った調査員が3人行方不明になっています」
小森「なるほど」
包帯「帰ろう」
小森「いや、気になるだろ」
包帯「その好奇心、今すぐマイクラのワールドに置いてこい」
小森「俺の好奇心はワールド間移動に対応してない」
神影零「ゲームの仕様みたいに言うな」
一行は森の入口に到着した。
せれあの説明によれば、この一帯は数十年前から地図に載っていない。政府も調査を試みたが、奥に進むほど方角がわからなくなり、同じ場所に戻ってくるという。
しかも、森の中ではコンパスが使えない。
野獣先輩「コンパス壊れてるんすか?」
せれあ「新品を使っても同じです」
小森「じゃあ地面に松明置けばよくね?」
包帯「マイクラの常識を現実に輸入するな」
小森「でも目印にはなる」
神影零「それはそう」
包帯「納得するな!!」
結局、小森が目印として赤い布を木に結びつけることになった。
一行は森の中へ進んでいった。
森の奥で聞こえたもの
午後17時12分。
森の中は、異様なほど静かだった。
鳥の声がない。
虫の音もない。
風が吹いているはずなのに、木々の葉は動いていなかった。
小森「なあ、さっきから変じゃね?」
神影零「何が?」
小森「足音」
包帯「私たちの足音しか聞こえないけど」
小森「違う。俺たちが5人いるのに、足音が6人分ある」
全員が立ち止まった。
ザッ。
ザッ。
ザッ。
彼らが歩くのをやめても、もう一人分の足音だけが続いていた。
ザッ。
ザッ。
ザッ。
野獣先輩「……後ろっすかね?」
全員が振り返る。
誰もいない。
せれあ「全員、動かないでください」
神影零「いや、これ普通にやばいだろ」
包帯「同意。今回は小森の好奇心に付き合ったことを後悔してる」
小森「俺のせいなの?」
包帯「少なくとも発案者はお前」
そのとき。
森の奥から、低い声が聞こえてきた。
「ヲロ、ヲロ。七番目の雨は、まだ椅子に座っている」
声は人間のものに似ていた。
しかし、発音の仕方が明らかに違う。言葉と言葉の間隔が不自然で、まるで一つ一つの音を別々の生き物が喋っているようだった。
神影零「……誰だ?」
返事はない。
代わりに、森の奥から何かが歩いてきた。
最初に見えたのは、黒い布だった。
次に、異常に長い腕。
そして最後に、頭部の代わりに浮かんだ白い扉が見えた。
身長は約3メートル。
黒い外套のようなものをまとい、両腕は膝よりも下まで伸びている。
顔はない。
首もない。
頭部の位置にある白い扉だけが、空中に浮かんでいた。
扉にはドアノブがついている。
その向こう側から、誰かが爪で引っかくような音がした。
カリ。
カリ。
カリ。
包帯「…………」
包帯「帰ろう」
小森「うん」
神影零「お前ら判断早すぎるだろ!!」
野獣先輩「いや、これは帰ったほうがいいっすね」
せれあ「全員、ゆっくり後退してください。刺激してはいけません」
怪異は動かなかった。
ただ、白い扉をこちらに向けていた。
そして、突然喋った。
「ミェルカ、ドゥン。あの子の靴を返せ。足が帰ってこない」
小森「…………」
神影零「…………」
野獣先輩「…………」
包帯「何?」
誰も理解できなかった。
何を返せというのか。
誰の靴なのか。
そもそも、足が帰ってこないとはどういう意味なのか。
せれあ「……記録します。発言内容は『あの子の靴を返せ』。対象は不明」
その瞬間、怪異が首のない身体を傾けた。
ギギギギギギギギギ。
人間の関節から出る音ではなかった。
怪異「ボロロロロ……窓を数えるな。窓はお前を数えている」
包帯「何なんだよ、その詩的なのに全く意味がわからない文章!!」
小森「窓なんかねぇぞ」
神影零「いや、ある」
神影零が指さした先。
森の木々の間に、白い窓が浮かんでいた。
一つ。
二つ。
三つ。
先ほどまで、確かに存在しなかった窓だった。
そのすべてが、こちらを向いていた。
野獣先輩「……窓って、壁に付いてるもんじゃないんすか?」
せれあ「そうですね」
野獣先輩「じゃあ、あれは何なんすかね?」
せれあ「わかりません」
野獣先輩「やりますねぇ……」
包帯「何がだよ」
野獣先輩「いや、わからないことをわからないと言えるのは大事っすから」
包帯「今は哲学を始める時間じゃない」
空席を埋めるな
怪異はゆっくりと右腕を上げた。
そして、何もない空間を指さした。
「ギャルン・トゥバ」
一拍。
「三つ目の椅子を、地下に戻せ」
また一拍。
「明日の葬列には、まだ生まれていない者を並べるな」
せれあ「……地下?」
小森「椅子?」
神影零「葬列?」
包帯「情報が全部バラバラなんだよ」
そのとき、せれあの無線機が鳴った。
『こちら後方警備隊! 森の外で異常発生!』
わん太の声だった。
『うち、今、森の入口にいるんだけどさ! 入口の前に白い椅子が出現した! さっきまで絶対になかった!』
せれあ「椅子?」
『そう! 白い椅子! しかも、椅子の上に靴が一足置いてある!』
一同は怪異を見た。
怪異は、白い扉をこちらに向けたままだった。
せれあ「その靴の特徴は?」
『子供用みたいな、小さい黒い靴! 片方だけ!』
怪異の身体が、わずかに揺れた。
そして、今までとは明らかに違う声で喋った。
「……ミェルカ」
声が震えていた。
「ミェルカ、ミェルカ、ミェルカ」
怪異は両手で頭部の白い扉を抱え込むような動作をした。
扉の向こうから、コンコン、と音が鳴った。
怪異「おそい」
コンコン。
怪異「おそい、おそい、おそい」
コンコン、コンコン、コンコン。
怪異「おそいんだよォォォォォォォォ!!」
次の瞬間、怪異が暴れ出した。
長い腕が地面を叩きつけ、土が爆ぜる。
木が一本、根元からへし折れた。
小森「うわっ!!」
神影零「なんで急にキレたんだよ!!」
包帯「知らないよ!! 私が聞きたい!!」
怪異は地面を殴り続けた。
一発。
二発。
三発。
まるで、地面の下にいる誰かを掘り起こそうとしているかのようだった。
怪異「空席を埋めるなァァァァァ!!」
その叫び声とともに、森の中の白い窓が一斉に開いた。
窓の向こう側には、真っ暗な空間が広がっていた。
そして、その暗闇の中に。
無数の椅子が並んでいた。
椅子には誰も座っていない。
ただ、一番奥の椅子だけに、小さな影が座っていた。
顔は見えない。
足元には、片方だけの黒い靴があった。
せれあ「……あれは」
小森「知ってるの?」
せれあ「いいえ。初めて見ました」
せれあの声は震えていた。
「でも、あの椅子……」
包帯「椅子がどうしたの?」
せれあ「数えてください」
小森「は?」
せれあ「窓の向こうにある椅子の数です」
神影零は目を凝らした。
一つ。
二つ。
三つ。
四つ。
五つ。
六つ。
七つ。
八つ。
九つ。
十。
そして、最後に。
十一番目の椅子があった。
その椅子だけ、他のものとは違った。
椅子の背もたれに、文字が刻まれていた。
「帰還者」
怪異が動きを止めた。
白い扉が、ゆっくりと小森たちの方を向く。
怪異「ヲロ、ヲロ」
怪異「七番目の雨は、まだ椅子に座っている」
同じ言葉だった。
しかし、今度は声の調子が違った。
まるで、誰かに何度も言い聞かせているようだった。
怪異「七番目の雨は、まだ椅子に座っている」
小森「……これ、何回も言ってるな」
包帯「意味があるのかな」
神影零「あるとしたら、七番目の雨ってのが重要なんじゃねぇの?」
せれあ「でも、雨は降っていません」
その瞬間。
空から、水滴が落ちた。
ぽつ。
ぽつ。
ぽつ。
全員が空を見上げる。
雨雲はなかった。
なのに、水滴が降ってくる。
しかも、その水滴は地面に落ちる直前で止まり、空中に浮かんでいた。
一滴。
二滴。
三滴。
四滴。
五滴。
六滴。
そして七滴目。
七滴目だけ、赤かった。
怪異がゆっくりと腕を下ろす。
そして、初めて小森たちに向かって歩き出した。
一歩。
二歩。
三歩。
小森「おい、来てるぞ」
包帯「見ればわかる!!」
野獣先輩「逃げましょう。これは本当にまずいっす」
神影零「同意だ!!」
せれあ「全員、森の出口まで走ってください!!」
一行は一斉に走り出した。
背後から、怪異の声が響いた。
「ミェルカ、ドゥン」
「窓を数えるな」
「窓はお前を数えている」
そして最後に。
「帰還者は、まだ到着していない」
そして、誰もいなくなった森で
午後18時03分。
小森たちは、どうにか森の入口まで戻ってきた。
わん太率いる後方警備隊も全員無事だった。
しかし、森の入口に置かれていた白い椅子は、消えていた。
靴もない。
白い窓も見当たらない。
まるで最初から何もなかったかのようだった。
小森「……なあ」
神影零「なんだよ」
小森「俺たち、何を見たんだ?」
誰も答えなかった。
せれあは調査記録を確認していた。
映像には怪異の姿が映っていた。
しかし、音声データを再生すると、奇妙なことが起きた。
怪異の声だけが、完全に消えていたのだ。
残っているのは、木々の揺れる音と、調査隊の声だけ。
せれあ「……おかしいですね」
包帯「映像には映ってるのに?」
せれあ「はい。映像には確かに怪異がいます。でも、音声には怪異の声が一切入っていません」
小森「じゃあ、さっきの声は俺たちにしか聞こえてなかったのか?」
神影零「そんなことある?」
野獣先輩「……いや、もう何があっても驚かないっす」
そのとき、せれあの端末に新しいファイルが届いた。
送信元は不明。
ファイル名は、たった一文字。
「七」
せれあがファイルを開く。
中には、一枚の写真が入っていた。
古い室内。
長い廊下。
左右には、白い扉が並んでいる。
そして廊下の奥に、黒い外套を着た怪異が立っていた。
その隣には、小さな子供がいる。
子供の顔は黒く塗りつぶされていた。
足元には、黒い靴が一足。
写真の裏側には、文字が書かれていた。
「第七回葬列、参加者十名。帰還者一名。欠席者一名」
包帯「……欠席者?」
小森「参加者は十人なのに、帰還者が一人?」
神影零「残りの八人はどこに行ったんだよ」
せれあ「わかりません」
野獣先輩「……この写真、いつ撮影されたんすかね?」
端末には撮影日時が表示されていた。
撮影日時:明日、午後18時03分。
包帯「…………は?」
小森「明日?」
神影零「未来の写真ってことかよ!!」
せれあは、無言で端末を閉じた。
その瞬間、全員の背後で。
コン。
小さな音がした。
振り返る。
そこには、何もなかった。
ただ、小森が森に入る前に木へ結びつけたはずの赤い布が、地面に落ちていた。
その布には、見覚えのない文字が書かれていた。
「ミェルカは、まだ帰っていない」
小森「……明日、もう一度来るか?」
包帯「来るわけないだろ!!」
神影零「俺も反対だ!!」
野獣先輩「アイスティーしか無かったけどいいかな」
包帯「今その話してない!!」
せれあ「……明日は、政府の調査隊を派遣します。あなたたちは参加しなくていいです」
小森「いや、俺たちが見つけたんだから、最後まで調査するべきだろ」
包帯「その責任感をもう少し早く発揮してほしかった」
小森は、森の奥を見つめた。
怪異が何者なのか。
ミェルカとは誰なのか。
七番目の雨とは何なのか。
そして、明日の午後18時03分に何が起きるのか。
何ひとつわかっていない。
ただ一つ、確かなことがあった。
あの怪異は、小森たちを知っていたわけではない。
彼らを襲ったのも、彼らに何かを伝えたかったからではない。
怪異は、彼らが現れるずっと前から、誰かを待ち続けていた。
小森たちは、その待ち合わせ場所に偶然立ち入ってしまっただけだった。
そして、その夜。
ベネせれあ共和国の誰もいない北部森林地帯で、再び声が響いた。
「ヲロ、ヲロ」
「七番目の雨は、まだ椅子に座っている」
「……あと一人」
森の奥で、白い扉がゆっくりと開いた。
その向こうから、小さな声がした。
「おそかったね」
調査記録・第1日目:終了。
未解明事項 怪異の正体、ミェルカの身元、第七回葬列の意味、未来の日付が記された写真の出所。
コメント
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せれあさん、第1話読みました。これは……良い意味で“嫌な感じ”のする怪異譚ですね。ヲロ、ヲロという発音からして既に異質で、白い扉や空席の椅子といったイメージが頭に焼きつきました。特に「帰還者はまだ到着していない」という台詞と、明日の日付が入った写真の伏線が効いていて、世界観の背筋がゾワッとする設計になっています。この先で椅子の数やミェルカの正体がどう説明されるのか、設定の整合性がとても気になります。続き、楽しみにしています。