コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
サラフェの乗った馬車がある門の前で止まる。この町で一番大きな屋敷、庭、そして、門。彼女はこの地域の領主の娘だった。つまり、貴族である。彼女は水魔法の素養を認められ、人族の有する学園の中でも有数の学園に入り、そこでの訓練を優秀な成績で修めた後、水の勇者となったのである。
「お嬢様! お帰りなさいませ。今開けますので少々お待ちください」
「ありがとう」
使用人の男が門の横にある守衛室のような所から出てきて、大きな門を開ける。馬車が奥にある大きな屋敷に向かって走っていく途中、色とりどりの草花がサラフェを優しく迎え入れる。彼女の好きな青い花が多いのは、領主の指示である。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
「お嬢様、お帰りなさいませ」
「お嬢様、お帰りなさいませ」
「お嬢様、お帰りなさいませ」
「ありがとう」
馬車の扉が開き、サラフェが馬車から降りようとすると、メイドが4人、そして、使用人が4人で出迎えている。さらに、使用人が馬車にベッドマット付きの担架を横付けした。
「いや、皆さん、いつも言っていますけど、甘やかしてはいけません」
変身したままのキルバギリーがさすがに呆れ顔でその様子を見て、思わず口を出す。
「ですが……あ、キル様……ですよね? まだ変身を解かれていないのですね」
「あぁ……失念していました。っと、サラフェを歩かせるのです」
キルバギリーがいつもの姿に戻りつつ、使用人たちを下がらせようとする。
「その必要はない!」
「お父様!」
「領主様!」
家の扉を勢いよく開けて叫びながら登場したのは、領主であるサラフェの父だった。サラフェとキルバギリーがその言葉に反応し、彼の方を見る。
彼の髪の色はサラフェよりも薄い色の青で、紳士の身なりに整えられた薄青色の口ひげと高級そうなモノクル、細身の身体は鍛え上げられているオーラを醸し出し、この世のダンディズムを集約したような出で立ちである。
彼はコツコツとゆっくりとした足取りで階段を降り、馬車の方へと近付き、サラフェの前に立つ。
「お父様……」
「領主様……何故ですか?」
「何故なら……歩いたことでこんな可愛い娘の脚が屈強なマスラオのように太くなってしまったらどうするんだ!」
しかし、中身は少し残念である。
「……歩きますわ」
「その方がいいです」
サラフェはバカバカしくなり、父親の隣を通り過ぎて、階段を上がろうとする。
「ああっ! 娘がまだ反抗期! ただいまのハグはないのか!? 久々の対面! 感動的な親子のハグは!?」
サラフェの父、サラパパが踵を返し、自分を通り過ぎて行ったサラフェにハグを求める。
「お父様、もし、サラフェに触れたら、もう口を聞いてあげませんよ?」
サラフェの冷たい一言で、サラパパは膝から崩れ落ちた。
「ぐぬぅ……キルバギリー殿、どうしたら、娘は昔のように「パパ大好き」と言いながら、頬擦りをしてくれるようになるのだろうか!?」
「………………そうですね。もう手遅れだとは思いますが、そもそも子離れした方がいいと思います」
答えるか答えないかを悩んだ挙句、キルバギリーは無下にすることもできず、淡々とサラパパにそう返す。
「な、何を言う! 子どもはいつまでも可愛いものじゃないか! 現にサラフェだって、25歳を迎えた今でも12歳くらいの頃と何も変わらず、同じでいてくれているじゃないか!」
「あ」
サラパパの言葉に、キルバギリーが思わず声が出た。
「【コンティニュアス】【ウォーターフォール】!」
「あががががががががっ!」
青筋を立てて、怒髪天のサラフェが容赦なく、サラパパに【ウォーターフォール】を繰り出す。せめてもの救いか、ベッドマット付き担架の上で水に打たれ続けているので、彼へのダメージは少ない。
「ふんっ! しばらくそこで乙女心についてじっくり考えあそばせ!」
サラフェは家の中に入り、久しぶりの自室へと足を急がせた。自室に入ると、靴を脱ぎ、上着も脱ぎ捨て、肌着でベッドの上にダイブする。
「まったく……お父様はいつまでもサラフェを子ども扱いする……というか、サラフェのことを幼児体型と言いましたよね!」
「いえ、幼児ではなく、年齢的にも児童くらいをさしていたと思います。幼児体型だとお腹がぽっこりですから。さすがに、サラフェは幼児体型ではありません。児童体型です」
キルバギリーが知識を披露する。その際、彼女は眼鏡を付ける。
「そこ、冷静に訂正しない! というか、真面目な顔で児童とか言わない!」
「まあ、あれは異常ですが、少なくとも親としての愛情を感じますよ。異常ですが」
キルバギリーは「異常」という言葉を2回使いつつもサラパパをフォローする。
「正常な親の愛を所望しますわ……」
「ふふっ、小さかった頃に病弱だったのでしょう? その名残ですよ」
キルバギリーは正常ならば愛を受け取ると言っているサラフェに思わず笑みを浮かべる。
「……病弱ではなく、身体に対して、魔力が大きすぎて上手く体内で処理できていなかっただけです」
「素直じゃないですね。毎年こうやって、わざわざ3日もかかる健診を受けて、領主様を安心させているではないですか」
キルバギリーがそう言うと、サラフェは枕に顔を当てて、その後ゆっくりと話し始める。
「……サラフェはサラフェ自身が心配なだけで、ついでにその結果を見たお父様が安心なさっているだけです」
「……そうですか」
キルバギリーは嬉しそうな笑みを顔に貼り付けたまま、サラフェの脱ぎ散らかしたものを片付けた。
「あががががががががっ! サラフェ、そろそろ許してくれーっ!」
一方、サラパパはまだ【ウォーターフォール】から解放されていなかった。