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仕事もひと段落して、リビングの空気がちょっとだけ落ち着いてる時間。テレビは音だけつけて、2人ともソファに座ってそれぞれスマホを触ってた。
「……あ。」
「ん?」
「てかマックのさ、三角チョコパイ食べたーい。」
突然勇斗が言い出して、仁人は思わず眉をひそめた。
「え?今から?」
「いや今じゃねぇよ!w いつか、なんか食べたいな〜って思っただけ。」
「びびらせんなよ」
「ふふ、だってチョコの気分だったんだもん。」
「はいはい。」
仁人は苦笑いしながらまたスマホに視線を戻した。
それでその日は、ただの他愛ない会話として終わった。
でも、仁人はしっかりその言葉を覚えていた。
⸻
数日後。
その日は勇斗の方が早く仕事を終えて、先に帰宅していた。
仁人は少し撮影が長引いて、帰る頃には夜の街がすっかり冷たい空気になっていた。
マネージャーが迎えに来てくれる日もあるけど、今日は自由解散。
「タクシー拾って帰ろ」って思って歩いていたとき、
ふと駅前のマクドナルドが目に入った。
「……三角チョコパイ食べたいっつってたよな」
思い出すのは、あの日の勇斗の何気ない一言。
別に特別なことじゃない。
でも、あいつの嬉しそうな顔が頭に浮かんで。
気づいたら店のドアを押してた。
⸻
リビングの明かりが漏れてる。
玄関の鍵を開けて中に入ると、
「おかえりー!」って声が飛んできた。
「ただいま。」
靴を脱いで立ち上がった勇斗が、仁人の手元を見て目を丸くした。
「え?!お前それ何持ってんの?」
「マック。」
「え、なんで?!」
「お前、前に三角チョコパイ食べたいって言ってたじゃん。ちょうど帰り暇だったし、見かけたから買ってきた。」
「……え、まじで?!」
勇斗の顔が一瞬でパッと明るくなった。
「わざわざいいのに!やばい、嬉しいんだけど! 仁人だいすきだよ〜〜♡」
そう言いながら両手を広げて飛びつこうとする勇斗を、
仁人は反射的に片手で止めた。
「やめろ!まだコート脱いでねぇから!」
「いいじゃん別に〜〜!」
「いやだ!落ち着け!」
押し返されて「ちぇっ」とふてくされた勇斗は、
仁人の後ろをぴったりついてリビングへ戻った。
⸻
夕飯はもう食べ終わってたけど、
チョコパイの甘い匂いに負けて、
2人でキッチンからお皿を持ってきた。
袋を開けると、
まだほんのり温かくて、チョコの匂いがふわっと広がる。
「やば、あったかいじゃん!」
「そりゃあ、さっき買ったばっかだし。」
「……え、ほんとに今買ってきたの?」
「うん。」
「仁人、やっさし。惚れなおした。」
「勝手にどうぞ。」
「はーい。」
勇斗がにっこり笑いながら、
「いっただっきまーす」って言ってひと口食べる。
「あっつ!」
「バカだろ。気をつけろって。」
「うわ、でもうま……やっぱこれだわ……」
そんな勇斗の顔を見ながら、仁人も笑ってチョコパイを食べる。
「お前さ、甘いもん好きだよな。」
「仁人が買ってきてくれる甘いもんは特にね〜。」
「……そういうことサラッと言うのやめろ。」
「え〜、嬉しいくせに。」
「うるさ〜〜。」
でも、仁人の口元にはちゃんと笑みが浮かんでて。
2人の間の空気は、いつもより少しだけ柔らかくて甘かった。