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K-Takasaka
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エッフェル塔は、朝の光を受けて輝いていた。
その足元では、世界中から集まった観光客が写真を撮り、案内板を眺め、土産物を売る露店の前で足を止めている。
その中を、五人は明らかに場違いな勢いで走っていた。
「Kさんはどこだ!」
カキが叫ぶ。
「声が大きい!」
メバルが注意する。
「フランスまで来て、声の大きさを気にしてどうする!」
「フランスだからこそ気にして!」
マサカゲは周囲を見回しながら、端末に表示された地図を確認していた。
「最後に確認された通信記録は、この周辺だ。だが、位置情報は数時間前のものだ」
「つまり、Kさんはここにいる!」
「その結論に至るには情報が足りない」
「でも、ここにいない証拠もない!」
「それはどこにでも言える」
アオノがエッフェル塔を見上げる。
「この塔は、1889年のパリ万博のために建設されたそうです。当初は一時的な建造物として考えられていたとも」
ミステーが首を傾けた。
「一時的なものが、ずっと立っている」
「そうですね」
「K-Tも、帰るつもりで長くいるのだろうか」
その言葉に、メバルが一瞬だけ黙った。
カキは聞いていなかった。
「塔の上にいるかもしれない!」
「なぜ?」
「高いところからなら、街全体を見渡せる!」
「K-Tが自分から目立つ場所に行くと思うか?」
マサカゲの指摘に、カキは少し考えた。
「……じゃあ、塔の下にいる!」
「極端だな」
五人はエッフェル塔の周囲を歩き始めた。
同じ頃、塔の反対側では、一台のパトカーが警戒走行を続けていた。
車内のK-Tは、周辺の人の流れを確認している。
観光客の集団。露店。警備員。立入禁止区域。
端末に表示された巡回範囲を確認しながら、K-Tは無線に応答した。
『北側通路、混雑。トラブルの可能性あり』
「確認する」
ルノーが車をゆっくりと進める。
その進行方向の先に、カキがいた。
カキはエッフェル塔の模型を手に持ち、周囲を見回している。
「Kさん!」
突然、大声で叫んだ。
近くにいた観光客が一斉に振り返る。
K-Tも、声の方向へ視線を向けた。
やはり、あの五人だった。
「……またいる」
ルノーがブレーキを踏む。
「今度は本当に知り合いではないのか?」
「違う」
「では、なぜこちらを見ている?」
「こちらを見ているのは、あいつだけだ」
カキはパトカーに気づいていなかった。
彼の視線は、塔の上部へ向いている。
「いない……。Kさんは塔の上にもいない!」
カキは両手を額に当てた。
「まさか地下か!」
「エッフェル塔に地下通路があるという根拠は?」
「Kさんなら、ある場所を使う!」
「それは根拠ではなく、信頼だな」
マサカゲが冷静に答えた。
パトカーは五人のすぐ横を通り過ぎた。
ルノーが窓を少し下げる。
「そこの人たち、通路を塞がないでくれ」
フランス語で注意されたカキは、驚いて道を空けた。
「今の人、何て言ってた?」
「通路を塞ぐな、と」
アオノが翻訳する。
「Kさんの情報か?」
「違います」
「でも、Kさんに関係する人かもしれない!」
パトカーはそのまま進み、塔の南側へ回った。
K-Tはバックミラーで五人を確認した。
カキがパトカーを見送っている。
しかし、その顔に気づいた様子はない。
「……いるな」
K-Tは小さく呟いた。
「だから、知り合いなのか?」
「違う」
「君はさっきから、それしか言わないな」
「事実だ」
その直後、無線が入った。
『観光客同士のトラブル。南側入口付近。現場へ向かってくれ』
「了解」
K-Tは前方を指差す。
「南側へ」
パトカーが大きく方向を変えた。
五人はその動きを見ていた。
「今のパトカー、こっちを避けたぞ!」
カキが叫ぶ。
「避けたのではなく、方向転換しただけだ」
「俺たちに気づいている!」
「警察車両が歩行者を避けるのは普通だ」
「Kさんは俺たちから逃げている!」
メバルが眉を寄せた。
「カキ、K-Tがフランスにいるという情報は、まだ確定していないよ」
「でも、パトカーが何度も近くを通る!」
「パリにパトカーが何台あると思っているんだ」
「一台!」
全員が黙った。
「……なぜそう思った?」
「Kさんが乗っているから!」
マサカゲは額を押さえた。
その頃、パトカーは南側入口に到着していた。
観光客同士の口論が起きている。ルノーが車を降り、当事者へ近づいていく。
K-Tも続いて車外へ出た。
制服姿のK-Tを見た観光客たちは、すぐに口論をやめた。
K-Tは二人の間に立ち、短いフランス語で状況を確認する。
その様子を、塔の反対側からミステーが見ていた。
「警察官がいる」
「どこだ?」
カキが振り返る。
「向こう」
ミステーが指差す。
しかし、ちょうどそのとき、観光客の集団が横切った。
K-Tの姿が隠れる。
集団が通り過ぎたとき、K-Tはすでにパトカーへ戻っていた。
カキは、別の警察官を見つけて走り出す。
「Kさん!」
呼ばれた警察官が驚いて振り返る。
「違う!」
カキは立ち止まった。
「顔が違う!」
メバルが追いつき、カキの肩をつかむ。
「最初から違う人だよ」
「でも制服は同じだった!」
「制服だけで判断しないで」
「Kさんは制服が似合うんだ!」
「それは否定しないけど」
再びパトカーが走り出す。
車内で、ルノーが笑いをこらえていた。
「ずいぶん熱心に探されているな」
「探されている?」
「さっきから、あの男は君に似た人を探している」
「似ていない」
「声も?」
「似ていない」
「態度も?」
K-Tは答えなかった。
その沈黙を、ルノーは肯定と受け取った。
五人は塔の下で、再び作戦会議を始めた。
「今の警察官がK-Tだった可能性は?」
マサカゲが尋ねる。
「高いと思います」
アオノが答えた。
「根拠は?」
「視界に入った時間が短すぎて、顔認識ができませんでした」
「それは可能性ではなく、未確認ということだ」
「しかし、歩き方は似ていました」
「フランスの警察官が全員、K-Tと同じ歩き方をしている可能性もある」
カキは拳を握った。
「なら、次は警察官を全部確認する!」
「やめて」
メバルが即座に止めた。
「それをやったら、私たちがただの不審者になる」
「もう十分、不審者だと思う」
ミステーが静かに言った。
そのとき、アオノの端末が音を鳴らした。
「新しい反応です」
「K-Tか!」
「いえ、狐の仮面に関連する暗号通信を受信しました」
画面には、六つの狐面を並べたような記号が表示されていた。
マサカゲの表情が変わる。
「場所は?」
「エッフェル塔から、約二キロ。古い地下施設の入口付近です」
「狐面の六人がいる?」
「可能性があります」
カキはすぐに車へ向かって走り出した。
「行こう! Kさんを探して、狐面も捕まえる!」
「順番が逆だ」
マサカゲが続く。
「まずは暗号の確認だ。K-Tがこの事件を追っているなら、そこに手がかりがある」
五人が車へ乗り込む。
その直後、別の通りではK-Tがパトカーへ戻っていた。
ルノーが端末を確認する。
「地下施設周辺で、不審な通信があるそうだ」
「向かう」
K-Tはシートベルトを締めた。
パトカーが走り出す。
五人の車も、ほぼ同じ方向へ向かっていた。
ただし、五人はK-Tを追っているつもりだった。
K-Tは事件を追っていた。
そして二台の車は、またしても同じ場所を目指して進んでいく。
カキが窓から身を乗り出す。
「待ってろ、Kさん!」
その声は、前方を走るパトカーには届かなかった。
K-Tは無線に耳を傾けている。
『地下施設付近で、狐の仮面をつけた人物を確認』
K-Tの目が細くなった。
「現場へ急ぐ」
同じ頃、地下施設の入口では、狐の仮面をつけた人物が一人、道路の向こうを見ていた。
近づいてくるパトカー。
その後方から、猛スピードで迫る五人の車。
仮面の人物は、わずかに首を傾けた。
「来たのは、警察だけではないようだ」
車内のカキが叫ぶ。
「Kさん、今度こそ見つけた!」
しかし彼が指差していたのは、パトカーではなく、地下施設の看板だった。
K-Tは、まだ五人に気づいている。
五人は、まだK-Tに気づいていない。
そして狐面の六人だけが、二台の車が近づいていることを正確に把握していた。
コメント
1件
ああもう、今回はすれ違いがもどかしくて胸がぎゅっとなりました…!エッフェル塔の下で、パトカーの中のK-Tさんと五人が本当に紙一重で交差してるのに全然気づかないもどかしさ。カキくんが「Kさんは制服が似合うんだ!」って断言するところ、思わず笑っちゃいました。でも一番ぐっときたのはミステーさんの「一時的なものが、ずっと立っている」って台詞。K-Tさんが帰るつもりで長くいるのかどうか、って五人の不安がじんわり滲んでて…。そしてラストの二台が同じ場所へ向かう構図、次が気になって仕方ないです!