テラーノベル
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エッフェル塔を離れた五人は、狐面の暗号通信が確認されたという地下施設へ向かっていた。
ただし、目的地へ向かう車内は、落ち着いた捜査車両とはほど遠かった。
「もっと速く!」
カキが後部座席から叫ぶ。
「制限速度を確認している」
運転中のメバルが答える。
「でもKさんが先に着いたらどうする!」
「K-Tは事件を追っている。私たちが先に着く必要はない」
「先に着いたほうが、Kさんを見つけられる!」
マサカゲが助手席で地図を確認する。
「そもそも、K-Tが同じ場所へ向かっているとは限らない」
「でも、さっきのパトカーはこっちへ走っていった!」
「それだけでは根拠にならない」
「パトカーが事件現場へ向かうなら、Kさんも向かう!」
「K-Tが乗っていると決まったわけではない」
アオノが端末を操作する。
「先ほどの車両は、私たちと同じ方向へ移動しています」
「ほら見ろ!」
「ただし、パリ市内の道路は複数の区域へつながっています。目的地が同じとは限りません」
「アオノまでマサカゲみたいなことを言う!」
「事実を述べています」
ミステーは窓の外を眺めていた。
「狐の声がする」
「どこから?」
メバルが尋ねる。
「たぶん、あの屋台の鍋から」
「それは料理の音だよ」
「狐も煮込まれているかもしれない」
「いないと思う」
五人の車は、地下施設の入口に近い通りへ入った。
そこは観光地から少し離れた場所で、通行人も少ない。古い建物の壁に囲まれた道路の一角に、工事用の柵と立入禁止の看板が設置されている。
その向こうに、地下へ続く階段があった。
アオノが端末を確認する。
「暗号通信の発信地点は、この周辺です」
「よし、降りるぞ!」
カキがドアを開けた。
メバルが腕をつかむ。
「待って。ここは立入禁止区域だよ」
「狐面の六人がいるかもしれないんだぞ!」
「だからといって、勝手に入っていいわけじゃない」
「でも、Kさんなら入る!」
「K-Tは警察の任務で入るんだと思う」
「じゃあ、俺たちも警察みたいに入ればいい!」
カキは車から降りると、道路の真ん中へ出た。
「警察です! Kさんを探しています!」
「それは警察の名乗り方として最悪だ」
マサカゲがすぐに引き戻した。
しかし、時すでに遅かった。
通りの向こうから、一台の警察車両が近づいてきた。
車内には、二人の警察官が乗っている。
運転しているのは、ルノーだった。
助手席のK-Tは、防護ヘルメットを被り、防弾ベストを装着している。地下施設での警戒任務に備えた装備だ。
ヘルメットの前面には透明なバイザーが下ろされ、顔の輪郭はほとんど見えない。
K-Tは前方にいる五人を見た。
カキが両手を広げ、道路の中央で何かを叫んでいる。
メバルは彼を押し戻し、マサカゲは地図を持ったまま周囲を見回している。アオノは端末を掲げ、ミステーは工事用の看板に話しかけていた。
「……またいる」
K-Tが言った。
ルノーが速度を落とす。
「今度は何をしている?」
「騒いでいる」
「それは見れば分かる」
「不審な行動だ」
「では、職務質問をしよう」
パトカーが五人の前で停車した。
ドアが開き、ルノーともう一人の警察官が降りてくる。
もう一人の警察官は、背が高く、肩幅も広い。口元には深い皺があり、無言で立っているだけなのに周囲の空気が重くなった。
カキはその姿を見て、一歩後ずさった。
「強そうだ……」
「声を小さくして」
メバルが囁く。
強面の警察官が、フランス語で何か尋ねた。
五人は黙り込んだ。
アオノが翻訳端末を起動する。
『あなたたちは、ここで何をしている? 身分証を提示しなさい』
機械音声が、妙に低く響いた。
「俺たちは怪しい者じゃありません!」
カキが叫ぶ。
強面の警察官の眉が動いた。
翻訳端末が続ける。
『私は怪しい者ではありません』
「それを自分から言う人は、だいたい怪しいと思われるよ」
メバルが小声で注意した。
マサカゲは身分証を取り出した。
「我々は旅行者だ。騒ぎを起こすつもりはなかった」
「騒ぎを起こすつもりはありませんでした!」
カキが大きな声で繰り返した。
強面の警察官がカキへ近づく。
カキはさらに一歩下がった。
「何だ?」
マサカゲが尋ねる。
「俺、何かしたか?」
「さっき道路の真ん中で、警察だと叫んでいた」
「それはKさんを探すためで――」
カキは途中で口を閉じた。
強面の警察官が、再び低い声で質問する。
端末が訳した。
『誰を探している?』
「Kさんです!」
カキが即答した。
メバル、マサカゲ、アオノの三人が同時に顔を覆った。
ミステーだけが頷く。
「大切な人なのだろう」
「そういう問題じゃない」
ルノーが英語を交えながら、五人に事情を尋ねる。
アオノが端末を操作し、狐面の記号と通信記録を見せた。
ルノーの表情が変わった。
「狐の仮面?」
K-Tはその言葉を聞き、車内から五人を見た。
防護ヘルメットのバイザー越しに、カキの顔が見える。
だが、カキはK-Tの方を見ていなかった。
強面の警察官に身分証を確認され、必死に背筋を伸ばしている。
K-Tはヘルメットの下で、わずかに息を吐いた。
このまま名乗り出れば、五人を任務へ巻き込むことになる。
名乗らなければ、職務質問を受けている仲間を放置することになる。
ルノーが車内へ振り返った。
「K-T、この通信記録についてどう思う?」
「現場周辺で確認されたものと一致する」
「彼らは関係者かもしれない」
「可能性はある」
「知り合いでは?」
K-Tは五人を見た。
カキは強面の警察官に向かって、なぜか両手を頭の上に置いている。
メバルがそれを下ろそうとしている。
マサカゲは身分証の説明に苦戦し、アオノは翻訳端末の誤訳を直している。
ミステーは、道路脇の鳩を見ながら呟いた。
「彼は、帽子を被ると別人になる」
K-Tは一瞬だけ沈黙した。
「……知らない」
ルノーが少し意外そうな顔をする。
「本当に?」
「知らない」
K-Tは車から降りた。
防護ヘルメット、防弾ベスト、厚い手袋。普段の姿とは大きく違う。顔もバイザーで隠れている。
カキはK-Tを見た。
だが、その視線は一瞬で通り過ぎた。
「今の人、特殊部隊かな?」
「そうかもしれないね」
メバルが答える。
「Kさんに似ていた気がする」
「ヘルメットを被った警察官は、みんな似て見えるんじゃない?」
「でも、立ち方が――」
「立ち方で判断するな」
マサカゲが遮った。
K-Tは五人のすぐ横を通り、ルノーへ近づいた。
「この五人は、現場周辺から移動させるべきだ」
低い声だった。
しかし、防護ヘルメットとバイザーのせいで、声は少しくぐもっていた。
カキは振り返った。
「……今の声、Kさんに似てなかったか?」
五人が一斉にK-Tを見る。
K-Tは無言で立っている。
メバルがじっと観察する。
「確かに、少し似ていたかも」
「だろ!」
カキが一歩近づく。
「あなた、Kさんを知っていますか?」
K-Tは答えない。
カキはさらに近づいた。
「Kさんは、背が高くて、無口で、ちょっと怖くて、でもはちみつレモンが好きで――」
「カキ」
メバルが止める。
「相手は警察官だよ」
「でも聞くくらいは――」
K-Tは視線だけをカキへ向けた。
カキが固まる。
その目つきは、いつものK-Tとよく似ていた。
しかし、防護ヘルメットのバイザーに反射した光で、顔ははっきり見えない。
カキはしばらく黙っていた。
そして、首を傾けた。
「……怖いけど、Kさんじゃないな」
K-Tの眉が、ヘルメットの下でわずかに動いた。
「なぜ?」
「Kさんなら、もっと怖い」
「比較対象がおかしいよ」
メバルが呆れた。
ルノーは五人の身分証を確認し、立入禁止区域へ入らないこと、道路上で騒がないことを伝えた。
アオノが狐面の通信記録について説明すると、ルノーは現場から離れるよう指示した。
「地下施設は警察が確認する。あなたたちは宿へ戻りなさい」
カキが抗議する。
「でも、Kさんが――」
「その人物が誰かは知らないが、ここにいる証拠はない」
K-Tが低い声で言った。
カキは再びK-Tを見た。
「……やっぱり声が似てる」
「似ていない」
「今、本人みたいに否定した!」
「偶然だ」
メバルがカキの腕を引っ張る。
「もう行こう。これ以上騒ぐと、本当に連行されるよ」
「でも、あの警察官が――」
「Kさんではない」
K-Tははっきりと言った。
カキは少し寂しそうに、K-Tを見上げた。
「そうか……」
五人が車へ戻っていく。
カキは最後まで振り返っていたが、K-Tの顔を正しく認識することはできなかった。
メバルが車を発進させる。
「ねえ、カキ」
「何だ?」
「さっきの警察官、本当にK-Tじゃないと思うの?」
カキは窓の外を見ながら答えた。
「分からない。でも、Kさんなら俺たちを見たら、絶対に何か言う」
その後ろで、K-Tはパトカーへ戻っていた。
防護ヘルメットを被ったまま、五人の車を見送る。
「……言った」
ルノーが隣で尋ねる。
「何を?」
「帰れ、と言った」
「あれで伝わったとは思えないが」
「いつものことだ」
K-Tは地下施設の入口へ視線を向ける。
工事用の柵の奥から、かすかな物音が聞こえた。
狐面の六人が、まだ近くにいる。
そして、五人もまた事件の近くにいる。
K-Tはヘルメットのバイザーを下ろし直した。
「現場へ入る」
その頃、車内ではカキが叫んでいた。
「次は、あの強面警察官を追うぞ!」
「やめて!」
メバルの声が、パリの街に響いた。
パトカーは地下施設へ向かう。
五人の車は、その後を追う。
しかし五人は、追っている相手がK-T本人だとは、まだ気づいていなかった。
コメント
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美月ゆめかだよ〜🌸 第3話読んだよ!! もうね、カキが「警察です!Kさんを探してます!」って叫ぶシーン、バカ可愛すぎて草wwww 仲間たちが一斉に顔覆うの、正しい反応すぎて笑った😂 強面警官にビビって後ずさりするところも含めて、カキの純粋さが光ってたな〜 でもさ、この話の一番の胸キュンはやっぱり、ヘルメット被ったK-Tが「知らない」って言うとこだよ…😭 名乗り出たいのに任務優先するところ、プロだ…。しかもカキが「Kさんならもっと怖い」って言ったときのK-Tの「なぜ?」がめっちゃツボだった!そうだよな、比較対象おかしいよなww 仲間たちが本人のすぐ近くにいるのに気づかないもどかしさ、次の展開が気になる!次も楽しみにしてるよ⋆♡
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K-Takasaka
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