「アァ?何だ、もう広がってンのかよ其の噂」
「本当だったんだね。其の噂は」
「嗚呼。まァ、隠す心算も無かったから別に善いんだがな。ほらよ、此れが拾ってきた芥川だ」
「へえ……此の子供がねえ……」
太宰は芥川をジロジロと無遠慮に見ている。芥川が居心地悪そうに目を細めた。
「ちゅーや」
突然名前を呼ばれた。何だ、と答えると、太宰が云い難そうに一言。
「……もしかして、中也って…ショタコン?」
そう云った太宰を無言で殴った俺は悪くないだろう。
「芥川く~ん」
「……はい」
「此の服って中也が選んだの?」
「……はい、恐らく、?」
「ええ……趣味悪ぅ……。こんなフリルたっぷりの服を選ぶだなんて、……そういう趣味でも有るのかなぁ??」
何ていう会話が聞こえてきた。心外である。抑も、前の世界で選んだのは手前だぞ、何て云える筈もなく。
「別に、芥川の異能を使う上で布面積が多い方が善いと思っただけだ」
と答えておいた。断じてそういう趣味が有る訳ではない。断じて。
暫く経って、芥川に絡んでいた太宰は漸く帰っていった。傍迷惑な奴である。人の事を変態扱いしやがって。
「芥川ぁ、大丈夫かァ?」
「…………はい」
いきなり知らない奴と会話をしていた所為で、長時間気を張っていた為疲れたようだ。心なしかぐったりしている様に見える。
白いフリルシャツに黒い細身のズボンを履いている芥川は、幼さや髪が長いことも相まって、少女の様だ。
後ろ髪はまだ善いが、前髪が長いと色々不便だろう。前髪切っても善いか、と訊くと、はい、と返ってきた。ついでに後ろ髪を如何するか訊くと、僕荷は判らぬ。中也さんのお好きな様に、とのことなのでそのままにしておくことにした。
「んじゃ、切るぞ。危ねェから動くなよ?」
「承知」
少しだけ髪を濡らして切りやすくする。興味が有るのか大きな瞳でじっと此方を見てくるので少々居心地が悪いが、順調に切っていると、
「あ」
ジョキッ、と鋏の音がしたと同時に、切りすぎた前髪が足元に落ちる。彼奴の前髪は短くなってしまう運命にでもあるのだろうか。
芥川は如何したのだろうかと俺を見つめている。前の世界では彼奴は気にしていなかったが、此の世界ではどうであろうか。
俺は一先ず切りすぎてしまった前髪を整え、芥川に無花果を買ってくることを決意したのだった。
コメント
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せっかくなら太宰さんも芥川にデレデレになってしまえ!✨