その日から僕達は少しずつ言葉を交わすようになった。
意外と気が合って、下の名前で呼び合うくらいの仲までにはなれた。
何より那炉くんが優しくて、僕が話しかけづらいというのを見透かしているようなタイミングで僕の方に来てくれるのだ。
まだ初めて話した時のような感覚は思い出せていないけど、那炉くんといるとなんだか他の人とは違った雰囲気がする。感覚?なんていうんだろう。僕にも感情が分かればいいのに。
そして、那炉くんと初めて2人で下校したときのこと。
『ね、栖跊くんてさ、おうちではなにしてるの~?』
「うーんなんだろう、動画みたりとか、音楽聴いたりとか、?」
『へえ!なんか栖跊くんって感じはしないかも』
「え、そう?じゃ、那炉くんは何してるの?」
『僕もそんな感じだよ!僕の場合は好きな配信者さんとかもいるし…』
「そうなんだ、ちなみになんて人?」
『うーん、まだあんまり有名じゃないと思うんだけど、知ってるかな…』
『“ スマイリー ” ってyoutuberさんだよ』
「?!!」
「へ、へえ、そうなんだ!聞いたことはあるかもしれない、」
聞いたことがあるどころじゃない。
なんにしろ、「スマイリー」は “ 僕自身 ” なのだから。
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「はいどーもースマイリーでーす」
液晶画面に映るイラスト。流れる音声。
これは間違いなく僕の動画だ。
YouTubeを始めたのは思いつきで、喜んでくれる人がいたらいいなーと思いながら投稿を開始した。
最初はスプラトゥーンなどを主にしたゲーム実況系のチャンネルにしていたけど、コンセプトが裏技やバグを紹介するものだったので、なかなかネタの尽きが早い。
そしてあまり伸びず、モチベーションもそこまで無かったので、僕は雑談や紹介系のチャンネルに切り替えた。
最初はゲーム実況目的でチャンネル登録してくれていた人から解除され、辛辣なコメントなども来たけど今は落ち着いてきていて、応援してくれている声の方が多くなっている。
まだ登録者は1万人に達するかどうかくらいだ。これでも勿論たくさんの人に応援してもらえていて有難いけど、目標は100万人かな…なんて。
そして質問コーナーの動画を撮っていた時。
青い鳥のリプで沢山の質問が来る。その中には、
『スマイリーさんって結婚しないんですか?あ、てか彼女……失礼しました』
『定職探したりしてます?このままだったらニートまっしぐらですよ』
「いや、なんだコイツ!」
軽く流した様にツッコむが、結婚や仕事のトークには内心ちょっと疲れたりする。
でも僕も他人事じゃない、ってのは分かってるから受け止めなければいけない。
高校生では少し気が早い気もするけど。
僕の将来……かあ。
とりあえず、感情が理解できるようになりたいなあ。
そんな風にぼんやりとしか考えられないけど、僕が取るに足らない事で悩むのはきっと産まれる前からの定めだ。
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『…くん、栖跊くん、?』
「あぇ、あ、那炉くん!ごめん!なんか言った?」
『ああいや、なんかぼーっとしてたから!』
「ごめんごめん、考え事してた」
『そっかあ、たまにあるよねえ』
「うんうん」
上手く切り抜けられたかな。
流石に “ 僕がスマイリーだ ” とは言えないし信じて貰えないだろう。
那炉くんが心配そうに僕を見つめている事には気付かず、また僕はそう考えていた。
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コメント
4件
最高すぎる…
可愛いな…