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「─いらっしゃいませ。『雨ふる本屋』へ。」
そう言われ未だこの状況が理解できなくて、僕は息の詰まるような感覚に陥った。ぐるぐると思考を巡らせて、「この人もスタンド使いではないのか?」と、そう思った。
だって、よく考えればわかる話だ。僕はホテルに居たはず。それなのにこの「雨ふる本屋」にいるということは、そういうことなのだろう。…だとして、この人が新手のスタンド使いという可能性は低い。…個人的にそう思っただけだけど。
…DIOの刺客は、こんなに僕のことを歓迎しないはずだ。もし遭遇したら、必ず僕のことを殺そうとしてくる。
色々と考えている内に、僕の顔は下を向いていた。無言で、ずっと。僕が脳内でこの人は刺客なのか、そうでないのかを脳内で考えていた。
ふと、こちらになにかが伸びてきた。微かに気配を感じたものの、気にも止めず思考していると、顎を優しく持ち上げられ、女性と目が合う。
「…え、」
僕は目を瞬かせた。彼女の、向日葵のような黄色い瞳が、僕の方を真っ直ぐと、それでいて柔らかな視線を向けてきていたからだ。目をじっと見つめられるのはあまり慣れていなくて、少し恥ずかしいような、くすぐったいような不思議な気持ちになる。…でも一番は、これがいわゆる顎クイというやつであることだった。それに気づいてしまえば、赤面するのはわけもないことだった。
「な…なな、なにをッ、」
たぶん今の僕は、茹でたタコのように顔が真っ赤に染まっているんだろう。普通の人からしたら過剰反応かもしれないが、わかってくれ。僕は小中とまともなコミュニケーションを取ったことがない…自分では言いたくなかったんだけどな。まあ察してほしい。
「きみ、名前は?」
「…花京院…典明、です」
舞々子さんは、僕の顎を掴んでいる手をパッと離して尋ねてきた。 一瞬、本名をいってもいいものかと思案した。
…まあ、そんな危惧はすぐ消え去った訳だが。
「そう、花京院くんね!」
「気にしないで、名前を聞くタイミングを見失ってしまって…」
ふふ、緊張させちゃったかしら?と続ける女性─舞々子さん─は、この雨ふる本屋の店主である、ドードー鳥『フルホン』さんの助手だという。…僕が不思議に思った点はいくつかある。鳥が店主をやっているところとか、人間である舞々子さんが、なぜ鳥に仕えているのだろうとか…。色々ある。 でも、それ以上に不思議な点がひとつある。
─それは、『ドードー鳥は絶滅した』というところだ。僕のいた世界…1988年では、すでにドードー鳥という鳥は絶滅してしまっている。
ではここは、僕のいた世界とはまた別の世界なのだろうか。
「あの」
「どうしたの?花京院くん」
「ここって…一体、何処なんですか?」
ぽつ、ぽつ。シンと静まり返り、天井から雨粒の落ちるだけが聞こえる。特に僕は何も悪いことはしていないはずだが、何か気まずく感じて、居心地が悪くなった。聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか。もしそうなら、申し訳ないことをしてしまった。
「えと…別に、答えたくないのであれば、」
「いえ違うの、ただその…」
答えたくないのであれば無理に言わなくてもいい。そういった旨の言葉を伝えようとするも、もごもごとした声に遮られた。なんだ、別に答えたくないわけじゃあないのか。それにしても、なぜこんなにたどたどしいのだろう。そう思い舞々子さんの方を向く。
ギョッとした。「法皇の緑」《ハイエロファントグリーン》が、いや、僕の後ろにいるハイエロファントが触手を伸ばし、舞々子さんの手、足、腰にぎゅうぎゅうと巻き付いているのだ。…一応言ってはおくが、僕は断じて!自分の意思で動かしている訳じゃないからな!!こんなっ、女性に触手を巻き付けるなど、断じて…。
「なっ、コ、コラ!」
「離れなさい!ハイエロファント!」
「そ、その子、ハイエロファントって言うんですか?」
「あ、いや、…本当はハイエロファントグリーンって言うんですけど、
長いので、僕はハイエロファントって呼んでるんです」
そう言って、はっとした。─舞々子さんは、スタンドが見えている。「その子」といったし。原則として、「スタンドはスタンド使いにしか見えない」というものが存在する。この間出会った家出少女も、スタンドは見えていない様子であった。
だとすれば、僕が雨ふる本屋に飛ばされたのも不思議ではない、か…。
「あ、…花京院君、消えかかってるわ」
「、え?」
声をかけられて驚愕した。消えかかっている?僕が?慌てて自分の体を見下ろす。…本当だ、足の方からだんだん、透けて消えていく。
「花京院くん、ここに来たときは眠っていたのよね?」
「ああ、はい…」
「ここでは一瞬だけれど、そちらの世界では朝になって、 誰かに起こされているんじゃないのかしら?」
「…なるほど」
そう言われ、なるほどな、と思った。もうすでに腹の辺りまで消えかかっている自身の体を見る。この様子では、すべて消えるのも時間の問題だろう。その前に、ひとつ聞いておきたいことがある。
「舞々子さん」
「どうしたの?」
「ここは、結局どこなのですか?」
「ああ…そうね。言うのを忘れてしまっていたわ。」
「ここは、『すきまの世界』」
「すきまの、世界…」
そう呟いて、なんだか、初めて聞く言葉のはずなのに、妙にしっくりくるような…。もとから知っていたものを忘れてしまって、それを思い出したような、そんな満足感に包まれた。
舞々子さんが言うに、『すきまの世界』とは、誰かの想った物語が忘れ去られ、必要ではなくなった物語たちが生まれ、そこに存在する。…そんな世界だそうだ。ここは僕らの生きる現実ではなく、また別の世界…らしい。
その話を聞き終える頃には、僕の体は、もう胸から下が消えていて、でも下に落ちることはなく、宙に浮いていた。
「そう…なんですね」
「なんだかすごく、幼少頃を思い出しました」
「ふふ、もしかしたら、花京院くんの創った世界もあるかもしれないわね」
「…ですね」
「…舞々子さん、どうやら、もうお別れのようです」
「そうね…ああそうだ、これを渡しておくわ。」
「これは…?」
そう舞々子さんから手渡されたのは、桃色のカタツムリだった。
「なぜ、これを僕に…」
「それはね、そちらの世界と、雨ふる本屋をつなぐ鍵みたいなものよ」
「本当は、そのカタツムリを追ってここに辿り着くんだけど…」
「花京院くんは特殊だったみたいね。」
「へえ…では、またここに来てもいいんですか?」
「ええもちろん。でも、次くるときはフルホンさんがいると思うわ」
「是非とも、大歓迎ですよ。会ってみたいなあ…」
「…花京院くん、またね」
「舞々子さん…ええ、また今度。」
そんな言葉を交わして、視界が暗転した。
───
─院、花─院、…
「花京院!起きろ!」
はっ、として起き上がる。 ここは…
「…ポルナレフ」
「そうだぜ、花京院。てゆーかオメー、目覚め悪すぎるぞ?!」
「なんッかい叩いても起きねえし…」
ぶつぶつとぼやいているポルナレフを他所に、さっきみた夢を思い出す。なにか、夢を見ていた。どこかの本屋で、誰かと談笑している夢。…名前は…なんだったかな。
うつむいて考える僕に、ポルナレフが声をかけてくる。
「なあ花京院。」
「なんだ」
「思い出したんだけどよー、さっき、外にピンク色のカタツムリが居たぜ!」
すっげー珍しいと思わねーか!?と、興奮して話す様子のポルナレフとは相反して、僕は固まってしまった。
…夢の中で、桃色のカタツムリをもらった気がしたからだ。舞々子さんからもらった──雨ふる本屋の鍵となる、桃色の。
…そうだ、思い出した。僕は雨ふる本屋で舞々子さんとあって、それで、…。
あのカタツムリを、取りに行かなければ。
「ポルナレフ、それはどこだ?」
「え?えぇっとぉ…このホテルの、裏側だったと思うぜ!」
僕が食いついてくるのは予想外だったのか、少し驚きながら教えてくれた。まあ、いつもの僕ならこんな話はスルーしていただろうからな。
ポルナレフを置いて裏に出ると、本当に桃色のカタツムリを見つけた。もしかしたら、あの出来事は幻だったんじゃあないかと心配していたけど、どうやら本当だったようだった。
葉っぱの上をゆるゆると進んでいるカタツムリを手に取り、ビニール袋にいれる。流石にカタツムリをそのままポケットにいれるのは躊躇してしまった。学ランのポケットがヌメヌメになってしまいそうだし。
もう一度行きたいとカタツムリに手を伸ばして、やめた。まだ、行くべきではないと思った…否、そう確信したからだ。
この事を誰かに話すつもりはない。なぜって?…話したとして、信じてもらえない要因が多すぎる。ドードー鳥がいる本屋とか、その鳥が店主をしているとか…絶対に、信じてもらえないだろう。狂言とか、頭がおかしくなったのか?とか捉えられてしまうだろ。
あと…ただ単に、あの雰囲気が、とてつもなく好きだから。 それ以外に、何か理由はいるかい?
桃色のカタツムリが入った袋を持ち、ホテルの部屋に帰った。
雨ふる本屋、そして舞々子さんのことを忘れないよう、強く、強く思いながら…。
end(仮)
あとがき
ここまで閲覧ありがとうございました!
ちょっとオチに悩んじゃって、雑になっちゃいましたw
あとすいません、1988年に顎クイはないですね…
ほんっとうにごめんなさい!でも修正するのちょっとめんどくさいので
ご都合ということで…。
すきまの世界の説明ちょっとおかしいかもしれないです…
一応本見ながら書きはしましたが…
間違っていたらごめんなさい!!
もしかしたら!他のキャラも雨ふる本屋に行くかも知れないですねー
改めて、閲覧、ありがとうございました!