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「ただいま」
夕飯の良い香りを嗅ぎながら、でも心は暗いままで、リビングに向かって声をかける。すると、いつも通りの「おかえり」が返ってきた。
朝との違いに、どういうつもりなの、と喉元まで出かかったけれど、何とか飲み込む。
今は言葉を選ばないと、話してくれない気がする。
変に慎重になっているせいで問い詰めるタイミングが無く、もう布団に入ってしまった。
独りで目を閉じていると、言が離れていってしまうような感覚に襲われる。どうしようもなく怖くて、不安な気持ちになってしまう。
明日になれば元通りになってるかな、なんて無理やりポジティブに考えて、思考をシャットダウンした。
しばらくして、寝室のドアが開く音が聞こえた。
言が来る前に寝てしまおうと思っていたのに、今日に限って眠れない自分を恨む。
すると、目を閉じたままでいたせいで僕が眠っていると勘違いしたのか、言は僕の頭をそっと撫でた。
「…ごめんね」
「っ、!」
小さく零された声は、確かに震えていた。
咄嗟に起き上がると、言は状況を飲み込めない様子で硬直した。
「……え、起き、」
「…っ何で謝るんだよ」
気がつけば、僕の声も震えていた。
「僕が何かしたんだったらごめん。嫌な所とか直すし、別のことで悩んでるなら一緒に考えるから。…っだから、離れていかないでよ、!」
「え、あ、…えっと、」
「っ言ちゃんが居なくなったら、僕どうすればいいのかわかんないよ…」
視界がぼやける。
こんなに重いこと言うつもり無かったのに。
顔が上げられなくて、シーツに水滴が落ちる。
「…あの、さ。多分、勘違いしてるんだと思うんだけど…」
無意識に固く握りしめていた手を優しく握られる。
「離れるとかそういうんじゃなくて、むしろ僕が嫌われたくなくて…」
「?何で、」
予想外の言葉に、弾かれたように顔を上げる。
すると、いつもと雰囲気が違う瞳と視線がかち合った。
「……嫌いにならないって約束する?」
「っならないよ、なる訳ない」
目を逸らさずに頷くと、言は覚悟を決めたかのような表情で口を開いた。