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歩道橋

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歩道橋

1 - 第1話

♥

14

2025年05月25日

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いつも通り、定時に退勤しよう。


パソコンのシャットダウン。

机上の書類やペンを手早にまとめ、鞄にしまう。

椅子から立ち上がり「お疲れ様でした」と言い、会社を出る。


これが毎日だ。

いつも通りの、何も変わらない。


無造作に、眩しく、絶え間なく輝くビルの明かり。

帰宅ラッシュでたくさんの人が行き来する、歩道橋の上で一人。

「…今日の夕飯、どうしようかな。」


時刻は午後六時半。

良い感じの夜食時。

自炊をしようか、どこかで買って帰るか、それともどこかで食べるか。


そんなことをうだうだと考えていた。


「はぁ、つまらなかった。」


抑揚のない、少年のような声が聞こえた。

声の方を振り向くと、声の通りの少年がいた。


「こんなものなのか。なんだ。」


少年は動き出す。

歩道橋のガードパイプを這い上がり、立ち上がる。


_だめだ。


気付くと俺は動き出していた。


少年をガードパイプから引き剥がす。

わっという少年の情けない声と共に、尻もちをついた痛みが走る。


「っ!なにすんのさ!」

少年はキッとこちらを睨んで言う。

「お前こそ、何をしている。」

「……自殺だよ。」


思った通りの返答だ。


「もう嫌なんだ。だから、死のうと思ったのに…。」


何の光も伺えない少年の瞳は、もっと深く、何も無い場所の景色を移すように暗かった。

闇とか、夜とか、在り来りな表現では表せない。

唯一近いものは《無》。

私はそれに怯えた。

だって、それは、あまりにも。


「おにいさんは、自殺なんて馬鹿がやることとか思ってるんでしょ?」

「…」

「いいよ。分かってるし。」

「…なぜ、死のうとしたんだ。」


立ち上がり、ズボンに着いた砂やら泥やらを手で払いながら少年に問う。


「…この世界と僕は、さいっこうに相性が悪い。 」

「そんな世界で生きていくのは、あまりにも苦し過ぎる。」

「それに、僕には才能も、生きてて利益も無い。」

「何の希望も無いのさ。」

「…だから、終わりにしようと思った。」

「何かおかしい?」


少年はコテンと首を傾ける。

涙も出さず、悲しいような顔もせず、ただ、ほんの少しの笑みで、こちらを見透かしたような顔をして、こちらを見る。


「…いや、おかしくない。」

「なら死なせてよ。いい加減疲れたんだ。」


少年の苦しい思いは分からない。

少年は、死を望んでいる。

先程はつい動いてしまっていたが、自分で望んでいるのなら良いのではないだろうか。


私は荷物を手に取り、静かに少年から離れた。

死にたいのなら、死ねばいい。

私が止める権利は無い。

だが、あんな足枷があるまま死ぬのは見ていられない。

あの子がいる世界は、何も無さすぎる。


「少年、着いてきなさい。」


そう言って少年の手を取る。


「えっ、ちょ!おにいさん!?」

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