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少年の手を引いて、ずかずかと歩き続ける。
「う”〜、離してよ!」
必死に抵抗しようとする少年に見向きもせず、ただただ引っ張る。
それから数分経つと、諦めたのか、大人しく引っ張られて行った。
「着いた。」
「…ここ、どこ?」
ここは先程の場所からほんの少し離れた、公園だ。
…といっても遊具は撤去され、あるのはベンチとジャングルジムだけだった。
公園の横には廃れた家屋が並び、一見おぞましく思えるだろう。
だが、私には何か惹かれる美しさを見た。
しかも、ここはそんなおぞましい場所だが、おぞましくはない。
「ここは公園だ。」
「ふうん…。にしても、だいぶ古い公園だ。」
「ジャングルジムも、表面が錆びつつある。」
「だな。そこが美しいんだ。」
そう言葉を放つと、少年は驚いた顔をして変なのと呟いた。
俺はあの景色を見ようと、ジャングルジムを登った。
「いい大人がジャングルジムになんか登って、何する気?」
何も答えないでいると、少年も登ってきた。
そして、私の横にすわり目を大きくして「…へぇ、なるほどね。」とまたまた抑揚の無い声で発した。
廃れた家屋の間から見える、都会の光。
そして、囚われない光を放つ星。
それを守護するように鎮座する月。
それは、あまりにも美しくて、虚しいものだった。
それから数分が経過した。
二人とも、何も話さなかった。
「これを、お前に見てもらいたかったんだ。」
「美しくないか?」
「…『美しい』か。」
「…お前はどう思う。」
「僕はただ、『悲しい』と思うな。」
「そうか。」
「でも、良いものが見れたよ。時間の無駄ではなかった。」
少年はあの悲しさを放つ景色を見ながら、そう言った。
「では、俺は帰る。」
「そっか、さよなら。 」
「…死ぬ気か?」
「さあね、分からない。」
「どうしようと、僕の勝手じゃない?」
「そうだな。」
「あ、でもこれは聞いておかないと。」
「おにいさん、名前は?」
「俺の名前は須藤 新道。」
「すどう、あらみち…ね。意外と不思議な名前をしているね。」
「そうか?」
「お前こそ、名前は?」
「堀野屋 心だよ。ほ、り、の、や、こ、こ、ろ!」
「分かった分かった。声が大きいんだよ…。」
「ごめんごめん。」
「そろそろ、僕は帰るよ。もう寝る時間だ。」
時計を見ると、針が午後8時を示していた。
寝るにはまだ早い時間だが、良い子は寝る時間か。
「では、さよなら。あらみちおにいさん。」
少年はくるっと後ろを向いて、手をひらひらさせた。
「…さよなら。あ、死ぬなよな。」
そう言うと、少年は手をポケットに突っ込み、こちらを向く。
そして、少し笑った。
あの少年と_心とまた会えるだろうか。
まあ、死を望んでいたのだから、あの後死んでもおかしくない。
あの景色を見た後に死ぬのはなんとも言えぬ気持ちで死ねるだろう。
まあ、どっちみち俺には関係ない。
あの少年が言った通り、どうしようが心の勝手だ。
私はその後、某寿司チェーン店で夜食を食べ、家に帰った。