「光神。ワタシは影神じゃない。さ、ワタシを刺して」 炎に焼かれた両手で、光神の手を握る。その目は悲哀に満ちた天王星だった。
───自分の手が焼かれる前に影神を殺さなければ。
そう思えば、光神の行動は早かった。握られた炎を纏ったままその躯体を引き裂き辺りを紅に染める。しかし、まだ信じられない光神は狂い、跡形もなくありとあらゆる肉を引き裂いていった。
「あ……あ、ごめ、なさ…」
そしてようやく気付く。これは、怪異じゃない。我が姉、影神だった。しかし、身体はほぼ焼き尽くされ残るは顔だけだった。
───自分はなんてことを…
怪異と思っていたのが本当は影神だった。もう、判らない。
とうとう顔も焼かれてきた頃、光神は自分の意思で心臓を貫き、死を選んだ。
***
───立花光神という女は花に例えるならば“櫟”だ。白が似合い、可憐ながらもどこか儚い。
席番を貰うほどの怪異となった今でも“櫟”がとても似合う。そんな彼女の生前はとても恵まれ、良い生活を送っていた。が、それは、高等部三年で崩れ落ちる。
────いつも通りの生活。
────いつも通りの人々。
────いつも通りの祓い任務。
それが続くと思っていた。永遠に。
***
いつも通り立花姉妹は祓い屋としての仕事を終え、家に帰るところだった。しかし姉の影神の姿が見えない。怪異はあっさり倒してしまったし、今のところ新たな怪異の気配はしない。だがまあ、姉のことだ。万一怪異が現れても簡単に片付けてしまうだろう。が、やはり心配なものは心配だ。
やっぱり捜しに出ようか。と思っていたその時、先程までいなかったはずの姉が光神の後ろにいた。そのような気配も感じなかった。些か疑問を持つが怪異が化けている感じはしない。姉だろう。
「影神、どこ行ってたの?」
「ん?…怪異の気配がしたからちょっと。でも勘違いだったようだわ」
ふーん…とどこか浮かない返事をした。そんな気配はしなかったが微妙な気配はあるのだろうか。それとも別の何かか…
心なしか、姉の様子が変に感じる。ただ、任務後で感情が高ぶっているだけで考えすぎなのかもしれない──
***
───────全てが赦されたなら。
立花家次女・立花光神。その罪は、運命を変え、死を選んだこと。今日から、かもめ学園、七不思議・隠し席番、零番目に任命する。
「学園七不思議、隠し席番が零番目。十三時の扉の生を司る管理人、零よ。これからよろしくお願いしますね、我らが首魁…七番様」
「死の意味」