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国会の騒ぎから一時間後、私は国会議事堂にある貴賓室でのんびりと過ごしていた。ばっちゃんを泣かせるなんてある意味すごいよ。そして、ばっちゃんの気持ちを知って私も泣きそうになったのは秘密だ。取り敢えずフェルに後を任せて私は美月さんを待っている。
異星人であるばっちゃんを泣かせたことは議会でも大問題になっているみたいで、しかもそれがリアルタイムで全世界に配信されたものだから大騒ぎだ。
何だか先日も似たような事があったし、多分ばっちゃんとアリアが動いたんだろうなぁ。
しばらくぼんやりしていると、美月さんが部屋へ入ってきた。一時間ぶりなんだけど、随分と疲れているみたいだ。
「ティナちゃん、今回は……本当にごめんなさい。妹さんにも酷いことをしてしまったわね……」
頭を下げる美月さんに、私は慌てて立ち上がった。てぃな
「そんな、頭を上げてください。ああいう人が居るのはちゃんと分かっていますから!」
具体的には前世で何度も目にしたニュースとかで。政治の世界には色んな人が居るんだし、主義主張の自由は認められている。むしろああ言うことを言えるってことは、言論の自由が生きている証拠だと思ってる。自由がなければ、そんな発言は出来ないからね。
「そう言ってくれると嬉しいわ。妹さんは……?」
「プラネット号に戻りましたし、今は落ち着いていますよ。フェルも一緒ですし、私からも色んな人が居るって伝えておきますから安心してください」
まあ、ばっちゃんには無用なことだとは思うけどね。
「そう……また来てくれるかしら?」
「それはもちろん。だけど、ああ言った場はもう……」
「ええ、それは当然だわ。まさかあんな質問をするとは思わなくて……事前に提出された内容とは違ったから私達も対応が遅れてしまって……いえ、これは言い訳ね。本当にごめんなさい。私の不手際だわ」
そう言ってまた美月さんは頭を下げた。うーん……。
一歩踏み込んで、美月さんの手を取る。
「謝罪は確かに受けとりました。それに、美月さん達が歓迎してくれているのはちゃんと伝わりましたから」
手を握って笑顔で伝えると、美月さんも弱々しいけど笑ってくれた。
「ありがとう……貴女は変わらず優しいままなのね」
「私は変わりませんよ、美月さん。貴女が総理大臣になっていたのはビックリでしたけどね」
転生してからはどこかで幸せに生きていてくれたらなぁ、なんてぼんやり考えていたけど、蓋を開けてみれば日本史上初めての女性総理大臣だ。
「ふふっ、貴女に救われた命だもの。無駄にはしたくなくて我武者羅に頑張っていたらこうなっていたわ。運も良かったわね」
アリアが調べてくれたけど、ちょうど美月さんが政界入りした頃、いくつかのショッキングな事件が起きて、いじめ問題が大きく取り沙汰されたらしい。
自身も自殺寸前まで追い詰められた経験がある美月さんは率先してこの問題に取り組んで、いつの間にか党の重役に。そして総理大臣になったんだとか。
運が良かったなんて謙遜してるけど、運は掴むものだと個人的には思ってる。彼女は運を掴んだんだ。
「そんなことはありませんよ、美月さんが頑張ったからです。私も嬉しいですよ」
本当に嬉しい。
「ありがとう、ティナちゃんにそう言って貰えれば報われた気持ちになるわ。だからこそ、今回の件は尚更申し訳無く思っているのよ。なにかお詫びできないかしら?」
真面目だなぁ。いや、誠意を示してくれているんだ。ここで断ったら、美月さんを困らせてしまう。うーん……よし、何気無いことではあるけど、自分の些細な夢を叶えてみようかな。
「じゃあ、日本国内で自由に飛んで良いですか?」
「飛ぶ?あっ……」
美月さんは私の翼を見て納得した様子だ。そう、故郷の空を自由に飛びたい。
地球との交流を始めた頃から密かに思い描いていた些細な夢だよ。まあ、あちこちで飛んでるけど、やっぱり許可を貰えた方が気軽だ。私だってやらかしてばかりではないのだ。
「……そうね、貴女達にとって空を飛ぶのは当たり前のことだもの。我慢を強いるのはよくないわね。分かったわ。日本の領域なら好きに飛んでもらって良いわよ。もちろん、妹さんやフェルちゃんもね」
美月さんは笑顔で了承してくれた。良かった、このくらいならお互いに損はない筈。
この時ティナは勘違いをしていた。国土を自由自在に飛び回れる許可など普通ならば恐ろしくて許せる筈もない。何せどんな場所にも自由に行き来できることを認めてしまうようなものだ。あらゆるプライバシー、セキュリティをさらけ出すことを要求するようなものであるが、|ティナは気付かない《いつものこと》。
「ただ、これから交流が深まってアードの方が増えたらまた改めてお話しさせてくれる?」
「もちろんです!」
なんとか釘を刺した椎崎首相に対してティナは笑顔で返し、そして窓へ向かう。首相も忙しいだろうから長居はしない方がいいと言うティナなりの配慮なのだが。
「では美月さん、また会いに来ますね。明日の正午に改めてフェルとティリスも連れてきますから」
「ありがとう、この部屋に来てくれたら他には誰も居ないようにするから安心して」
「はい、それではまた明日」
「ええ」
翼を広げて空へ飛び立つティナ。その瞬間大歓声が響き渡り。
「……どうやって皆さんの興奮を抑えようかしら?」
国会議事堂前に集まる熱狂した数万の人々への対処を思い、溜め息を漏らした。つまり、やらかしである。
ティナは東京の空を低空でゆっくりと飛ぶ。人々に笑顔で手を振り、ビルの合間を縫うように飛んでは大勢の人を驚かせていく。そして最後はシンボルのひとつである東京タワーの尖端に降り立つ。
翼を一杯に広げ、息を吸い込むために手も広げながら目を閉じて。
「ただいま」
そう呟いた。
余談だが、その日は生憎の曇りであるがティナが東京タワーの尖端に降り立った瞬間雲の切れ目から陽光が降り注ぎ彼女を照らした。そのあまりにも幻想的な光景は多数の望遠カメラによって撮影されて大反響を呼ぶことになる。
全く余談だが、東京のシンボルのひとつである忠犬ハチ公の像の前で何故か張り合うようにポージングをキメるゴスロリ犬耳カチューシャ装備のレスラーが目撃されて話題となった。
ジャッキー=ニシムラ(当たり前だが網目タイツ)である。