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この日、日本を中心にネット上は幾つもの大ニュースでお祭り騒ぎと化していた。先ずは出迎えた椎崎首相に抱きつくティナの写真や映像である。日本のみならず世界中のメディアが競うように報じて、人々にも衝撃を与えた。日本の首相はいつの間にティナと交流を深めたのか。有識者達はその行動に様々な憶測を飛ばすが。
『はい可愛い』
『許す』
『俺の胸も空いてるよ?』
『鏡見ろ、そして絶望しろ』
一般市民からの反応は概ね好意的である。
次に、日本の国会で行われたティナ達への質疑応答である。当初は非常に和やかな雰囲気のまま進行し、議員達の質問にも笑顔で明るく答えていくティナの様子は見るものに微笑ましさすら与えて議員達も笑顔を浮かべていた。
合衆国ですら成し遂げられていない政治の中枢での交流は、世界中からも注目を集めた。
このまま終わるかと思われたまさにその時、最後に立った野党議員による質疑応答はまさに外交儀礼を完全に無視したものであり、更に初来日を果たしたティナの妹を糾弾して泣かせると言う大問題を発生させてしまう。
今回の来日に先立ち、日本でも交流に否定的ないし懐疑的な政党や議員は存在していたが、大半は世情の流れから下手に主張を行えば薮蛇どころの騒ぎではないと判断。質疑応答の場にでないことで無言の意思表示として自身や支持者達への配慮とした。
だが、全ての勢力がそのような判断を下せたわけではなかった。彼女の政党は新興勢力であり、日本でも有数の左派政党である共栄党の傘下団体が独立した集団である。
それ故に過激な一面があったが、未だに弱小政党ゆえに大きく注目されることもなかった。
だが彼等はこの質疑応答を利用して自分達の存在をアピールし、ついでに異星人に対する疑問や不満をぶつける場であると認識。党内でも過激な論者であった彼女を送り込んだ。
もちろんマスメディアへの根回しは行っており、万が一問題になったとしても政府与党の責任となるように誘導する準備をしていた。
共栄党も最終的に実行を黙認、メディアへの根回しに手を貸した。
しかし彼等は失念していた。相手の幼さや容姿、ヒーロー性ばかりが注目されているが、彼女達は本来自分達では想像も出来ないほどに優れた文明を持つ遥かに格上の存在であることを。
ティナだけだったならば、前世の記憶もあり彼女は聞き流しつつ事を大きくしなかっただろう。現に合衆国でも政府による数々の不手際を彼女は笑いながら許してきた。もちろんティナもやらかしていることもあるが……。
だがしかし、今回はティリスが居るのだ。またティリスが居なくともフェルはティナへの悪意を許さず実力行使を辞さない。スーパーマーケット事件の真相を知る合衆国政府はそれを理解しているから、その様なものを極力近づけないように細心の注意を払っている。
ここで政治的な策謀もあり、合衆国政府は敢えてスーパーマーケット事件の詳細を各国と共有していない。
彼女達を怒らせるような真似をしてはいけないとする一方、その結果どうなったかを機密にしたのだ。そして、その結果は恐ろしい報復であった。
全ての媒体を強制的にハッキングされ、捏造や編集などまるで意味をなさないとばかりに内容をリアルタイムに垂れ流されたのだ。まるで数日前にヨーロッパを中心に発生した大規模ハッキングと全く同じことが起きたのである。
この暴露によって日本の政界は大騒ぎになった。これまでメディアを味方に付けていた者達が軒並み青ざめたのは言うまでもない。
この暴露により攻撃した議員並びに彼女が属する政党は凄まじいバッシングを受けることになる。
しかも内容ゆえに日本だけではなく下手をすれば地球全土の問題へ発展する可能性まであり、各国政府から抗議が山のように届く結果となる。
それから数日かけて野党議員の属した政党は大混乱に陥り、クライアントは離れ共栄党にも見捨てられる結果となった。また政府与党各員もこの件に対する対応に追われ、皆が胃薬を愛用することになるがそれは別のお話である。
最後に大反響を呼んだのは、東京タワーの尖端に降り立ったティナの映像や画像である。翼と両手を広げて目を閉じているティナを、雲の隙間から降り注いだ陽光が優しく照らす。そのあまりにも神秘的な瞬間は誰もが魅了された。
『なにこの神々しさ』
『東京に天使降臨っ!あっ、天使だったわ』
『何で東京タワーなんだ?スカイツリーでも良いだろうに』
『倍近くあるし、飛ぶのが大変だからじゃないか?』
『ビルの隙間を飛び抜けていったよなぁ。いやビックリした』
『手を振ったら振り返してくれたぞ。サービス精神が旺盛にも程がある』
『てか、ボディーガードとか要らないのか?』
『いやぁ、あんなに自由気ままに飛ばれちゃ無理だろ』
『変な奴が現れないと良いけど』
『傷付けることなんて出来ないだろうが、襲われたって事実の方がヤバい』
『どっかのバカがやらかしたせいでバッシングが凄いからなぁ』
『共栄党が声明を出してたぜ?俺らは関係無いとな』
『あらら、切り捨てられちゃったかぁ』
『ふんっ、異星人のやり方は正気を疑うな。好き勝手やりやがって。郷に入っては郷に従えって言葉を知らねぇらしい』
『あっ、共栄党信者さんチーッス』
『郷に入っては郷に従え、良い言葉だな。相手が対等な立場なら』
『いつからアード人が対等だと錯覚したんだ?』
『ティナちゃんが優しいからな、勘違いしたんだろ』
『尚、相手は七日で十万光年を渡航できる模様』
『遥かに格上なんだよなぁ』
『ティナちゃんとフェルちゃんの生足ペロペロしたい(;´Д`)』
『通報……いや処分だな』
『ギルティだ』
『ティリスちゃんは?』
『愛でる。これに限る』
『アード人の生態を調査しているだけだ。邪な考えはない』
『ダウト』
ネットは大盛り上がりである。
そして当事者であるティナは。
「ホテルじゃなくて旅館!?しかも温泉つき!?よし、フェルを呼ぼう。ばっちゃんには留守番して貰お」
日本政府が滞在中の宿として手配したのはホテルではなく温泉つき高級旅館であることを知り、テンションを上げた。
フェルと二人きりの時間を作ろうと企てるくらいには。