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あれから、柊君にも相談し、悩みながらも警察に被害届を出した。
あの出来事は、私の頭の中から1日も早く消したかった。これから柊君と歩む人生に、暗い影をまとうのは絶対嫌だから。
後悔をしないように、ずっと笑顔でいられるように、何があっても1日1日を大切に生きたいと思った。
もちろん、仕事もキチンとこなしたい。
今日も朝から自分に気合いを入れて、ここ、35階立ての立派な高層ビルにやってきた。下から遥か上を見上げると、自然にやる気が満ちてくる。
20階の広いフロア全てをオフィスにしている「IS」(アイエス)は、海外にも支店をいくつか展開しているかなりの優良企業だ。
ここの若き社長が柊君で、奥のガラス張りの社長室で1人PCに向かっている。
そのすぐ近くの部署に私と真奈がいて、いつでも柊君……社長が視界に入る環境にいられることが密かに嬉しかった。
たまにアイコンタクトすると元気になれるし、話す時はいつだってドキドキできた。
「柚葉」
柊君が、コピー機と格闘中の私に声をかけてきた。
「どうしたの?」
「今度の会議の資料?」
「うん。用紙が詰まっちゃって、今直ったから」
「良かった。忙しいとこ悪いんだけど、今日、昼から空港に一緒に行ってくれない?」
会社から1時間くらいのところに空港はあるけど、いったい何の用事だろう?
「う、うん。いいけど、どうして?」
「樹が帰ってくるんだ」
樹……?
「前に話したことあったよね、僕の弟」
「あ、うん。弟さん、樹さんっていうんだ」
「ああ。樹にはずっとアメリカの支社に行ってもらってたんだけど、向こうもだいぶ落ち着いたからね。これからは日本で頑張ってもらおうと思ってる。あいつ、誰よりも仕事できるから」
凄腕の柊君が認めるくらいすごい人……
会ってみたいな、樹さんに。
柊君の弟なら、きっと優しくて素敵な人なんだろう。想像が膨らんで勝手な樹さんを頭の中にイメージしてしまった。
私達は、ビルの中にあるファーストフード店で軽い食事をしてから、柊君の運転で空港に向かった。
「樹さんってどんな人なの? あまり深くは聞いてなかったから」
「そうだったね。まあ、見た目は似てるけど、性格は全く違うかな。あいつは、僕が言うのも変だけど、ちょっと不器用なんだ。会話が苦手みたいだし」
「そうなんだ、確かに柊君とは違うね。だけど、アメリカに行ってたってことは、英語はペラペラなんでしょ?」
「もちろん。樹は僕よりも頭がいいし、英語もネイティブ並み。だから、僕が会社を立ち上げた時に、あいつを誘って、アメリカの支社長になってもらったんだ。思った通りの成果をあげてくれたよ。元々、雑誌のモデルをしてたんだけど、あの性格だから周りと上手くいかなかったみたいで」
「そ、そうなんだ……」
血の繋がりがあっても、性格は似ないんだ。私は一人っ子だから、よくわからないけど……