テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
はれる。
1,755
#初めて
#政略結婚
クリオネ?
1,545
#恋愛
桜咲かな
687
「そうだな、身体の傷はいつか癒えるが心の傷は消えない……そしてそれは受けた者にしか分からない苦しみだな」
「……はい」
「俺にも、お前の心の傷を全て取り除いてやることは出来ない。それが凄くもどかしいと感じている」
「ギルバートさん……」
「それでも、俺はお前に寄り添いたい……少しでもお前が安心出来る環境を作ってやりたい。その為にも、もっと俺を頼ってほしいと思っている」
「私は、今でも十分ギルバートさんを頼りにしていますよ?」
「いや、恐らくお前自身も気付いていないんだろう、お前はまだまだ自分一人で抱えていることが殆どだし遠慮していることばかりだ」
「…………」
「誰にも頼らず一人で生きていかなければならない、そういう環境に置かれていたから仕方のないことかもしれない。俺もそうだったから、よく分かる」
「ギルバートさんも?」
「ああ。俺には頼れる人間はほぼいなかったし、自分の力で何とかするしかない状況だったからな。俺が唯一心を許せていたのはリュダだけだった」
言いながら眠るリュダを撫でるギルバート。
エリスは思う。
彼は、どのような人生を歩んできたのだろうと。
けれど、今それを聞くべきではないと感じ、それを口にすることはしない。
「エリス、今のお前は一人じゃない。俺やリュダが居る。我慢することも無いし一人で背負い込むことも無いんだ。苦しい時は苦しいと吐き出せばいい。辛い時は辛いと言えばいい」
話し終えたギルバートはエリスの肩を抱くと、そのまま自身の方へ引き寄せた。
「俺をもっと頼れ。遠慮はいらない。弱い部分も醜い部分もどんなことでもいい。全てを俺に曝け出してくれ。俺はお前の望むことをしてやりたい」
「…………ギルバートさん……私、もっと求めてもいいんでしょうか? 我儘を言っても、良いのでしょうか? 心にある色々な感情を吐き出しても、いいのでしょうか?」
「ああ、良いんだ。言いたいことは何でも言え。して欲しいことがあれば遠慮せずに言ってみろ。俺で出来ることならばどんなことでも叶えてやる。それに、どんな醜い感情でもお前の全てを知りたい。それを知って嫌いになることなど有り得ないから安心しろ」
ギルバートの元へ身を寄せるようになったエリスは本人も気付かないうちに心のどこかで壁を作っていた。
味方のいない環境で日々を過ごしていれば自然とそうなってしまうのかもしれない。
信じられるのは自分だけ、自分の苦しみや悲しみなんて誰にも分からないと諦めていたのかもしれない。
けれど、ギルバートのくれる言葉や行動にはいつも温かさがあった。
それを感じていたからこそ自分の弱い部分や醜い感情を見せて嫌われてしまうことが怖くて必然的に遠慮をしてしまい、一人で抱え込んでいた。
心のどこかでは、気付いていたはずなのに。
信用出来るのも心を許せるのもギルバート一人だけだということに。
「……私、怖いんです! お父様が殺されたと知ったあの日から、アフロディーテやシューベルトを殺さないと気が済まなくて、夢で何度も見るんです! 彼らを手に掛ける自分の姿を……血まみれの中で笑みを浮かべる自分の姿を……。ここまで人を憎んだのは初めてで、それをセーブ出来ないことが怖いんです……」
そしてエリスはようやく今一番悩んでいたことを口にすることが出来たのだ。
「大切な者を殺されて復讐をしたいと思うのは当然の感情だ。心優しく人を憎まないお前ならば、怒りを抑えきれなくなるのも無理は無い」
「……っ」
「お前が落ち着くまでこうして抱き締めてやる。悪夢に魘されたら俺がすぐに起こしてやる。眠るのが怖いなら共に起きていよう。何も恐れる必要は無いから安心しろ」
ギルバートはエリスを安心させる為に一人では無いこと、いつでも自分が傍に居ることを伝え続けた。
そんなギルバートの言葉に少しずつ不安が取り除かれていったエリスは心を落ち着かせることが出来たのか、乱れていた呼吸が整っていく。
そして、心地良い温もりと気持ちの良い空気に身体も心も癒やされたエリスの瞼は下がっていき、次にギルバートが声を掛けようとした時には規則正しい寝息を立てていた。
それを見たギルバートはエリスを起こさぬよう、すぐ側に置いていたブランケットを手に取ってそれを彼女に掛けると自身も目を閉じた。
コメント
1件
エリスがようやく心の奥に閉じ込めていた本音を吐き出せた瞬間、じんと来ました。「血まみれの中で笑みを浮かべる自分」という告白、ああいう感情を認めるのって本当に怖いことですよね。それを否定せず「当然の感情だ」と受け止めたギルバートの懐の深さに、私も一緒に安心させられました。お互いに傷を持つ者同士がゆっくりと心を開いていく、その距離感がとても美しかったです。