テラーノベル
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数日後。 窓のない、殺風景な施設の部屋。
「……今日からここに来た、東雲彰人くんだね」
職員に促されて入ってきた彰人は、あの日からずっと、魂が抜けたような顔をしていた。服に染み付いたあの匂いは消えても、鼻腔の奥にこびりついた記憶は消えてくれない。
部屋の隅には、先に来ていた一人の少年が座っていた。 整った顔立ちに、どこか冷めたような、でも深い悲しみを湛えた瞳。
「俺は、青柳冬弥。……よろしく」
俺は、自分よりも小さく、ひどく震えている彰人をじっと見つめた。その体からは、言葉にできないほどの絶望が溢れ出しているように見えた。
(……この子も、俺と同じなのか。それとも、もっと……)
俺はそっと立ち上がり、彰人の隣に歩み寄った。何を言えばいいのかは分からない。けれど、放っておいてはいけないことだけは、本能的に理解していた。
「……寒くないか。こっちに、毛布がある」
俺は自分のベッドから毛布を引き寄せると、彰人の肩にそっと掛けた。 彰人の瞳は、まだどこか遠い場所……あの冷たい床の上を見つめているようだった。
「とーや…。…ねぇ、玄関ってどこ?」
俺は、彰人のその突拍子もない問いかけに、小さく眉を寄せた。
この施設に来てからというもの、彰人はずっと焦点の合わない瞳でどこか一点を見つめていることが多かった。そんな彼が、初めて自分に明確な問いを投げかけてきた。
けれど、その言葉の意味を考えると、胸の奥がちりりと痛む。
「玄関……? ここを出て、廊下の突き当たりを曲がれば、大きな扉があるけれど……」
俺は彰人の顔を覗き込んだ。その瞳には、今にも消えてしまいそうな危うさと、何かに縋り付こうとする必死さが混ざり合っている。
「……そこに行って、どうするんだ? 今はもう夜だし、外は暗い。職員の人も、勝手に出たら怒ると思う」
冬弥は、彰人が何を求めているのかを探るように、そっとその小さな肩に手を置いた。彰人の体は、毛布の上からでも分かるほど細く、そして冷え切っている。
(この子は、どこに帰ろうとしているんだろう。……あんなに酷い場所から、やっと逃げてこられたはずなのに)
俺自身も、家という場所が安らげる場所ではなかった。だからこそ、彰人が抱えている「帰りたさ」が、純粋な家への未練ではないことだけは分かった。
「……誰かを、待っているのか?」
「うん、玄関の前で待つだけだよ」
「待つだけ……?」
彰人のその言葉は、まるで自分自身に言い聞かせているかのように淡々としていた。けれど、その瞳の奥にある執着のような光に、俺は言いようのない胸騒ぎを覚えた。
「……分かった。案内するよ」
一人で行かせるのは危なっかしい気がして、俺は彰人の隣を歩くことにした。夜の施設は静まり返り、非常灯の薄暗い緑色の光が廊下を不気味に照らしている。
彰人は、裸足のままペタペタと冷たい床を歩いていく。その背中があまりに小さくて、今にも消えてしまいそうで、俺は思わず彼の手首を軽く掴んだ。
「あそこだ」
廊下の突き当たり、重厚な鉄の扉が見えてくる。そこが、この場所と外の世界を隔てる唯一の境界線。彰人は扉の前まで来ると、床に直接座り込み、膝を抱えてじっと入り口を見つめ始めた。
「……ここで、誰かを待つのか。家族、か?」
俺が隣に腰を下ろすと、彰人は返事をしなかった。ただ、じっと扉の隙間を見つめている。
外からは、遠くを走る車の音や、風が木々を揺らす音が聞こえてくるけれど、この扉が開く気配はない。
(誰を待っているのかは分からない。けれど……あんなにボロボロになって運ばれてきたこの子を、迎えに来る大人がいるとは思えなかった)
静寂が二人を包み込む。彰人の横顔は、まるですべての感情を削ぎ落とした彫像のように無機質だ。
「……俺も、ここにいていいか。一人は、少し冷えるから」
俺はそう言って、彰人の震える肩に、自分の体温が少しでも伝わるように距離を詰めた。彰人は拒むこともせず、ただひたすらに、来ることのない誰かを待ち続けていた。
「いいよ!あのね、オレは絵名を待ってるの」
「絵名……?」
聞き慣れない名前に、俺は小さくその言葉をなぞった。彰人は、さっきまでの虚ろな表情とは打って変わって、少しだけ誇らしげに、そして無邪気な子供のような笑顔を浮かべている。
「……それは、君の家族か? お姉さん、とか……」
俺の問いかけに、彰人は何度も大きく頷いた。
「うん! お姉ちゃんだよ。絵名はお昼寝してるだけだから、目が覚めたらここに来てくれるんだ。約束したんだよ、一緒にパンケーキ食べようねって」
彰人の言葉は、あまりにも真っ直ぐで、純粋だった。
けれど、俺の脳裏には、彼が施設に運び込まれてきた時の凄惨な噂がよぎる。警察の人が話していた、あの部屋の凄惨な状況。
(お昼寝……。彰人は、本当にそう思っているのか?)
目の前の少年が語る「約束」が、もう二度と果たされないものだという現実が、胸の奥を鋭く突き刺す。彰人は、扉の向こうから聞こえるはずのない足音を探すように、耳を澄ませている。
「……そうか。パンケーキ、楽しみだな」
俺には、真実を告げる勇気なんてなかった。
今の彼からその希望を奪ってしまったら、この小さな体は一瞬で崩れてしまう気がしたから。
「……絵名さんが来たら、俺にも紹介してくれるか?」
俺がそう言うと、彰人は嬉しそうにパッと顔を輝かせた。
「いいよ! 絵名はね、すっごく優しいんだ。オレのこと、いつも守ってくれるんだよ」
そう語る彰人の瞳は、暗い廊下の中でもキラキラと光っている。
俺は、彼の隣で膝を抱え直した。いつか、この扉が開く日は来る。けれど、そこに彼が望む姿がないことを知っている俺は、ただ祈るような気持ちで、彰人の細い肩をそっと見つめることしかできなかった。
「…絵名、起こされてないかな?警察の人がね、絵名のこと起こそうとしてたの!」
「警察の人が……?」
俺はその言葉に、心臓が跳ねるような感覚を覚えた。
彰人が言っているのは、あの日、あの部屋に大人が踏み込んできた時のことだろう。彼にとっては、姉を冷たい床から引き離そうとしたあの光景が、ただの「安眠を妨げる迷惑な行為」に見えていたんだ。
「……そっか。それは、大変だったな」
俺は、精一杯声を震わせないようにして答えた。
真実を知っている大人たちは、彼女を「死体」と呼び、証拠品のように扱ったはずだ。でも、彰人の中では、彼女は今もまだあの薄暗い部屋で、ただ眠りについているだけなんだ。
「絵名さんは、きっとよく眠る人なんだな。……彰人を守って、疲れていたのかもしれない」
俺がそう言うと、彰人は少し寂しそうに、でも愛おしそうに目を細めた。
「うん。絵名、オレを隠すとき、いつも一生懸命だったから……。だから、今はゆっくり寝かせてあげなきゃダメなんだ」
彰人はそう言って、大切そうに自分の両手を見つめた。
その小さな手は、もう誰とも繋がっていない。繋いでいたはずの温もりは、もうこの世界のどこにも存在しない。
(……この子は、いつまで待ち続けるんだろう)
冬の夜気が、廊下の隙間から忍び込んでくる。
俺は、自分に巻いていた毛布の端を少し広げて、彰人の背中を包み込むようにして引き寄せた。
「……絵名さんが来るまで、俺が隣にいるよ。彰人が一人で待ってたら、絵名さんも心配するだろうから」
「とーや、優しいね! えへへ、ありがと」
無邪気に笑う彰人の横顔を見て、俺は奥歯を噛み締めた。
この笑顔が、真実を知った瞬間にどう変わってしまうのかを想像すると、恐ろしくてたまらなかった。
「ん…ねむい…」
彰人の頭が、こっくりと俺の肩に落ちてきた。
その小さな重みを感じながら、俺は彼が眠りにつくまで、動かずにじっとしていた。
「……おやすみ、彰人」
そっと囁いて、俺は彼を抱きかかえるようにして自分の膝の上に座らせた。施設の冷たい床の上で寝かせるわけにはいかない。彰人の体温は驚くほど低くて、俺は毛布をもう一度きつく巻き直した。
(絵名さんは、来ない……。彰人がどれだけ待っても、きっと)
眠っている彰人の顔は、どこか怯えているようにも見えた。
うなされているのか、時折、小さな指が俺のシャツをぎゅっと掴む。その力強さに、彼がどれだけあの「お姉ちゃん」を必要としているかが伝わってきて、胸が締め付けられた。
もし、明日目が覚めて、また彼が「玄関に行きたい」と言い出したら。
俺はどんな顔をして、彼をここに連れてくればいいんだろう。
「……俺じゃ、代わりにはなれないかもしれないけど」
俺は、彰人の背中をゆっくりと、一定のリズムで叩いた。
俺の家も、ここも、安心できる場所なんてどこにもないけれど。せめてこの子が眠っている間だけは、怖い夢を見ないで済むように。
遠くで、夜回りの職員の懐中電灯の光が揺れているのが見えた。
見つかれば怒られるだろう。でも、俺は彰人を離すことができなかった。
この小さな温もりを離してしまったら、彼との「約束」まで消えてしまいそうな気がしたから。
カーテンの隙間から差し込む朝日が、部屋の白い壁を眩しく照らしていた。
俺は重い瞼を持ち上げ、隣のベッドに視線をやる。そこには、昨夜玄関先で眠りこけてしまった彰人が、俺が運び込んだ時のまま丸まって眠っていた。
(……結局、朝まであの人は来なかった)
俺は体を起こし、まだ夢の中にいる彰人の顔をじっと見つめる。
夜のうちに職員に見つからないよう、細心の注意を払って彼をここまで運ぶのは一苦労だった。彰人は驚くほど軽くて、抱き上げた瞬間に「ちゃんと食べていたのか」と怖くなったのを覚えている。
「……ん、……えな……」
彰人が小さく身じろぎし、寝言でその名前を呼んだ。
その瞬間、俺の胸に冷たい何かが突き刺さる。朝が来れば、彼はまた昨日の続きを始めるだろう。来ることのない人を待ち、開くことのない扉を見つめる。そんな絶望的な日常が、今日からまた始まるのだ。
俺はベッドから抜け出し、彰人の枕元に寄って、はだけそうになっていた毛布をかけ直した。
「……彰人、朝だぞ」
声をかけると、彰人の長い睫毛が震え、ゆっくりと瞳が開かれた。
まだ寝ぼけているのか、彼はぼんやりと天井を見つめた後、ハッとしたように俺の顔を見て、それから部屋の入り口の方へ視線を走らせた。
「……とーや。絵名、来なかった?」
起きて一番に発せられたその言葉。
期待と不安が入り混じった純粋な瞳に射抜かれ、俺は言葉に詰まる。
「……ああ。昨日は、来なかったみたいだ」
俺がそう答えると、彰人は目に見えて肩を落とした。けれど、すぐに気を取り直したように、自分を元気づけるように小さく笑った。
「そっかぁ……。きっと、まだお昼寝が足りないんだね。絵名、寝坊助さんだから」
そう言ってベッドから這い出そうとする彰人の手は、心なしか昨日よりも小刻みに震えているように見えた。
「もう一回玄関行こ!絵名のこと待とうよ!」
彰人は、まだ着替えも済んでいないのに、小さな足で床を蹴って駆け出そうとした。その瞳には、昨日よりもさらに強い、焦燥感にも似た「期待」が宿っている。
「彰人、待て。まだ朝ごはんの時間だ。……行っても、今はまだ誰もいないと思う」
俺は咄嗟に彰人の腕を掴んで引き止めた。けれど、彰人はそれを振り払おうとする。
「やだ! もしオレがいない間に絵名が来ちゃったらどうするの? 絵名、一人になっちゃうだろ。……約束したんだ。オレがそばにいるって……!」
その必死な声に、周囲にいた他の子供たちが不審そうにこちらを伺っている。けれど、今の彰人には俺の声も、周りの視線も届いていないようだった。
「……分かった。分かったから、落ち着け」
俺は彰人の震える肩を両手でしっかりと抑えた。昨日よりもさらに指先が冷たくなっている気がして、俺は胸が締め付けられる。
「俺も一緒に行く。だから、少しだけ顔を洗って、服を着替えよう。そんな格好で玄関にいたら、絵名さんも『彰人が風邪をひいちゃう』って心配するだろう?」
俺がそう言うと、彰人は一瞬だけ動きを止めて、納得したように小さく頷いた。
「……うん、そうだね。絵名、怒ると怖いし……。かっこいいオレで待ってなきゃ!」
そう言って、彰人は慣れない手つきで急いで着替えを始めた。
その背中を見つめながら、俺は重い溜息を飲み込む。
(……このままで、いいはずがない)
施設の大人は、誰も彰人に「真実」を教えようとしない。残酷すぎて言えないのか、それとも面倒を避けているだけなのか。
でも、毎日こうして扉の前で待ち続ける彰人を見るのは、俺にとっても……自分の傷口を広げられるような痛みがあった。
「とーや! 準備できたよ、行こう!」
彰人は自分のシャツのボタンを一つ掛け違えたまま、俺の手をぎゅっと握った。
俺はその手を握り返し、再びあの薄暗い、冷たい廊下へと歩き出した。
「あのね、絵名と約束したの!一緒に顔よりおっきいパンケーキ食べるんだ!」
「顔よりおっきいパンケーキ、か」
俺は彰人の歩調に合わせてゆっくりと歩きながら、その言葉を繰り返した。
彰人の語る夢は、あまりに微笑ましくて、そしてあまりに切ない。
「……それは、すごいな。シロップもたくさん、かけるのか?」
「うん! シロップもバターもいっぱーい! 絵名はね、『甘すぎるのは太っちゃう』とか言うんだけど、本当は甘いの大好きなんだよ。だから、絶対喜ぶと思うんだ!」
彰人は自分の顔の横で大きく円を描いて、そのパンケーキの大きさを表現してみせた。その無邪気な仕草を見ていると、俺の胸の奥が熱くなる。
あの日、あの地獄のような部屋で、この小さな姉弟がどんな思いでその「約束」を交わしたのか。空腹と痛みに耐えながら、たった一つの甘い希望に縋り付いていた二人の姿が、容易に想像できてしまうから。
「……そうか。楽しみだな。彰人と絵名さんが、二人で笑ってそれを食べているところ……俺も見てみたいよ」
「えへへ、とーやも一緒に食べる? 三人だったら、もっとおっきいやつ注文しなきゃね!」
彰人は、まだ会ったこともない「絵名」との未来に俺を招待してくれた。
その優しさに、俺はただ頷くことしかできない。
(もし、その時が来ないのだとしたら……俺は、この子のために何ができるんだろう)
廊下を抜け、再びあの鉄の扉の前へと辿り着く。
まだ早朝の冷気が残る玄関ホールで、彰人は昨日と同じ場所にちょこんと腰を下ろした。
「ここなら、絵名が来たらすぐわかるでしょ?」
彰人は扉の隙間から差し込む光を見つめ、静かに待ち始めた。
俺はその隣で、掛け違えられたままの彼のボタンをそっと直し、冷たくなった彼の手を自分の両手で包み込んだ。
「絵名、ちゃんとここに来れるかな?」
「……きっと、大丈夫だ」
俺は、自分の声が震えてしまわないように細心の注意を払って答えた。
彰人の瞳は、期待に満ちているようでいて、どこか深い不安に揺れている。何度も、何度も自分に言い聞かせるように「お姉ちゃん」の話をするその姿は、まるでそうしていないと、彼女の存在が消えてしまいそうだと分かっているかのようだった。
「彰人がこうしてずっと待っているんだ。……きっと、いつか伝わるよ」
「……うん。絵名ね、オレがいないとダメなんだ。すぐ転んじゃうし、寂しがりやさんだから。だから、オレがここで迎えてあげないと」
彰人はそう言って、ギュッと自分の膝を抱えた。
その言葉は、そのまま自分自身に返っているように聞こえた。本当は、自分が「絵名」という存在なしでは、この冷たい世界に立っていられないのだと。
施設の中を吹き抜ける風が、少しだけ冬の匂いを運んでくる。
彰人は、扉の向こうで物音がするたびに肩を揺らし、食い入るように扉を見つめる。けれど、入ってくるのは不機嫌そうな顔をした配達員だったり、慌ただしく出入りする職員だったりした。
「……とーや、あのね。パンケーキ食べたらさ、絵名と三人でお歌もうたおうよ」
彰人がふと、寂しさを紛らわせるようにそんなことを言い出した。
「お歌……?」
「うん。絵名がね、オレの歌、上手だねって褒めてくれたことがあるの。……とーやも、一緒に歌ってくれる?」
あどけない表情で俺を見上げる彰人。
その瞳に映る俺は、果たしてどんな顔をしているだろう。
「……ああ。俺で良ければ、いくらでも」
俺はそう約束した。
たとえ、その隣に彼が待ち焦がれる人がいなかったとしても、俺だけは、彼の歌声を聴き続けようと思った。
「とーやもいたら、きっと絵名もニコニコしてくれるよね」
「ああ。……きっと、そうだろうな」
俺は、彰人のその言葉に嘘を混ぜることしかできなかった。
もし絵名さんが本当にここに来て、自分の弟がこんなにも優しく成長し、俺という友人が隣にいるのを見たら……。きっと、どんなにか喜んだだろう。そう思うと、胸の奥に冷たい石を置かれたような痛みが走る。
「……彰人の隣にいるのが俺でも、怒られないだろうか」
「そんなことないよ! 絵名はね、オレが仲良くなった人のこと大事にしてくれるんだ」
彰人はえっへん、と胸を張る。
その誇らしげな笑顔が眩しくて、俺は一瞬だけ視線を逸らした。
(俺は、君の嘘に加担しているのかもしれない。……でも、この光だけは消したくないんだ)
施設の中を巡回する職員が、遠くから俺たちに声をかけた。
「彰人くん、冬弥くん、そろそろ朝ごはんだ」
「あ、はーい!……とーや、行こう。お腹空いたまま絵名に会ったら、『またそんなに痩せて!』って怒られちゃうもんね」
彰人はそう言って、自分から立ち上がった。
まだ扉は開かないけれど、明日もまたここに来ればいい。そんな風に未来を信じきっている彼の足取りは、少しだけ軽やかだった。
俺はその小さな背中を追いかけながら、昨夜彼を運んだ時の腕の重みを思い出していた。
いつか彼が、待ち続けていた扉の向こうに誰もいないことを知る日が来る。その時、俺は彼の隣で何を言えばいいんだろう。
「彰人。……歌、いつか教えてくれ」
「いいよ! オレ、すっごくかっこいい歌、いっぱい知ってるんだ!」
施設の暗い廊下に、彰人の明るい声が響く。
それが、崩れかけた世界を繋ぎ止める唯一の糸のように思えた。
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