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明石さんの声を背に俺は外へと出て行き、電話をしている環奈の元へ向かう。
「……うん、ごめんね。あの……ちょっと仕事の事でオーナーさんたちと話があって……」
男が何か言ってるのか、環奈は謝りながら説明をしているようだがそんな事はお構い無しに環奈の背後に回った俺は、後ろから環奈を抱き締めた。
「……ば、んり……さん?」
『おい、環奈? 聞いてんのか? おい』
俺の突然の行動に驚いた環奈は口元から電話を遠ざけ、戸惑いの表情を浮かべながら俺の名前を呼ぶ。
「どうした? 続けろよ」
俺が環奈の耳元でそう囁くと、環奈の身体がピクリと反応する。
『おい!? 環奈? 返事しろよ。おい――』
いつまでも電話口から耳障りな声が聞こえていたのが気に入らなかった俺は環奈からスマホを奪い取ると、そのまま電話を切ってやった。
「……あ……万里さん、どうして……」
「どうして? それは何に対しての言葉だ? どうして電話を切ったのかって事? それとも、どうしてこんな事をするのかって事?」
恐らく、環奈はどちらも聞きたいだろう。
俺に抱きしめられたままの環奈は身動きが取れずに固まったまま。
だけど、嫌がる素振りは一切無い。
こうなると、俺の理性はもう、崩壊する。
俺は環奈から腕を離すと向かい合うよう店の壁際に彼女を押しやり、逃げ道を塞ぐ。
「……万里さん…………駄目……」
壁際に追い詰められて逃げ場を失った環奈は、この後の事が何となく予想出来たのかもしれない。
「駄目ならもっと抵抗しろよ? 嫌だと言われれば、俺は退く」
「…………そんな……私……」
「環奈――あんな男より、俺にしろよ」
「……っ」
駄目と言いながらも抵抗しない環奈に迫り、俯いている彼女の顎を持ち上げた俺は、
「――っんん……」
強引に唇を奪ってやった。
「……ッん、……はぁ……、っ」
一度触れてしまえば、こうして止められなくなってしまう事を分かっていた。
何度となく唇を塞ぎ、環奈が息継ぎをする度、甘い吐息が漏れていく。
それだけでも俺を煽るには充分なのに、熱を帯びた瞳で見てくる環奈に、身体がゾクリと震え出す。
(もっと欲しい……キスだけじゃ、足りねぇ……)
これまで様々な女を抱いてきたし、キスだって数え切れない程してきたけど、こんなにも相手を求めるなんて、環奈が初めてだった。
「……ばん、り……、さんッ……もう、……」
こんな、唇を重ね合わせるだけのキスでどうにかなりそうなのに、俺はその先を求めたくなる。
けど、それをするのは今じゃない。
環奈の心が揺れているのは分かる。
もっと深く繋がるその時は、俺だけを見て欲しい。
他の男なんて気にならないくらい、俺に夢中にさせたい。
唇が離れ、乱れた息を整え直している環奈。
ここで止めても良かったけど、もう少しだけ触れていたかった俺は――
「環奈、俺だけを見ろよ。俺は絶対裏切らない。お前を悲しませるような事は、しねぇから」
彼女の両頬に手を置くと顔を包み込むようにもう一度唇を奪う。
「――っん……はぁ……ッんん!?」
今度はただ唇を重ね合わせるだけじゃない。俺の舌を環奈の口内に割り入れて、彼女の舌を絡めとる。
環奈はされるがまま、徐々に身体の力が抜けていき、
「……ぁっ!?」
立っているのがやっとだったのか、膝から崩れ落ちそうになるのを支えたところで、キスをやめた。
「……はぁ、……っはぁ……」
「悪い、強引過ぎたよな……」
「…………、万里さん……、私……」
「今は、何も言うな。俺は信じてる。必ず、俺の元に来てくれるって」
「…………っ」
そして、何か言いたげな環奈の口を指で塞いだ俺は、それ以上語る事をしなかった。