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子猫たちと勇斗に出会ってから、早4日目。
今だに親猫とは遭遇できなくて、子猫と僕と勇斗との奇妙な交流は続いている。
朝には登校前に側溝で落ち合ってお世話をして、放課後には下校がてら側溝で待ち合わせてお世話して。
その結果、子猫たちにはブチとミケとシロっていうびっくりするくらいどストレートな仮の名前がついて、僕と勇斗も同じくびっくりするくらい仲良くなった。
「でも、来週からはできなくなんだよなぁ」
今日の朝、いつものように子猫たちにご飯をあげている途中、勇斗がぽつりとつぶやいた言葉に、あわてて隣にある顔を見つめる。
「え、そうなの?」
「おう。俺、サッカー部入んだけどさ。仮入部終わって来週から本格的に参加すんだわ。朝練も始まるし夕練だって7時くらいになんじゃん、たぶん」
「そうだろうね」
「だから、こうやって世話できんのも明日までだなぁ」
「そ、っか。そうなんだ…」
残念そうに言う勇斗から子猫たちに視線を戻して、きっとそう言った勇斗よりも残念な気持ちで、子猫たちの頭を撫でる。
そっか、終わっちゃうのか。
朝の登校と夕方の下校。子猫たちに癒されていたっていうのはもちろんだけど、勇斗と過ごす時間が。
修行みたいな登下校が苦にならないくらい、とっても楽しかったその時間が、もうなくなっちゃうのか。
…なんだか、
「なんっか、こんな風に仁人と話せなくなんの俺やだなぁ」
僕が思ってたことと同じことを勇斗が言ったから、驚いてまた勇斗を見る。
「でもま、おんなじ学校なんだし顔は合わせるわな。これからは学校でももっと話そうぜ、俺会いに行くから。」
立ち上がりながら、僕を見下ろして笑う勇斗。
「…会いに行くって、大袈裟だなぁ」
なんだかその笑顔が眩しくて、嬉しくて。僕は目を細める。
「俺が話しかけても無視すんなよ?」
「するわけないでしょ」
そんな朝の会話を思い出しながら、軽くため息をつく。
そうは言っても、そう簡単に話せる機会なんてないよなぁ。
3校時目がもうすぐ始まるけれど、朝別れてからというもの、一度も勇斗と会えてない。
隣のクラスなんだから、最悪教室へ行けばいいんだけど、知り合いもろくにいない教室へ行くなんてハードルの高いこと、僕なんかには到底できそうにないし。
(…やっぱり、こうなっちゃうか)
なんだか寂しいような悲しいような、暗い気持ちになりかけるけど、これじゃダメだと気持ちを切り替えた。
次の授業は理科で、移動教室だから教科書と筆記用具を持って教室を出る。
すると廊下の向こうから賑やかな集団がやってきて、その中に勇斗の姿を発見した。
やっと見つけた姿を目で追っていれば、ふと視線が合って、勇斗はにっと笑い、僕に向かって片手を上げた。
それになぜだかどぎまぎしながら手を振り返していたら、隣の柔太朗こと柔ちゃんがえ、とびっくりしたような声を上げる。
「え、仁ちゃんって佐野くんと仲良いの?」
「あ、まぁ…なんか、家近くだったんだよね」
「ま?なんか意外だわ、あんま合いそうじゃないのに」
失礼な。と少しムッとしかけるけど、確かにそうかもと思い直す。
かたや噂のイケメン転校生で、前の学校では生徒会役員もやっていてスポーツ万能。
入っていたサッカー部では背番号10のエース。極めつけにはファンクラブまであったらしい(これはクラスの女子情報)。
一方僕はというと、勉強も運動もイマイチで、入っていた吹奏楽部も辞めちゃって今は帰宅部。
改めて考えてみると、普通に生活していたら、接点なんて微塵もない。
「なんでなんで?どうやって仲良くなったん?何きっかけ?」
興味深々で聞いてくる柔ちゃんが、ちょっとうっとおしくて適当に返す。
「別に、どうだっていいでしょ」
「よくねぇし。幼馴染としては気になんでしょ、友達関係鎖国気味の仁ちゃんが、なんであんな陽キャ代表と仲良くなったのか」
「…柔ちゃん、僕のことディスってる?」
「ねぇって。いいからさっさと吐けよ」
うりうりと肘でつついてくる柔ちゃんに、うんざりしながらため息を吐く。別にきっかけになった子猫のことは隠さなきゃならないことでもないし、言ってもいいんだけど。
でもなんでだか、ふたりだけの内緒にしておきたい気持ちもあって。
「あれだよ。共通の友達がいてさ、それで」
「は?仁ちゃん友達いないじゃん。」
「…じゅうたろうくん?」
じろりと睨みつけると、柔ちゃんはゴメンナサーイと全然気持ちのこもってない謝罪をする。
「でも、俺にも内緒の友達なんて、仁ちゃんにもいんだね。なんか成長感じるわぁ」
まぁ、ないしょのともだちの正体は子猫なんだけどね。
そう思いつつ、遠い目をしてうんうんと頷いている柔ちゃんがおかしくて笑ってしまう。
「柔ちゃんは僕のお母さんかなんかなの?」
「そう言っても過言じゃないっしょ、俺たち長い付き合いなんだからさぁ」
「ちょ、重いよ柔ちゃん教科書落ちるから」
無理矢理肩を組んでくる柔ちゃんに苦笑いしていると、ふとまだ2組の教室前に勇斗が立ち止まってこちらを見ているのに気付く。
「?」
そんな勇斗に向かって首を傾げてみせると、勇斗はふいっと視線を逸らして、そのまま2組の教室へ入って行った。
なんだろ、何か言いたそうな顔だったけど僕の気のせいかな。
「やばっ、仁ちゃん理科始まんべ!行こ!」
勇斗の様子が少し気になったけど、柔ちゃんに腕を引かれながら、僕は理科室へ走り出した。
続