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成瀬りん
30
#恋愛
ばたっちゅ
4,295
翌朝、俺とテオはエイバスの街を出発した。
ダンジョン『小鬼の洞穴』は、歩いて半日ほどの山の麓にある。
馬を借りれば1~2時間で到着できるが、今回は徒歩を選んだ。
ちなみに、いきなり馬を乗りこなす自信がなかった俺が、それっぽい理由を付けて徒歩での移動を推した……というのはテオには内緒である。
街道沿いなら、魔物はほとんど出現しない。
暇つぶしもかねて聞いてみる。
「なぁテオ。そもそもダンジョンって、どんな存在だと考えられてるんだ?」
「んー……それ語るなら、まず『この世界の理』ってやつを説明しないとな!」
そう前置きすると、テオはおもむろに話し始めた。
この世界には、大きく分けて“3種類の存在”が暮らしている。
――まずは『生き物』。
生身の肉体を持つ存在である。
例えば、人間、四足動物、鳥、魚、昆虫。
地球ではお目にかかれないエルフやドワーフ、獣人なども存在する。
そして、もし『生き物』が死んでしまった場合、生身の肉体はそのまま残る。
――続いて『魔物』。
魔力で作られた肉体を持つ存在だ。
何らかのアイテムを核とし、その核が魔力を纏い肉体を作り出している。
魔物を倒すと、肉体を構成する魔力が拡散し、核だったアイテムだけが残る。
これが『ドロップ品』というわけだ。
――最後は『精霊』。
先の2つに比べて謎多き存在となっている。
通常はその姿を見るなど不可能だ。
人間が存在を実感できるのは、魔術を使用した時ぐらいだろう。
例えば【火魔術】は、火の精霊の力を借りて魔力を操るスキルだ。
なお、特定の属性の精霊に愛され、生まれつき魔術を使える種族も存在する。
魔術を極めた者の中には、精霊と会話できる者もいるらしい。
世界には元々『魔力』が散らばっている。
スキルやステータスといった不思議な力が働くのは、魔力の作用によるものだ。
魔力が多いエリアでは『魔物』が生まれやすくなる。
彼らは「自分と近い魔力」を好むため、生まれたエリアに留まる特性がある。
だから人間たちは、国や街などの拠点を「魔力が少ないエリア」に作った。
これにより、魔物との衝突を避け共存することができたのだ。
3年前、その状況に変化が訪れた。
各地に散らばる魔力の属性に『闇属性』が混じり始めたのだ。
闇属性に接した魔物は攻撃的になる。
その凶暴性は、混じる闇の力が濃ければ濃いほど増していく。
元凶は【闇魔術】の唯一の使い手『魔王』。
今になってこの世界に住まう者たちは思う。
魔王は3年前から少しずつ復活していた。
そして半年前、その声が世界に響き渡ったあの時、完全復活したのだろうと。
今もなお、世界は闇に侵され続けている。
ただ闇の魔物を倒しても、闇の魔力が空気中へと戻るだけで減ることはない。
時間が経てば、『闇』は再び魔物に変わる。
魔王城がある西側諸国から徐々に、そして確実に闇の力は広がりつつある。
世界が闇で覆い尽くされた時。
すなわちそれが……世界の終わり。
だがこの世界の人々には、希望が残されている。
――光属性の魔力を扱う術【光魔術】。
伝承では闇を浄化するたった1つの方法で、その使い手が『勇者』なのだと。
だから皆は、勇者が再来する瞬間を、強く強く待ち望んでいるのだ。
さて、話を戻そう。
世界各地には、局所的に濃い『闇』に支配されたエリアが点在する。
理由は明らかではないが、「その地の魔力が闇属性と親和性が高かったがために、自然と闇を引き寄せたのではないか」と推測されている。
「……で、その局所的に濃い闇魔力に支配されたエリアこそが『ダンジョン』と呼ばれていて、周りと比べて凶暴な魔物が多いんだよっ」
「なるほどな……」
吟遊詩人として、各地の伝承・人々の噂などを調べつくしたというテオ。
彼の説明と、ゲーム上の設定には、やはり大して違いはない。
だが、現実と架空の違いが、どう働いてくるかは不安だ。
ゲームでは神様が気を利かせて無くしたという食事や睡眠の必要性。
攻撃も防御もボタン操作ではなく、自分で動かなければならないこと。
こればかりは、この世界の人に聞くわけにもいかないし……
自分で試しながら探るしか、解決策は無いだろう。
ひととおり説明も終わったところで、首をかしげながらテオが言った。
「……でも、いくら調べても分かんないことがいくつかあるんだよねー」
「なんだよ?」
「まずは、500年前に倒されたはずの魔王が『何で復活したか』ってこと!」
これはゲーム上でも未だ解明されていない。
検証好きなプレイヤーたちには、未解決問題の1つとして知られている。
「あとは……伝承の中の500年前の勇者は、魔王を倒す前に各地のダンジョンをいくつか回って、その地に蔓延る闇魔力を消し去ったらしいんだ。でも、実際どうやって闇を浄化したかっていう記述がどれも曖昧でさ~」
「ああ、そっちは問題ないと思うぞ」
テオが「えっ」と意外そうな顔をする。
「どういうこと??」
「闇の魔力を消し去るには『光の魔力を直接ぶつけて相殺する』、それだけでいいんだ。具体的な方法も何通りか知ってる。まだ実際には試してないけど……たぶん、大丈夫なはずだ!」
闇魔力の浄化方法は複数ある。
今の俺でも、あの方法なら何とかなるはずだろう。
そんな俺の横顔を見て、テオがくすくす笑い出した。
「……なんで笑ってんだ?」
「だって【光魔術】は、ほんっとに特別で、謎だらけって言われてんだぞ? なのにタクトはサラッと何でもない感じで答えてさ……何か勇者っぽいなぁと思って」
「いや、“ぽい”っていうか……本物の勇者なんだけど――――」
「知ってる!」
食い気味に答えるテオ。
「でもさぁ……普段のタクト見てると、ついうっかり忘れちゃうんだよね~」
「うっ!」
身に覚えがありまくる。
まずは昨日の『フルプレート断念』。
召喚初日の『光魔術の発動失敗』『空腹で行き倒れかけ』。
2日目の『オークジェネラル巻き込まれ』なんてのもあった。
では逆に“勇者らしさ”はというと……心当たりが、一切無い!
「……そ……そのうち、名実ともに勇者となる予定なんだよ!」
「あ、勇者っぽくない自覚はあるんだ」
「しょうがないだろ! まだこの世界に来たばっかなんだし」
「はいは~い。これからもよろしく、勇者さまっ☆」
冗談っぽくウインクするテオ。
「……」
のらりくらりとマイペースな彼に、思わず溜息をついてしまった。
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