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ダンジョン「小鬼こおに洞穴ほらあな」1階層での初戦を終えた俺とテオ。

その後しばらくは特にピンチな場面もなく、探索と戦闘を繰り返す中で、2階層への下り階段を発見。

そのまま次の階層へと足を踏み入れ、さらに奥へと進んでいく。




探索を始めてからしばらく経った頃。

腰に付けた懐中時計を、ふとのぞきこんだテオが気付く。

もうこんな時間かぁ~……ねぇタクト、キリが良いところで晩ごはん食べない? 今夜の寝床も用意しなきゃだし」

「……そうだな」

度重なる戦闘で心身ともに疲れが溜まり切った俺に、反対する理由は無い。



架空世界ゲームではプレイ中は基本いつでも――ただし戦闘中は除く――セーブして中断することができた。

冒険を再開する時はセーブした場所・状態からスタートとなる。


だがここは現実世界リバースだ。

しかも平和なエイバスの街中とは違い、危険あふれる魔物の巣窟ど真ん中。

休息を取るには、きっと相応の準備が必要となのだろう……俺は覚悟を決めたのだった






間もなく俺達は、3階層へと続く階段を見つけた。

だけどあえて今日のところは2階層に留まり、階段を下りるのは翌日にする。


階段から程近くの比較的地面が平らで開けた場所に目星をつけ、周辺の魔物ゴブリンを協力しサクッと殲滅せんめつ

テオいわく「魔物が復活するまで1晩ぐらいかかるから、これでゆっくり眠れるはず!」と。

何があるか分からないため、念のためテオがスキル【隠密LV1】――自分中心に半径3mの気配を消すことができるスキル――を発動し、そのスキルの効果範囲に十分入る大きさのドームテントを設営することにした。



野営やえい準備を一通り終えたところで、テオが辺りを見回し、満足そうに言う。

「んー……うん、こんなもんかなっ♪」

「意外と簡単なんだ……」

予想外の事態に、ポカンとする俺。


初めての野営だから、と張り切って準備にのぞんだにも関わらず、テント設営開始から終了まで、かかった時間はほんの1分ほど。

しかも小さく折り畳まれた状態のテントを魔法鞄マジカルバッグから取り出し、付属の魔石ませきの1つに魔力をめて自動でテントを膨らませ、さらに別の魔石に魔力を籠めて地面に固定し終了……と、テオが1人で全てを終わらせてしまったため、俺はただ見ていただけ。



「ちっちっち、普通はもっと大変なんだよっ」

拍子抜けしている俺に向け、テオが指をふる。


「そうなのか?」

「うん。だってそもそも冒険者には『【収納アイテムボックス魔法鞄マジカルバッグを持ってないパーティのほうが圧倒的に多いんだからさ!

「あ……」


そういえばエイバスのギルドマスター・ダガルガにも『【収納アイテムボックス】スキル持ちは100人に1人ぐらい、魔法鞄マジカルバッグは高額』と聞いたな。

もし【収納アイテムボックス】――生き物・魔物を除く所有物を収納できるスキル――をはじめとする収納手段を持ってなかったら、ここまで来るまでにもっと大荷物を持って移動しなければならない。

食料、予備装備、薬、野営用品……必要なアイテムは膨大だ。

しかも加えて帰りには、道中で入手したドロップ品も持つことになる。

荷物を運ぶだけでも十分大変だろう。

テオによれば、【収納アイテムボックス】スキル等が無い冒険者パーティは、荷物をなるべく軽くし分担して持つか、荷物持ち専門のパーティメンバーを雇うのが普通らしい。




「それにさー、野営初めてなタクトは知らないと思うけど……このテントって、実はすっっっっっっごく貴重な魔導具なんだからね?」

「え?」

目の前のドームテントは、どう見ても“多少お洒落な普通の布製テントにしか見えないんだけど……。



「あっ! その反応、やっぱりただのテントだと思ってたなっ」

不満そうに口を尖らせるテオ。

わりぃ、そういうのまだよく分かんなくてさ……あ、そのテントだけど、【鑑定】してみていい?」

「もちろん! 鑑定したら、このすごさがよ~っく分かるはずだよっ」



改めて、テオのテントを眺めてみる。

テントの布地には控えめな刺繍や金具・布の切り替えなどが施されていて、決して派手すぎず、洗練された雰囲気を醸し出している。

言われてみると確かに凄く良いもののような気もしなくもないような……いや、やっぱり普通の布製ドームテントにしか見えないな。


まぁ見れば分かるだろ、とテントに向かって【鑑定】スキルを使い、開いたウィンドウをのぞき込む。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

名前 ニルルクの究極天幕アルティマテント

種別 魔導具

売却目安価格 258000リドカ


■説明■

ニルルク村の職人達が技術を結集し製作したテント

火・水・風・土の最高級魔石を使用した魔導具

【耐久加工LV5★】

【防汚加工LV5★】

【防水加工LV5★】

【防燃加工LV5★】

【防音加工LV5★】

【消臭加工LV5★】


■神の一言メモ■

よくもまぁこんなすごいもん作ったのう……ワシも泊まってみたいわい!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「!!!!!」

想像していたものを遥か飛び越えた、まさに“究極というべき魔導具

あまりの驚きに何も言葉が出てこない。



素材に魔石――何らかの属性魔術の力を持つ石――を用いたアイテムは、一般道具と区別し、通称『魔導具』と呼ぶ。

魔導具の魔石部分へ魔力をめることで、属性魔術の力を発動できるのだ。使用する魔石が持つ魔術術式・道具への組み込み方・流し込む魔力量等により効果が決まる他、使用者自身が魔術スキルを持っていなくとも使用可能である。



また説明についている【耐久加工LV5★】【防汚加工LV5★】【防水加工LV5★】【防燃加工LV5★】【防音加工LV5★】【消臭加工LV5★】は、ゲームにも存在した生産スキルで、生産時にアイテムへ特殊効果をコーティングする形で付与できる『加工コーティングと呼ばれるスキルに分類される。

加工時は加工対象アイテムと別に、『加工コーティング材』となる素材アイテムが必要だ。


スキルの詳細はこちら。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

耐久加工:対象の耐久性を上昇、上昇値はスキルLV・使用素材に応じ変化

防汚加工:対象の防汚性を上昇、上昇値はスキルLV・使用素材に応じ変化

防水加工:対象の防水性を上昇、上昇値はスキルLV・使用素材に応じ変化

防燃加工:対象の防燃性を上昇、上昇値はスキルLV・使用素材に応じ変化

防音加工:対象の防音性を上昇、上昇値はスキルLV・使用素材に応じ変化

消臭加工:対象の消臭性を上昇、上昇値はスキルLV・使用素材に応じ変化

・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ゲームにおいて、この6つは使いどころが見当たらないスキル、いわゆる『死にスキルの代表格として知られていた。


だが今になって考えれば、ゲームにおいてはそもそも「壊れる」「汚れる」「臭い」「うるさい」等の概念が無かったため――神様がその概念を無くしていた――、その影響で使う意味が無くなってしまっていただけなのだろう。


ここは現実だ。

神様いわく「ちゃんと洗わないと服の汚れがとれない世界

それを踏まえれば、上記6スキルは非常に有用なんじゃないかと気付く。


同時に『世界屈指の達人性能といわれるLV5★が6つもついてるって、どういうことだよ……と頭が痛くなってくる。

まぁゲーム中で『ニルルク村』は、特に魔導具など道具生産技術の最高峰として知られる獣人職人達が暮らす村でもあるため、金と時間に糸目をつけなければ可能か、とうなずきもする。



ちなみに街中で売られるテントの価格相場は、販売価格200リドカ、売却目安価格50リドカ程度――売却価格は購入価格の4分の1が目安となる――。

ゲームでは好きな見た目のテントのレシピを編み出して生産しても、せいぜい販売価格4000リドカ、売却目安価格1000リドカ程度だった。



売却目安価格258000リドカなこのテント。

普通テントなら5160個分の価格

リドカ≒100円説を採用するなら、売却目安価格は日本円で2580円。

購入目安価格はその4倍ということで、約1億円



「……余裕で、都会に家が1軒建っちまう値段だぞ……」

金額の桁が違いすぎて、もはや意味が分からない。



「ま、このテントにはそれだけの価値があるってことさ!」

得意気に胸を張ったテオは、嬉しそうに説明を始める。

「そんで何が凄いかってことだけど、まず布部分の素材は全部『魔窟女王蜘蛛まくつじょおうぐもの糸』だよっ」

「まじかよ……」

またもや目を見張る俺。



ゲームにおいても最高級の生産素材として知られている『魔窟女王蜘蛛まくつじょおうぐもの糸』は、その名の通り、魔物・魔窟女王蜘蛛まくつじょおうぐもが作り出した糸だ。

魔窟女王蜘蛛まくつじょおうぐもは、非常に良質な魔力が大量にあふれた特定エリアにのみ現れる。生み出す糸にもその魔力が宿っており、美しさや耐久力など、どれをとっても最高品質の素材とされているのだ。


ただし極レアモンスターで滅多に出会うことができない上、その糸を入手するにはすぐ倒さず、戦闘中に糸を吐き出し続けさせる必要がある。

よって『魔窟女王蜘蛛まくつじょおうぐもの糸』は大変希少品として知られている。

しかも繊細な素材のため、扱いに相当技術を必要とし、最高レベルの生産系スキル持ちでないと安定して加工できないという代物しろもの



高級品の中でも至高というべき逸品を、惜しげもなくテント1つ分も使うなんて……。

常識を超えた贅沢っぷりに、俺は目眩めまいがしてきた。






その後テオに案内されてテント内に入り設備について説明を受けた俺は、ただただ驚くことしかできなかった。


テントのメイン素材『魔窟女王蜘蛛の糸』を使った布はそれだけで耐久性に優れている上、【耐久加工LV5★】【防汚加工LV5★】【防水加工LV5★】【防燃加工LV5★】が施されているので、外部から攻撃を受けてもほぼ壊れることはない。

『土の魔石』を利用した魔法錠マジカルロック――鍵をかけるしくみに特化した魔導具のひとつ――で、テント入口部分をロック可能。鍵は内側からしかかけられない仕組みになっている。

入口を閉じておけば上記の耐久効果等と合わせ、基本は襲撃を一切気にしなくてよくなるため、通常の冒険パーティのように見張りを立てる必要もない。



テントを地面に固定させるために使用したのは、さらに別の『土の魔石』。

魔力を籠めると瞬時に、テント底に極薄く貼られたミスリルと、地面とが吸着された状態になる。

この時、魔導具の効果で床の部分が安定するよう自動調整が入る設定になっており、テント独特の不安定さが気にならなくなるのだとか。



最初にテントを膨らませたのは『風の魔石』。

魔力を籠める事で、テント内に適温適湿な空気を発生させ、適宜循環させる効果がある。

これにより一瞬でテントを膨らませられるだけでなく、【防音加工LV5★】【消臭加工LV5★】と合わせ、自動で極上の快適空間を作り出すことが可能だ。



『火の魔石』は照明用。

壁に設置された魔石に魔力を籠めれば、天井部分に設置された透明なガラス球に明かりが灯る仕組みとなっている。

だがこれもただの明かりではない。一般的な安物の照明魔道具とは異なり、スイッチを切り替えたり、籠める魔力量を変えたりすることで、照明の色味や強さを好みに合わせて自由にカスタマイズできるのである。



最後に残った『水の魔石』。

これは、テオが一番こだわった部分らしい。

床部分に設置された魔石に魔力を籠めることで、普段は小さくたたまれ床下に収納された『魔窟女王蜘蛛の糸』製のベッド――もちろんここにも【防水加工LV5★】などが施されている――の中に水が流れ、程よい硬さの寝床ウォーターベッドが完成する。

テオに言わせると「硬すぎず柔らかすぎず……体がすっぽりおさまって気持ちいい……っていう、理想の寝心地を実現したよっ」とのこと。


床についた水魔石5つそれぞれに収納式ベッドが1つずつ対応しており、最大5台、その中の必要数だけ配置することが可能だ。

なお掛布団や枕は備え付けられていないため、別途テオが魔法鞄マジカルバッグから引っ張り出してセットした。




ひととおりテントの案内を終えたテオが言う。

「……とまぁこんな感じかな。タクト、どう?

「もう……凄いとしか言いようが無いんだけど――」

「だよねっ♪ いや~、ほんと素材集めとか、お金稼ぎとか頑張ってよかった~」

満足そうに笑顔を浮かべるテオ。


ただ俺には気になることがあった。


「そもそもなんでテオは、こんなにテント作りにこだわったんだ?」

「だって睡眠大事じゃん!」

「確かに大事ではあるけどさ……」


元の世界にいた頃は1人暮らしのサラリーマンだった俺は、寝具にそこまでこだわりがなく「ベッドや布団なんてどれでも一緒だろ!」と思っている。

使っていた寝具は某通販サイトで購入した最安値の物――すのこベッド(約1万5千円)と、布団3点セット(約5千円)――だったし、それで十分事足りていた。


まぁ「何にお金や時間をかけるか」は人それぞれ。

別にテオを否定するつもりはないけどな。


「……理由はそれだけ?」

「うん、そんだけっ!」

嬉しそうに説明をするテオ。

「俺の場合『旅の吟遊詩人』だから、どっかに家を建ててもほとんど帰れないんだよね。でもテントなら簡単に持ち運べて、旅の間いつでも使えるだろ? しかもこれだけ丈夫に作れば交代での寝ずの見張り番の必要性も減るし、パーティ全員でぐっすり寝れると思ってさっ!」

「なるほど……でも、それだけの資金力と技術力の当てがあるなら、なんで自分の戦闘力をアップするための魔導具を製作しなかったんだ?


「え?」

目を丸くしたテオは、少し考えてから真顔で答える。



「……その発想は無かった」


「まじかよ……」

思わず頭を抱えるが――ここは逆に『テオの戦力強化に伸びしろが見つかった』とプラスに考えることにしよう。人間、伸びしろは大事。

攻略サイトには戦闘用の魔導具の作り方レシピも大量に載っているから、具体的にはそのうちゆっくり検討するか。






そして翌日の朝。




「……日本に帰ったら、俺……ベッド買い換えようかな」


あまりにも快適な寝心地に、俺はすっかり心を奪われたのだった。

ブレイブリバース~会社員3年目なゲーマー勇者は気ままに世界を救いたい

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