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エイバスの街を出発した俺とテオ。
半日ほど歩き、その日の午後早めの時間には、カルネ山の麓に到着した。
標高600mほどで傾斜が緩やかなカルネ山。
半分が緑の木々に、残り半分が剥き出しの岩肌に覆われている。
この山には、かつて魔物がほとんど出現しなかった。
人々は、熊や猪や鹿を狩ったり、山菜やキノコ類などを採ったり。
麓に入口がある天然の洞穴では、鉄鉱石などの採掘も盛んだった。
肉や山菜などの食材は、エイバスの皆の食卓を。
毛皮や鉱石などの生産素材は、エイバスの屋台骨である生産業を支えていた。
だが3年前から、狩猟者や採掘者が魔物に襲撃されるケースが相次いだ。
命を落とした者も少なくないらしい。
そして魔物の発生が段違いに多い場所、それが麓近くの洞穴だ。
洞穴内にはゴブリン――角を生やした小さな人型の魔物――しか出現しない。
だからいつしか『小鬼の洞穴』と呼ばれ始めた。
現在、洞穴で鉱石採掘するときは「護衛を雇う」もしくは「冒険者に採掘してきてもらう」のが一般的で、かつてよりもコストやリスクが高くなっている。
これは職人たちの悩みのタネと言えるだろう。
「これが『小鬼の洞穴』か……!」
ゲームと同じく、その入口は苔むしたゴツゴツの岩肌に開いた穴だった。
大きさは大柄な成人男性1人が立ってちょうど通れるぐらい。
舗装はされておらず、ほぼ自然のままの状態だ。
近くに魔物がいないことを確認してから、俺を先頭に、テオが続く形で洞穴へ。
中に入った瞬間。
むわっと鼻に飛び込んだのは湿った土のようなにおい。
それと、少しだけ肌寒い。
偶然マントを羽織っていてよかった。
そう思った瞬間、ゾッとする。
装備を選ぶ際、気温や気候を全く考えていなかったという事実に気付いたのだ。
原初の神殿も、エイバスの街も、周辺の森も、日本の春のように温暖だ。
だが他の地域では、そうもいかないだろう。
今後は注意しなければ……と、肝に命じたのだった。
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しばらくは分かれ道が無いため、石造りの通路を道なりに進んでいく。
入口の印象の割に、洞穴の中は広く長い。
通路がやや狭くなるところも時々あるが、天井が高いので圧迫感はない。
辺りを照らすのは、壁に等間隔で配置された『火の魔導具』。
かつてエイバスの有志が出資し、採掘作業のために取り付けられたものだ。
空気中の魔力を取り込む構造だから、中の火は半永久的に燃え続ける。
その光量は十分で、カンテラや松明は必要なさそうだ。
数分歩いたところでテオが急に立ち止まり、「来るよ」と小さな声で言った。
最初の分かれ道となるT字路の前。
その右側のほうから、足音や鳴き声が僅かに聞こえることに気が付いた。
瞬時に状況を把握したらしいテオは、小声で俺に知らせてくる。
「……小さめの魔物が3体、全員が棍棒装備の普通ゴブリン。その角からの距離は40mぐらい、こっち方面に真っすぐ歩いて来てる……ってとこだね。向こうは俺らには気づいてないと思う。タクトはどうしたい?」
今回の探索の最大の目的は、俺に戦闘経験を積ませること。
だからバトルは俺中心で動くと決め、事前に各種パターンの戦略を立てていた。
できれば、洞穴を支配する闇の魔力も【光魔術】で浄化したい。
だが俺の実力だと少し不安で……無理だったらまたの機会にすればいい。
用意してきた戦略パターンの中で、現状に合うのは……。
数秒考えてから、俺は決めた。
「この角で待つ、でいいか?」
「OK。じゃ、作戦通りにねっ」
小声で会話した俺たちはそれぞれ武器を構えた。
曲がり角の死角で、俺が前に、テオが数m後ろという陣形で待ち構える。
――ギキッ、グキャキャ……
――ペタッペタッ……
だんだん近づいてくる鳴き声と足音。
俺の手が汗ばみそうになる。
心を落ち着かせるため、自分の構えを確認する。
片手剣も盾も、教えてもらった通りに持てていた。
それから、ゆっくり大きく深呼吸。
じっと静かに待つ。
数十秒後。
T字路の角から、先頭の魔物が姿を見せる。
と同時に、俺は素早く斬りかかる!
「グキャッ?!」
斜めに振り下ろした剣がその腹部に直撃。
悲鳴を上げる先頭ゴブリン。
返す刀で素早く打ち込んだ2撃目も綺麗に決まる。
先頭ゴブリンは倒れこみつつ、粒子に変わり消え去っていった。
「よし、1体目!」
呆気にとられて見ていた残りのゴブリンたち。
だが仲間がやられたのを理解するなり、顔を真っ赤にする。
2体同時に棍棒を構え、俺へと殴りかかってきた。
身長は俺の半分ほど。
ゴブリンとしては普通サイズ。
腕力は大したことないが、素早さは非常に高い。
ひたすら棍棒で殴りかかってくる2体の攻撃をかわしたり、盾や剣で受けたり。
防御しながら、攻撃のタイミングを伺い続ける。
何回か避けたところで、1体が転ぶ。
チャンスとばかりに背後から斬りかかると、仕留めることができた。
「ギャァッ!!」
2体目ゴブリンも叫びながら消滅していく。
だが俺も斬りかかりで力み過ぎた。
勢い余って体勢を崩してしまう。
最後に残ったゴブリンが口を歪めて笑った。
その瞬間、がら空き状態な俺の頭部を狙い素早く棍棒で飛び掛かってきた!
「……ッ!」
咄嗟《とっさ》に剣で受けようとするものの、ゴブリンのほうが早く、間に合わない!
全身から一気に血の気が引いた瞬間。
――シュッ!
風を切る音と共にゴブリンが空中で絶命し、粒子へと姿を変えていった。
へなへなとその場にへたり込む。
「……ん~、惜しかったねっ」
振り向くと、そこには鞭を手に持つテオの姿。
風切り音の正体は、テオのふるった鞭だった。
実は今回の攻略にあたり「まずは俺だけで出来る限り戦って、テオはギリギリまで手助けしない」という約束を交わしていた。
さっきの戦いも、テオは少し離れて見守っていたのだ。
「……助かったよ」
ホッとした俺の言葉に、テオは無言で微笑んだ。
#推しが尊い
『 雪 』@夏休み期間毎日投稿
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成瀬りん
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