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その戦いを一言で表すなら、まさに”蹂躙”であった。
少年形態へと進化を遂げた空の王。その力は、赤子の時の比ではなく。
物理的な大きさが縮んだことなど関係なく、むしろその攻撃性能は遥かに増したようで。
クレーターの下、そこに埋まっているであろう神楽坂高校の美品、ボールや机、果てには黒板までも掘り起こし。
そこに魔力を込めて、強烈な弾幕として放ってくる。
学校に殺される。
なぜ空の王がこのような攻撃手段に行き着いたのかは誰にも理解できず。
ただ、恐ろしいほどに強力な質量攻撃が、絶え間なく襲ってくるという現実だけがそこにあった。
幸いなのは、最初の一撃ほどの威力、スピードは持っていないということ。
ウヴァルを一撃で戦闘不能にしたバスケットボールほどの魔力は、以降の攻撃には込められていない。
最初の一撃が特別だったのか、あるいはただ手加減しているのか。
威力の低下した攻撃の雨だからこそ、輝夜や他の者たちも、なんとか防戦に持ち込むことが出来ていた。
もしも、全ての攻撃が最初のバスケットボールと同等だったら、すでに彼女たちは全滅していただろう。
とはいえ、これは文字通りの防戦一方である。
少年へと進化した空の王は、駄々をこねた子どものように手当たり次第に学校の美品を射出し。
輝夜たちや、バルタの騎士のメンバーたちは、それを防壁で防ぐか、ひたすら避けるくらいの選択肢しか存在しない。
だがしかし。
そんな絶望的ともいえる状況の中、リタの放った攻撃が一筋の光明を見出す。
敵の弾幕を防ぐため、反撃として放った大量の魔力弾。そのうちの一つが、空の王へと命中した。
それは、先程までならあり得なかった事である。
空の王は、魔法とも異なる謎の障壁を纏っており、輝夜の大閻魔以外の攻撃を全て遮断していた。
しかし、リタが大量に放ったうちの一つである魔弾が、無敵とも思われる空の王へと命中した。
威力が足りないのか、明確なダメージを与えられたようには見えないが。
それでも、攻撃が当たったというのは、この戦いにおける非常に大きな進展である。
リタはドウェインと相談し、瞬時に戦略を共有する。
「了解した。――総員、自らの役割を認識しろ。敵の弾幕を防ぐ者、遠距離より反撃を行う者。自らの動きに自信のある者は、敵への近接攻撃を試みてもいい。だが、忘れるな。ウヴァルをやったあのクラスの一撃が、いつ飛んでくるかも分からない。決して深追いはするな!」
ドウェインの言葉に、騎士団のメンバーも、それ以外の面々も、各々の戦い方の中で、瞬時に連携を組み始める。
この劣勢の中でも、まだ勝利を諦めていない証拠であった。
僅かでも、勝てる見込みがある。その共通認識が、戦う者たちの動きを変えた。
騎士団屈指の防御能力を有するメルクリウスとベアトリスの二人が主軸となり、防御陣形を形成。
リタやカノン、舞などは自らの持つ能力をフル活用し、空の王への射撃を繰り返す。
その中で、いくつかの事実が浮き彫りになる。まず第一に、輝夜以外の攻撃を無力化していた謎の障壁は、ほぼ完全に失っているであろうということ。
細かな攻撃や、飛散する瓦礫など。先程までは決して触れることのなかった物が、空の王の肉体に普通に当たっているのである。
次に、空の王が”危機管理”という概念を得たということ。
飛散する瓦礫や、大した威力のない魔力弾などは、そのまま肉体で受けるものの。リタの放った渾身の一撃など、ダメージを受ける可能性のある攻撃に関しては、瞬間移動で回避するようになった。
その危機管理も完璧なものではないのか、不意打ちのような攻撃には反応しきれず、かすかにダメージを受けるように。
だがしかし、それもまた微弱なもの。空の王を打倒するには、もっと決定的な攻撃をぶつける必要があった。
朱雨や、騎士団の一部のメンバーは、リスクを承知で近接攻撃を叩き込みに行くも。
空の王の有する瞬間移動の前で、攻撃を当てるのに苦戦している様子。
そんな彼らの戦闘を、輝夜とドロシーは少し離れた場所から見つめる。
ドロシーは、自身のコンディションを最大まで回復させるため。
輝夜は単純に、あの混戦の中では流れ弾一つで死にかねないので、様子見中である。
「攻撃力を取得するために、防御を犠牲にしたのか。つまりあれも、完璧な怪物ってわけじゃない。進化の過程で何かを切り捨てる、普通の生き物と同じだな」
輝夜、渾身の知的発言を繰り出す。
どうやら今日は脳の調子が良いらしい。
「とはいえ、アレは相当硬いわね。雑魚たちの攻撃じゃ、かすり傷程度にしかならない。わたしが、万全だったら……」
ドロシーも、冷静に敵の能力を見極める。
今日はすでに、限界寸前に魔力を酷使。なんなら、明日の分まで絞り出したため。
思うように動けない自分に歯がゆさを感じているようだった。
「とはいえ、わたし的には、むしろ倒しやすくなったな」
「あら、どうして?」
「それは単純に、小さくなったからだよ。デカん坊から小僧みたいな見た目になって、首だってスマートになってる。あれならちょうど、わたしの大閻魔で斬り落とせるサイズ感だ」
「確かに、それは一理あるわね」
存在を構築する魔力の大きさか、それとも何かしらの相性が存在するのか。輝夜の持つ刀、大閻魔の地金は空の王に対して絶大な威力を発揮する。それは、これまでの攻防からも明らかだった。
巨大な怪物から、殺せるサイズの生き物へ。輝夜の中では、認識がはっきりと切り替わっていた。
すると、ある疑問が湧き出てくる。
「あれを、わたしの刀で殺した場合、どうなると思う? 今まで殺してきたアトムやゴレム、事故的にやってしまったマドレーヌみたく、あいつも生き返るか?」
「確かに、それは少し気になるわね」
輝夜の持つ宝具、大閻魔の地金。その能力に関しては、契約悪魔であるドロシーも認識はしている。
殺した相手を蘇らせ、そのさなか、魂の奥深くに紅月輝夜という存在を刻み込む。
ゆえに、洗脳とは少々違うものの、生き返った存在はどうしても輝夜に逆らえない。
あるいは、輝夜の存在を無視できなくなってしまう、不思議な強制力を持つ。
しかし、今まで輝夜が大閻魔で斬ってきたのは、悪魔と人間のみ。果たして、空の王という未知なる存在に、その能力が効くのだろうか。 中途半端に能力が発揮して、制御不能な状態で生き返らせてしまう可能性すらある。
輝夜自身、この与えられた力を、まだ完璧に把握できてはいないのだから。
二人が、そんな懸念を話していると。
輝夜のスマートフォンに着信が。
どうやら、マーク2経由で、何者かが連絡をしてきたらしい。
『――輝夜、無事か?』
「っ、あぁ」
聞こえてきたのは、父親である紅月龍一の声。
声を聞いて、思わずホッとしてしまった自分に、輝夜は無性に苛立った。
『そちらの被害は? けが人について知りたい』
「……とりあえず、死人は出てない。ウヴァルっていう仲間の悪魔が吹き飛ばされたが、まだ魔力を感じるから、一応生きてるはずだ」
『そうか。お前も無事そうで良かった』
「はいはい。それで? 本来、この街を守るのが仕事であるお前は、どこで何してるんだ?」
『そう言われると頭が痛いが。”我々”が居るのは、姫乃タワーだ』
そう、電話の向こうにいるのは、龍一だけではない。
彼と行動をともにしていた部下、ウルフはもちろん。
先程まで、光の輪の破壊に参加していた魔王グレモリーと、その契約者であるアリサも、同じく姫乃タワーに集っていた。
◆◇ 切り札 ◇◆
『ちょっと待て、それだけか? 黒羽と善人も、タワーに居たはずだろう』
「……残念だが。我々4人だけだ」
崩壊した姫乃タワーの最上部。かの儀式が行われていた場所はすでに瓦礫の山と化し。
わずかに空いたスペースに、龍一とウルフ、グレモリーとアリサというメンバーが集まっていた。
善人と熾烈な争いを繰り広げていたジョナサンたちの姿も見えず。
少なくとも、現在もタワーに残っているのは龍一らだけであろう。
『……っ』
他の者達ならともかく。黒羽は戦う力などを持っていない。崩壊に巻き込まれたなら、逃げ出すことすら出来なかっただろう。
輝夜の無言が、電話越しに悔いを感じさせる。
「輝夜。お前が妙な動きをして、黒羽えるを支援していたのは知っている。月の魔女や我々の動きを、見事に先読みしてな」
『……それに関しては、複雑な事情があったとしか言いようがない。あと、リタとはもう和解した。残る問題は、”本来の歴史”よりも小さくて、それでいて面倒くさい怪物の対処だけだ』
「なるほど。多少のズレは生じたが、結局はそこへ行き着くのか。……魔女の言う通りだな」
立場や、物事の見方が違えど。彼らは皆、破滅の未来を回避するために行動してきた。
黒羽えるのエゴによって動き出した儀式と、それを断ち切る運命の日。それも、もう少しというところまで来ている。
とはいえ、その最後の関門が最も険しいのだが。
ここに居るのは、人類最強と呼ばれる男である。
「俺もこれから、そちらに合流する。グレモリーの転移魔法でな。大まかな戦局と、敵の情報を教えてくれ」
『それは、確かに助かるが……』
黒羽を救えなかったという事実に、輝夜は未だにショックを隠しきれず。
すると、電話越しから別の声が。
『少し良いかしら。話を聞くに、輝夜のお父様がこっちに来るのね』
「あぁ、そうだが。……その声は、一番面倒な悪魔か」
『一番強くて、頼りになる悪魔と言ってちょうだい』
ドロシーが、会話に割って入る。
『正直な話、あの怪物は普通じゃないわ。純粋な戦闘力、ただ強いだけの魔力では、どうしても届かない壁がある』
「……わたしが参戦しても、決定打にはならないと?」
『そうね。少なくとも、わたしと互角にやり合ってる程度なら、結果は変わらないわね』
直に対峙したからこそ、ドロシーは敵の本質というものを微かに感じ取っていた。
純粋な力だけでは、あの怪物は倒せないと。
その話を聞き、龍一は僅かに考える。
自身の奥底にある、”それ”を。
「切り札はある。バルバトス、お前を確実に、圧倒的に殺せるほどの一撃が、一応な」
『……本当?』
『あれか? 魔界で、アガレス相手に使った』
「そうだ。力の詳細は言えんが。……出せば、確実に敵を消せる技だ」
紅月龍一の切り札。
出来ることなら、使用を控えたい力だが。この街の存亡が懸かっている以上、出し惜しみはしない。
とはいえ、その力を使うにあたって、龍一には懸念点があった。
「この力は、正直手加減をすることが出来ない。言い方を変えるなら、攻撃範囲を絞れないと言うべきか」
『どういう意味だ? わたし達は逃げろって話か?』
「いいや、それよりも。確実に、街への被害が出る。角度が悪ければ、避難用シェルターをも巻き込みかねない」
『……それは、ヤバいな』
「あのときは、場所が魔界で、周囲一帯がアガレスの軍事施設だったから使えたが。今回のように、防衛対象が近くにある状態では、なんともな」
それほどまでの力。
圧倒的な攻撃能力を持つがゆえに、この守るべき場所では使えない。
噛み合わない歯車に、もどかしい感情を抱く一同であったが。
『――にゃー、はっはっは!! どうやら、ここは天才の助けが必要らしいにゃん?』
甲高い声が。
スマートフォンだけでなく、周囲の電子機器、スピーカー類から聞こえてくる。
『この天才、タマモ・ニャルラトホテプMk-IIが、冴えた計画を持ってきたにゃん!!』
”同期”を果たした、輝夜の電子精霊。
記憶と想いを継ぎ。
真なる天才となったマーク2が、戦いへと介入する。
コメント
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読んだ読んだ読んだ〜〜!!第138話、神回すぎてもう叫び散らかしてるんだけど!!😭💥 空の王、少年形態になってからの「学校に♡♡♡れる」攻撃、シュールすぎて笑ったけど威力エグすぎでしょ!?でもリタの魔弾が当たった瞬間の「きたー!!」ってなる感じ、鳥肌立ったよ…。 輝夜の「小さくなったから斬りやすい」って発想、主人公脳すぎて好き。んで龍一パパの切り札が「街ごと消し飛ばす」って…それ使えるの!?って思ったらマーク2が華麗に登場してさぁ!!「冴えた計画」って何!?気になって今夜眠れないんだけど!!?😇💕