目的の広場に到着した。人の数はまばらだ。私とルーイ様はワンダさんから教えて貰った情報を頼りにネルとティナを探す。
「えーっと、ネルは黒い瞳で……暗めの茶髪をおさげにしてる。ティナの方も瞳は黒。髪は胡桃色。クレハより少し短めのショートカットだったな。これ該当する子供結構いるんじゃね? 見つかるかな」
「ふたりは仲が良くて大抵いつも一緒にいるそうですから、その情報に女の子2人組……更に14歳と12歳という年齢を加えて絞り込んでいくしかありません。幸い今日は民衆もそこまで多くない。頑張りましょう」
「お前やレオンみたいに明らかに浮いてる見た目だと簡単なんだけどなぁ」
「それ、ルーイ様にもそっくりお返し致しますよ。誰よりも目立つ容姿をしておいて……」
お互い人のことをとやかく言えないだろう。そんな私たちとは違って、ネルとティナの髪と瞳の色は我が国で最もオーソドックスといえる茶色と黒。ワンダさんに特徴を聞いたものの……当て嵌まる子供たちが大勢いるので、私たちは途方に暮れてしまった。
「グチっててもしょうがない。やるぞ、クレハ」
「はい」
挫けそうになりながらも私とルーイ様はお互いを励まし合い、探し回った。目立たないように私たちの後をついてきてくれてるフェリスさんたちも大変だっただろう。でも、その苦労の甲斐あってか、目当ての少女たちはそう時間をかけずに見つけることができたのだった。
「ルーイ様……」
「ああ、あの子たちだろ。ちゃんと見えてる」
広場の大体真ん中辺りだろうか、子供たちが集まって何かの作業をしていた。ゆっくりと慎重に近づいていく。子供たちの手には絵の具や筆などの画材が握られていた。もう少しだけ側に寄ってみる。皆で写生を行っているようだ。懇親会で展示するのだろうか。
この距離だと彼らの声もある程度聞こえてくる。とても楽しそうだ。 10歳前後の子供が4人と……後は大体4、5歳くらいだろうか。この4人の中の2人が、私たちが探している少女……ネルとティナの特徴に合致していたのだ。
「それじゃあ、クレハ……いや、ラリー。打ち合わせした通りにやるぞ」
「はい。ルーイ先生」
幼い子供たちの面倒を見ながら懇親会の準備を一生懸命に行っている。どう見ても普通の女の子たち。あのような姿を目の当たりにしてしまうと、事件の話題で水を差してしまうことに罪悪感が芽生えてしまいそうだ。しかし、こちらとて譲れない。深呼吸をして心を落ち着かせると、私はルーイ様と共に子供たちの輪の中へ向かった。
「上手に描けているね」
ルーイ様に話しかけられた少女は、弾かれたようにこちらに振り向いた。黒くつぶらな瞳が見開かれ、表情は驚きと困惑に満ちている。そして、そこには徐々に警戒と恐怖も追加されていく。知らない人に突然背後から声をかけられたのだ。無理もない。
濃い茶色の髪を三つ編みに結った14歳くらいの女の子……ネルの特徴と一致している。更にすぐ近くには胡桃色の髪をした短髪の女の子もいた。少女らは花壇に植えられた花の絵を描いていたようだ。
「驚かせてすまない。君たちがあまりにも楽しそうだったから、何をしているのかと気になってしまいつい……」
ルーイ様は謝罪の言葉を伝えると、満面の笑顔を向けた。ネルとティナとおもしき少女……そして、その他の子供たちも一瞬にしてルーイ様に釘付けになってしまった。彼の笑顔はこんな幼い子供まで魅了するのか……
「……確か、もうすぐ聖堂で定期的に行われている懇親会があったはずだね。それ用の作品かな?」
「……はい。そうですけど」
懇親会という馴染みのある言葉を聞いたからか、子供たちの警戒がいくらか弛んだ気がする。年長グループのひとりがルーイ様の問い掛けに答えたのだ。そのタイミングを逃さず、ルーイ様は会話を展開していく。
「やっぱり。懇親会は毎度内容が違っているとマードックから聞いてはいたけど、今回は絵画の展示もするのか。素敵なアイデアだね」
「マードック……お兄さんは司教様のお知り合いですか?」
司教様の名前に子供たちは反応を示す。警戒が徐々に好奇心へとすり替わっていく。ルーイ様の見た目効果も大きく、私たちが何者であるか興味津々だ。
「ああ、俺としたことが……名前も名乗らずに失礼した。俺はルーイ。こっちの女の子は助手のラリー。マードック司教の友人で教師をしているんだ。よろしくね」
司教様の友人で教師……ルーイ様は聖堂内で自身の肩書きをそう主張している。ワンダさんの時もそうだった。司教様と知り合いであり、レオンの先生をしているので嘘ではないが……世間一般がイメージする教師や神官とはかけ離れていると思う。
それでもこのルーイ様の自己紹介は子供たちの警戒心を無くす後押しをしてくれた。聖堂に通っている子供らにとって、やはり司教様は特別なのだろう。
「ラリーです。よろしくお願いします」
ルーイ様に続いて私も軽く挨拶をした。今の私は彼の助手なので目立たず控えめに……
私と同じ年頃の子供もいる。自分の存在が話をしやすい空気を作るのに役立ってくれればいいと思う。
「俺とラリーは今、リアン大聖堂について調べているんだよ。それで聖堂で働いている人や信徒たちに話を聞いて回ってるんだ」
「聖堂のお仕事に興味があって……私と同じくらいの子供もお手伝いをしていると聞いたので、参考にさせて頂きたいのです」
子供たちは私とルーイ様の話を黙って聞いてくれている。大丈夫かな。変に思われていないかな。心臓がバクバクしてる。
「そういう訳なんで、君たちの話も聞けたら嬉しいんだけど……あまり時間は取らせないからどうだろう? さっきそこで素敵な花の絵を描いていた彼女たち……ふたりに代表で」
ルーイ様が指名したのは言わずもがな……ネルとティナと思われるふたりの少女だった。






