ーのろいおにrdpnー
※ちゃっかり同棲してます
頑張ったごほうび
ぼんやりとする意識の中、そのまま意識を失うことなどできず、疲れた体に鞭を打つ。教師とは如何にブラックなものか。かじりつくようにパソコンに向けていた眼を窓に向ければ上っていた日はいつの間にか沈み月が顔を出していた。時間感覚を取り戻したと同時にこのクソみたいな現状にうんざりする。眼をそむけていた疲労感を思い出し、目の前にある業務を放り出したくなる衝動を抑え、先ほどよりも気合を入れ業務に取り組む。理由としてはシンプルなもので早く家に帰りたいからである。家に帰って早く寝たい、プライベート空間に戻りたい、なんて欲望がないわけではないがそれよりも自分を癒してくれる存在に早く会いたい。それは幼馴染であり現在の恋人でもある天乃絵斗だ、ちらりとスマホの画面を見ると画面はついており、天乃、その弟であるロボ太、そして自分がいる。いつの日か出かけたときに撮ったこの写真は長らくこのスマホのホームを飾っている。いつもの太陽のような笑顔は電子上のデータだとしても美しく見える、という話はとりあえず今はいいとして、それよりも重要なのは恋人からの連絡があったということだ。スマホのロックを開きメッセージアプリを見れば、前回のメッセージと先ほど送られてきたメッセージが画面に映る
【お疲れ様、いつ頃帰ってくる?】
という少しこちらを気にしながらも簡潔でかわいらしい内容に頬が緩む。背を椅子に預けながらポチポチとスマホのキーボードを押し返事を返す。
【もうすぐ終わる、眠かったら寝てて】
と返事を返すとスマホを伏せ残りの業務をさっさと仕上げ荷物をまとめ早足で学校の施錠をし、さらに足を速め家へ一直線で帰る、そこまで時間は経っていないがこの時間帯だ、寝ている可能性もある、癒しがすぐに欲しいところではあったが、まあ帰った時に話せなくても明日の朝話せればいいし、恋人の寝顔を見るだけでも十分に自身を取り巻く疲労感は晴れることだろう、なんて考えて居るうちに目の前には見慣れた我が家があった。
なるべく音を立てないようゆっくりと鍵を回し扉を開けると少しびっくりしたような顔の天乃が立っていた。冬に差し掛かった季節は室内で厚い防寒着を着るには熱く、そのまま外へ出るには寒く、目の前の恋人はまさに外へ出る装いをしていた。
「…どっか出かけるの?」
出た声はどこか暗く重い、生気を失った瞳はじっと星のよう双眼を見つめるが
「あれ?メッセージ見てない?送ったんだけど…」
とスマホをポケットから取り出しすいすいと画面を操作する。あ、ほら、と差し出された画面を見れば
【いつもの時間?迎えいくよ】
という未読のメッセージがあり自分もスマホを出し確認する。確かにそのメッセージは送られており、すぐに天乃に謝る。
「あっ…ごめん確認不足だった…」
しかし、天乃は別にいいよそれより疲れてるでしょ、と手を引いてくれ家へ入る。肌寒い外気が遮断され、室内の暖かい空気と暖かい手に張りつめていた気持ちがほどける。あぁ自分にはもったいなくて、自分のものにしかなってほしくない愛しい恋人はなんて優しいのか、自然に口角が上がる。ふふ、と笑えばどうしたの?と可愛らしい顔でこちらを見てくる。
「ありがと」
と小さく言えば目の前の恋人は頬を赤く染め微笑む、と思えばびっくりしたような顔をしいつもの輝くような笑顔でこちらに手を広げる。それに吸い込まれるように収まればぎゅっと抱きしめられる、そのまま方に顔をうずめれば日光のようなにおいを感じ、疲れが取れていくのを感じる
「らだぁ?すごい疲れた顔してる、大丈夫?」
と言いながら背をさすってくれ気持ちも落ち着いてくる。ごはん、食べる?温めるよ?と問われれば力なく頷く、が手を離すことはせず、天乃に動けないから…と言われ手を緩めるがまた後ろから抱き着く、それに絵斗はあきれたようにため息をつき、ロボ太はもう寝ちゃってるからね、とプイっとそっぽを向きいうがが仄かに染まった頬を見逃すことはなかった。そしてそのままリビングに向かうと机には一人分の料理がラップをかけて置いてあった。温めるから離して?と言われしぶしぶ離すと天乃は着ていた上着を椅子に掛け、机に置いてある料理を持ち電子レンジで温める、スープもあったのかコンロに置いてあったままの鍋に火をかけ、鍋の様子を見ている。
少し厚めの上着を脱ぎそれをハンガーにかけるついでに天乃の上着もかけるとちょうど湯気の出ているお椀をもって戻ってくる、ありがとうと言い椅子に腰かけ、お椀を見てみれば中には豆腐とわかめの入ったいたってシンプルな味噌汁が入っており、なんだか頬が緩んでしまう。と同時に電子レンジの音が鳴り、とってくるね、と天乃がぱたぱたと小走りで向かっていく、机にあるカトラリーケースから箸を出しコップにピッチャーの水を入れていると天乃が食事を持ってきてくれ、反射的に席を立ち受け取るように手を差し出せば皿を一つだけを渡しもう一つはそのまま天乃が運んでいきテーブルに置かれる。テーブルに並んだ食事は少々歪ながらもとても食欲をそそられ、手を合わせ頂きます。と癖になっているにも関わらず少しこっぱずかしい挨拶は消え行ってしまいそうな声量にもかかわらずそれを聞いた天乃は召し上がれ、と屈託ない笑みで言うもんだから、結局言わないことも声を大きくすることもせず続けるのだ。暖かくなった唐揚げと卵焼きは出来立てのような食感ではなくなってしまったが、美味しいことには変わりなく、きちんと咀嚼し味わう。その様子を隣で頬杖を突き眺めている天乃がいる。細まった目にゆるく口角を上げている天乃は、まさに幸せです。と言っているようで温まっている心がさらに温かくなる。
「あ、お風呂沸かしなおしてくるね!」
はっとした顔をして立ち上がったかと思えばそう言いバタバタと走っていく天乃の後ろ姿にクスクスと笑ってしまう、きっとその様子を見れば可愛い恋人は拗ねてしまうだろう、それすらも可愛いと感じるのだからかなり重症だ。
さて、食事を終えると階段を下りてくる小さな足音が聞こえる。
「ん、先生おかえり」
少し眩しそうに眼をこすりながらこちらに来るロボ太はどこか眠くなさげで、すまん、うるさかったか?と問えば
「いや、先生が帰ってきたとき起きてもうたんやけど、寝付けんくなって、ちょっと水飲みに来た」
そういいコップを出しに行こうとしていたが、それを止める。ロボ太は、なんや…と言いたげな不機嫌そうな顔をするが
「せんせーがすぐに寝付けるおいしーもんつくってやるよ」
と悪そうな顔で言えば興味ありげな顔で
「…おう」
なんて言うもんだから面白くなり腕によりをかけはちみつホットミルクを作り始める。洗い物を増やすのは面倒なためマグカップに牛乳を入れ、膜を張らない程度に温める、温め終わるとカップにはちみつをいれ、匙でよく混ぜる。そして匙すりきり一杯にはちみつを入れ軽く混ぜる。
「おし、できた。ほい、熱いからきおつけろよ」
入れっぱなしの使っていない手拭いをマグカップに軽く巻き付けロボ太に渡す。少し目をぱちくりとさせた後、ふーふーと息を吹き、軽く表面を冷ました後コップを傾けこくこくとはちみつホットミルクを飲むとホッと息を吐き笑う。うま、と小さく声をこぼしまた一口、口をつけようとしたところを止めいいことを教えてやる。
「入ってるスプーン、牛乳すくわないで口に入れて舐めてみな」
それを聞き怪訝そうな顔をするがマグカップを見つめそろそろと匙を手に取り口に含む。するとパッと表情を明るくさせこちらを見る
「なんこれ!なんかうまい!」
だろー、と自分のことのように自慢をしていると天乃が戻ってくる
「らだぁー、ってロボ太!?どうしたの!?うるさかった!?」
ごめんねぇーと言いながら頭をなでていると手元のマグカップに気付いたのか目を見開く
「これ…はちみつホットミルク?」
そう聞くとロボ太は驚いたように、せやで!兄さんようわかったね、とにこにこと笑うロボ太と思い出の飲み物に天乃は目を細める
「覚えてたんだ、これ」
ん?と不思議そうに天乃のほうを向くロボ太に何でもないよ、とごまかし、ほら!お風呂準備できたから入ってきて!とこっちに来て背を押す天乃に抵抗せず、しかし自分から歩くこともせず押されるたび一歩一歩と誘導されて脱衣所につく。天乃も入る?と聞いてみれば顔を赤くし洗い物あるから!と大きな声を出してさっさとこの場から去る、かわいいなぁとぼんやりと考えながら風呂場に入ると控えめながらもリラックスできる入浴剤のいい匂いがした。脱衣所にすでに用意されていたパジャマとバスタオル、フェイスタオルに彼らしい気づかいがあってつい和んでしまった。
「ん、おかえり、さっきはありがとね」
おそろいのカップには見覚えのある飲み物が入っていた。それにしても懐かしいよね、とカップに入っている匙をくるくると回し持ち上げるとぱくりと口に含む。隣に座り、置いてあるカップを見ればはちみつホットミルクが入っており、目を細め昔を思い出す。
「ふふ、昔俺が作ってたの、よく覚えてたね」
昔を懐かしんでいる天乃は、どこか特定のものに標準を合わせることなく前をまっすぐ見ている。当たり前だろ、天乃のことはよく覚えている、感情が不安定になった時にこれを出してくれたことも、匙に若干残っているはちみつを舐めている天乃の可愛い顔も、そのあと眠気に耐え切れず眠ってしまったことも、家に帰る時間が…いや、これはいいか。
ようやく浮上した意識で隣を見やればこくりこくりと船を漕ぎ始めている。
「天乃、眠い?」
目をこすり頷く彼を持ち上げ寝室へ向かう。ゆっくりとベッドへ下ろし、自室へ行こうとすると袖を引かれる感覚がする。振り向けば天乃が寝ぼけ眼ながらもこちらを見やる。のそのそと広げられる両腕に収まれば子供をあやすように背をさすられる
「…もう、つかれ、とれた?」
ろれつの回らない口で紡がれた理性的な言葉に優しく答えてやればへにゃっと破顔し、らだぁのこと一番わかってるの俺だしな、なんていうんだから可愛い。まだ袖をつかんでいる手は微力ながらもこちらをベッドへ引きずり込もうとする。抵抗することなく倒れこめば顔を合わせ、ふわっと微笑む。そんな顔を眼に焼き付けながらも頭の隅で今日はこのまま二人で寝るのかな、と考えているとチュッと可愛らしいリップ音が鳴る。
「おやすみ、ゆっくりやすんでね」
瞼で隠れる宝石を最後まで見届ければすぐにすーすーと規則正しい寝息が聞こえてくる、そうだね、俺のことを一番わかってるのは天乃だし天乃のことを一番わかってるのは俺だから、どうすればいいかなんてお互いがよくわかっている。上半身を軽くおこしキスを送ってやればどこか幸せそうな顔をする天乃。
「おやすみ、絵斗」
身を寄せ上がる体温が心地よかった
こんな長くする予定じゃなかったんです…
コメント
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素晴らしい語彙が織り成す鮮やかで暖かな物語にこっちも凄く癒されました…*ˊᵕˋ* とても心が温かくなります…素晴らしい作品をありがとうございます🙇♂️☺️