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初めての登校。
今日から私は華の高校生です。
友達を沢山作りたい。部活も真剣に取り組みたい。勉強だって成績上位に上がりたい。
あと、恋人も欲しい。
高校生でしたいことなんて山ほどある。
そのうちの数個でいいから叶うといいな。
まだ4月の上旬だというのに体育館は蒸し暑くサウナのよう。
周りの人は誰か知らないから話しかけるのにもかなりの勇気がいる。
そんな風に考えながら焦っていると右隣から肩を叩かれる。
顔を向けると小柄で華奢な女の子がいた。
「体育館暑くない?」
そう一言だけ言って微笑む彼女。
「だ、だよねー!」
いきなり話しかけられて緊張し私は噛んでしまった。
そんなことを気にする素振りも無く彼女は私に名前を聞く。
入学式中は彼女とずっと話していた。
彼女は天野 千晴といった。
ちはるは優しくて明るくて可愛らしい子。
ふわふわと揺れるセミロングの髪型がとても似合っている。
「ちはるはさなんでこの高校に来たの?」
「んー、制服が可愛かったから、かな!」
理由が中学生みたいで凄く可愛い。
私は青春を送るためだなんていかにも陰キャそうな事を考えて来たのに。
「雨愛は?」
「私は…、ここ偏差値が結構高いから、かな、?」
嘘をついた。
本当のことを言ってちはるに嫌われたくなかったから。
「へー!あめって頭良さそうだしね!」
「しっかり者だー!」
ちはるはそういって私を褒めてくれる。
私はそんな人間じゃないと言おうと思ったのに言葉が出ない。
上手く話せない。
きっとこの秘密は誰にも打ち明けられないのだろう。
入学して1週間が経った。
この学校は規模が大きく一学年13クラスもある高校だ。
1クラス約30人で全学年合わせて1000人を超えている。
同じ学年の子の名前など覚えれるはずもない。
誰が誰なのか廊下を通る度に知らない子が横を通る。
私はいつもちはるといるから他クラスに友人ができるなどありもしない。
一方ちはるは愛嬌がありコミュ力が高いから誰とでも仲良くなれる。
正直言って羨ましい。
私にはそんなことできやしないから。
とある日のこといつものようにちはると教室で話していると、とある男子生徒が入ってくる。
一目で私の心を奪った。
彼は学年のアイドル的存在で優しく、そしてかっこいい憧れの人。
五十嵐 晴。
一度も話したことない彼が気になってしまう。
目で追ってしまう。彼がどうしても気になってしまう。探してしまう。
話しかけ方も分からず四六時中頭の中に彼の顔が浮かび上がっている。
結局SNSで連絡を取ることにした。
初めて話した彼は凄く優しくて面白い人だった。
会話が弾む。
明日話しかけるよ!と彼の方から言ってくれる。
どうしよう。
こんなに気持ちが大きくなるなんて思わなかった。
好きがどんどん心の中に溜まっていく。
行き場のない好きを貯め続けてしまう。
次の日。彼を目で確認した途端に胸が締め付けられてしまう。
どうすればいい?
私から話しかけようか。
どうすればいいのか。
そんなことを頭の中で考えていたら不意に手を掴まれる。
振り向くとそこには彼がいた。
「い、がらし君…。」
「あ、えっと、青山さん、だよね?」
「うん。」
この瞬間どうしようもなく顔が赤くなってしまった。
どうすればいいのか。鼓動が速くなる。
周りの人にも心臓の音が聞こえてしまいそう。
「ごめん、そのつい。見かけたら話しかけるって言ったし…。」
「うん。嬉しい。」
顔が見れない。
暑くてしょうがない。
全身から汗が出てくるのがよくわかる。
「あ、えっと。また、話しかけるから!」
「うん、。」
そういうと彼は私に手を振り友達の元へと帰って行った。
「え、えぇ!あめ!いつの間に五十嵐くんと仲良くなったの?!」
「びっくりしたよ!」
そう言ってちはるは私の方を向き目を見開く。
その瞳は動揺しているようにも見えるがどこか憎悪が隠されているような気がする。
気の所為だと思いつつも「昨日SNSで話したんだよ!」とだけ言いまた一歩足を踏み出す。
五十嵐くんとはお互い名前で呼び合える程仲良くなった。
「はるくん!この動画みた?!」
私はそう言って彼の元へ駆け寄る。
名前で呼ぶのも緊張しない。
近くに行くだけで顔が真っ赤になんてならない。
着実に距離を縮めていると思う。
「おー、あめ。そんな走ると危ない、」
そう言って彼は私を気にかけてくれる。
大丈夫だと心の中で思っていたが私は机の足につまづいてしまう。
「きゃっ!」
転けると思っていたが何故か痛くない。
それに温かい気がする。
顔を上げると彼が心配しつつ困ったような表情をしてこちらを見ている。
「大丈夫?だから言ったのに。」
そう言って私を掴む力を和らげる。
「ごめん。早くはるくんの所行きたくて…。」
そう言うと彼は顔を赤らめてそっぽを向いてしまった。
きっといい感じだと思う。
毎日の日々にどきどきしてしまう。
もしも彼が私に好きだと言ってくれたらそれはきっと高校生活が完璧に進んでいる証拠だろう。
数日後。
いつものように部活終わりくたびれながら帰路に着くとそこには彼が居た。ちはると一緒に。
心にもやがかかる。
吐き気がする。
心臓の音が速い。
なんだろうこの感情は。
上手く言葉に表せれない。
空は黒みがかった雲で覆われていた。
「あ、あめ!おはよう!」
「お、おはよう。」
いつもと同じちはる。
何かを思っている様子は微塵もない。
「あのさ。昨日なんではるくんと一緒にいたの?」
「え?あぁ、たまたま会って2、3分話しただけだよ~」
そう言われた途端に心のもやが少しだけ晴れた気がした。
「そ、うなんだ。」
顔に出さずとも心の中ではほっとしている自分がいる。
そう安心していたのも束の間。
「うん。はるとはまだそんな関係じゃないよ~」
はる…。まだ、?
どういうことなのか理解ができない。
いつから仲良くなったの?どういうことなの。
不安になる。
再び心にもやがかかり始める。
それは昨日とは比べ物にならないほどの黒さ。
今日は晴れの予報なのに何故だか雨がぽつりぽつりと降り始めた。
暗い気持ちで校舎を出ると雨が大量に降っている。
どうせならいっその事心にけじめをつけた方がいいのではないかと思い始める。
正直最近の彼はおかしかった。
私のクラスに来たと思えば私ではなくちはると話し始める。
本当は分かってた。
彼の心はちはるに向いている。
知っていたのに分からないふりをした。
自分の気持ちをこれ以上傷つけたくなかったから。
時々気持ちを落ち着かせるために行く公園。
ここは私の通う高校の裏道にある。
あまり知られていないが凄く綺麗にされていて気持ちが落ち着く。
傘からはみ出た靴を雨が濡らす。
靴が水滴を少しだけ飛ばす。
その先に目をやると彼がいた。
傘をさして何処かへ歩いている。
きっとチャンスは今しかない。
好きだと彼に伝えよう。
そう思い走ろうとした時。
「はる!」
声の主はちはるだった。
そう彼の名を呼び、駆け寄っていく。
そして彼へ飛びついた。
彼は驚きつつもすぐに微笑みちはるの頭を撫でている。
私の好きはもうとっくに溢れ出していた。
自然と涙が溢れ出る。
傘が手からするりと落ちる。
私は全身の力が抜け膝から崩れ落ちてしまう。
見たくもない。
けれど目を背けることができない。
彼はちはるに優しいキスをした。
そして私がずっと求めていた言葉を囁く。
「ちはる、好きだよ。」
そう言ってふたりは小さな傘に入り横並びになる。
彼の左肩が少しづつ濡れていく。
そして彼は「あめ、うざいなぁ」と一言だけ空に向かって言った。
それはまるで私に向けられた言葉のよう。
そんな中私は声も出さずにただ密かに涙を流している。
そんな私の横にある公園の花壇。
花壇には美しい花の近くにクローバーが咲いている。
なんだか彼に好意を寄せている私のようでまた涙が溢れ出てくる。
クローバーの花言葉は「私を思って」
「君も私と同じなのね。」
そう私が放った言葉は雨の降る音で消えてしまった。
そんなのお構い無しに私はクローバーの方を見てただただ涙を浮かべて泣くしか無かった。