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”世界の終わり”
『魔王』と呼ばれていたものを倒したその日。
英雄たちが一斉に眠り始めたその日。
世界にいる人々が一斉に『 』を失った日。
「ははうえ、ははうえっ。みてみて!このえ!」
バンッと扉を開け、部屋に入っていくとドア付近に控えていた侍女がひっと息をのんで青ざめる。
その日、僕はいつもながらに母に買ってもらった「絵」を見せようとしていた。
僕の大切な、宝物。母上が、初めて僕のために買ってくれたものの魅力を伝えようと必死でそれを見せた。
「あら、なに?お下品な言葉遣いだこと。それでは家畜と変わりないじゃありませんか、アーシュ?」
母様はそれ以上何も言わず、いつものように僕に微笑む。
僕はにこりと笑って姿勢を正した。もう、僕の言葉は通ることはない。
「ごきげんよう母上。今日も母上がすこやかにお過ごしできるようお祈り申し上げます。」
「………そう、”お母さま”今日は忙しいから部屋に来ないで頂戴?」
いつも通り柔らかい口調ではあるものの言葉の節々にチクチクと悪意が混ざっている。
母は浪費癖がありあまり僕にお金を割いてはくれない。それなりに外面はきれいだけれど、靴下は洗いすぎて擦り切れて薄くなってしまっているし、手洗いをしているせいで手袋の下の手はあかぎれだらけである。
僕の側近は一人、ウォルフだけだ。有能だけれどおっちょこちょいなところがある十五歳の従者。十も年上のせいで遊び相手になることは少ない。
「アルシュレイン様?」
「ウォル、なあに?それは」
大きな紙の束を抱えて部屋にやってきた。見たところ、地図や政治資料などが多いだろうか?
「殿下からのお申しつけです。期限は三日後までらしいですよ」
「ああ、兄上からか。了解しましたとおつたえして」
少し微笑みながら言うと僕はさっそく椅子に腰を下ろした。ペンをもち、慎重に配達された羊皮紙たちに線を引いていく。
兄上の卒業パーティーの来賓、母上のアフターヌーンティー参加者の派閥、条例の確認・補正、来月の国民満足度調査の結果。
小さいころは宝石のようにきれいだった文字が今ではもうすっかり退屈なただの色として目の奥に焼き付かれてしまった。
「アルシュレイン様」
僕はまだ五歳だけれど、こんなに大きくはなりたくなかった。
母上の前では幼気な子供を。
兄の前では都合のいい弟を。
妹の前では美しい兄を。
父上の前では立派な世継ぎを。
僕は日々、演じている。
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