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2 - 夜の研究室(🐟×🦊)

♥

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2025年11月05日

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夜の研究室は、昼よりも静かだった。

試薬の匂いに、かすかにコーヒーの香りが混ざる。

机のランプの光が器具や資料をやわらかく照らし、微かな機器の動作音だけが夜の時間を刻んでいた。


「先生、まだ残ってたんですか」

ツナっちがマグカップを二つ手に持って入ってくる。


「もう少しデータまとめたら帰るよ。君も遅くまでご苦労さま」

くられは穏やかに笑う。

ランプの光が揺れて、二人の影が床に長く伸びた。


ツナっちはマグカップを机に置き、もう一つを先生へ差し出す。

「熱いので、気をつけてくださいね」


くられが受け取ろうとした瞬間、ツナっちの手がそっと添えられた。

指先が、ほんの一瞬かすかに触れる。

それだけのことなのに、空気が少し濃くなった気がした。


「……ああ、ありがとう」

自然に出た声が、いつもより低く響いた気がする。

マグカップの温かさと、触れた指先の余韻が混ざり合い、呼吸のリズムがわずかに乱れた。


ツナっちは何事もなかったように席に着き、少しだけ距離を詰める。

そのわずかな近さが、不思議と意識に残った。

ランプの灯が揺らめき、コーヒーの湯気がふたりのあいだを静かに漂う。


静寂の中、機器のランプが小さく瞬き、研究室を淡く染めていく。

くられはマグカップを手に取りながら、指先に残る微かな感触を思い返した。

どうして、ただそれだけのことで心臓が落ち着かないのか――

思考の片隅で、小さく首を傾げる。


ツナっちはその視線を横目で捉え、ふっと微笑んだ。

その笑みはどこか確信めいていて、夜の静けさにゆっくりと溶けていく。


やがてツナっちは立ち上がり、軽く伸びをした。

「そろそろ帰ります。先生、あんまり無理しないでくださいね」

「心配性だなぁ。大丈夫だよ」

「……そうですか」


ツナっちは小さく笑い、手を振って研究室を出ていった。

扉が閉まる音だけが響き、再び静寂が戻る。


くられは手元のマグカップを見つめ、ゆっくりと息を吐く。

湯気の向こうで、わずかに残る指先の感覚が蘇った。

理由もなく、胸の奥が騒がしくなる。

それが何なのか――自分でも、まだうまく言葉にできなかった。


廊下の向こうで、ツナっちは小さく呟く。

「……気づいてないんですね、先生」

その声は、夜の冷たい空気に溶けながら、どこか嬉しそうに響いていた。

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