テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
犬神蓮(活動休止中)
85
李衣菜
2,959
#いじめ、裏切り
ここでは裏切りの種類で紹介した裏切りの一〜五を短いストーリーで紹介しようと思う
①感情的・人間関係の裏切り
「絶対に誰にも言わないでね」
そう言って震える手で差し出された彼女の秘密を、私は確かにこの胸に仕舞ったはずだった。彼女がどれほど怯え、どれほど私を信頼してくれたかも分かっていた。
それなのに、放課後の賑やかなファミレスで、周囲の会話に置いていかれそうになった瞬間、私の口は勝手に動いていた。
「ねえ、ここだけの話なんだけどさ……」
場がドッと沸き、私の心は一瞬の歪んだ高揚感で満たされる。
翌朝、登校した彼女の顔から一切の血の気が引いているのを見たとき、私の背中に冷たい汗が流れた。彼女の視線は二度と私と交わることはなく、私は自分が何を殺してしまったのかを、その静寂の中で思い知ることになる。
②社会的・集団における裏切り
深夜二時、オフィスに残されたのは僕と同期の佐藤の二人だけだった。
数ヶ月間、寝食を忘れて二人で練り上げた新規プロジェクトの企画書。これが通れば、二人の出世は確実だった。
「よし、これで完成だな。明日、二人で部長に提出しよう」
佐藤は僕の肩を叩き、笑顔で帰路についた。
翌朝、僕が少し遅れて出社すると、フロア中が拍手に包まれていた。輪の中心にいる佐藤が、誇らしげに頭を下げている。プロジェクターに映し出されていたのは、昨夜完成させたあの企画書だった。ただし、提出者の欄には「佐藤」の名前だけが不自然なほど大きく刻まれている。
目が合った瞬間、佐藤はフッと口元を歪め、何事もなかったかのように僕から目を逸らした。
経済的・ビジネスの裏切り
③
彼とは学生時代からの起業仲間で、互いの財布の底まで知っている仲だった。会社が軌道に乗り始めた頃、彼は「財務は俺がすべて引き受けるから、お前は営業に集中してくれ」と、人懐っこい笑顔で通帳を預かっていった。
数年後、大口の取引先から「入金が確認できない」と一本の電話が入る。
慌ててオフィスの金庫を開けると、そこはもぬけの殻だった。会社のメイン口座からは、数日かけて巧妙に資金がすべて抜き取られている。
彼の携帯に何度かけても、「おかけになった番号は……」という機械音声が冷たく響くだけ。デスクに残された一枚のメモには、『すまん、先に行くわ』とだけ書かれていた。
④精神的・自己の裏切り
幼い頃から、私は絵を描くことが何よりも好きだった。キャンバスに向かっているときだけが、本当の自分でいられる時間だった。
しかし、大人になるにつれて、周囲の「そんなもので食っていけるわけがない」という声が耳にこびりつくようになる。安定、世間体、平均年収。そんな言葉の並ぶパンフレットを前に、私はお気に入りの筆をゴミ箱へと投げ捨てた。
スーツを着て、望んでもいないデスクワークをこなす毎日。鏡に映る自分の目は、完全に死んでいる。
「これで良かったんだ、これが大人の生き方だ」
そう自分に言い聞かせるたびに、胸の奥で、かつての自分が激しく泣き叫んでいるのが聞こえる。私は他人の目を恐れるあまり、世界で一番大切な自分自身を、この手で裏切り続けている。
⑤制度的裏切り
その告発ボタンを押すまで、私はこの会社を心の底から愛し、誇りに思っていた。
上司による組織的な不正アクセスの証拠を見つけたとき、私は社内のハラスメント・コンプライアンス窓口を頼った。会社を正しく導くための、正当な手続きのはずだった。
しかし、呼び出された会議室で待っていたのは、厳重な調査ではなく、冷徹な役員たちの視線だった。
「君の勘違いじゃないかね? 事を荒立てれば、君自身の立場も危うくなるよ」
翌週、私は全く畑違いの地方の閑職へと異動を命じられた。社内では「あいつは虚偽の報告で会社を混乱させた」という噂が、組織の手によって意図的に流されている。守ってくれると信じていた組織という名の巨大な壁は、私を守るためではなく、私を圧し潰すためにその重みを増していった。
コメント
5件
みぅ🤍🥀です、読了しました…🌙 5つの裏切り、どれも心にズシンと響きました。特に④の「自分の夢を自分で裏切る」話がグサッときたなあ…キャンバスに向かう自分を♡♡♡てスーツを着る選択、鏡の目の死んだ感じ、すごくリアルで苦しかった。③の起業仲間の金銭的裏切りも、『すまん、先に行くわ』というメモの軽さが逆に重いですね…。 犬神蓮さんの、裏切りを類型で整理しながらも、それぞれに体温のある短編を詰め込む構成、好きです。続きも読みたいです。お疲れさまです🤍