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『昨夜は言い過ぎた。悪かった』
フリッツに詰られた翌朝。
彼はバツの悪そうな顔をしながらも、潔く頭を下げた。
レジーナは驚きつつ、フリッツの謝罪を受け入れた。
危険なダンジョン内。
レジーナとて、彼らと仲違いをするつもりはない。クロードの負担が増えるような真似はしたくなかった。
だが、なぜフリッツが急に態度を変えたのか。その疑問だけは残った。
昨日と同じ隊列で進むダンジョン。
時間の感覚がわからなくなる空間で、レジーナたちはひたすらに歩き続けた。
だが、水の補給はどうにかなるものの、もう丸一日以上、何も口にしていない。元々、体力の少ないレジーナとエリカの疲労は頂点に達していた。
そんな中、十階層を目前に現れた別れ道。
クロードが、その日初めて足を止めた。
彼曰く、この先の道はどちらも同じ場所に繋がっている。しかし、夫々の道の先にある仕掛けを同時に起動しないことには、その先の扉が開かないのだと言う。
フリッツが即座に判断する。
「二手に分かれるしかないだろうな」
しかし、クロードは頷かず、逡巡を見せた。
彼の迷いに、フリッツが言葉を重ねた。
「ここまで来れば、俺たちだけでも魔物に対処できる」
「……罠がある」
「それも問題ない。学園の実習で、罠対策は一通り学んだ。……だが、そうだな。万一を考えて、回復役を分けるか」
フリッツの視線がレジーナに向けられる。
「レジーナ、お前、治癒魔法はどの程度使える? 擦り傷程度か? 重症でも、止血ぐらいは出来るのか?」
「……自身の怪我であれば、問題なく」
「ふん。だったらまあ、なんとかなるだろう」
フリッツによる組分けは簡単だった。
私とクロードの二人に対し、残りの五人でもう一組を作る。
これならば、両方に怪我人が出たところで対処できる。
クロードにいたっては、怪我の心配さえされていなかった。
クロードは、悩んだ末、その案に頷いた。
それぞれの組に分かれた後、レジーナはクロードの後に続いて歩き出した。
彼の邪魔にならぬよう、気を張っていたが、すぐにそれが無用の心配だと分かる。
(……これは、罠の意味があるのかしら?)
クロードは罠を回避しない。
その尽くを発動させ、破壊し、進んでいく。
翔んでくる矢を叩き落とし、発射口に剣を突き立て、地面に露出した毒針の山を剣で横薙ぎに払う。
まさに露払い。
だが、流石に、転がってきた巨大な鉄球を一刀両断した時には、レジーナも悲鳴を上げた。
そうして、レジーナたちはかすり傷一つなく、行き止まりの大広間に辿り着いた。
クロードが部屋の隅の装置を作動する。
広間の壁の一部がギシギシと、機械の巻き上げのような音を立てて持ち上がった。
その向こうに、更なる石の壁が現れる。
暫く待つと、その壁も同じような音を立てて上部へ持ち上がっていった。
一つに繋がった空間。
繋がった部屋の奥に人影が見え、レジーナはホッとする。リオネルたちだ。
レジーナとクロードは彼らの元へ向かった。
しかし、途中で異変に気づく。
レジーナの心臓が凍り付いた。
「アロイスッ!?」
石の床に、アロイスが横たわっている。
その横にエリカがしゃがみ込み、アロイスの脇腹に手を触れていた。
脇腹から流れ落ちる赤――
「アロイスッ!」
レジーナは駆け出した。が、すぐに転びそうになる。
恐怖と焦りに、身体が思うように動かない。
どうにか駆け寄ったアロイスの側、フリッツが茫然と立ち尽くしていた。
「殿下! アロイスはっ!?」
「……毒を、毒矢を受けた。俺を庇って。……だから、直ぐにエリカが治癒を、なのに……」
流れ落ちる赤が止まらない――
(ああ、嘘、なんでこんなところでっ……!)
固い石の上に寝かせられたアロイス。
いつも上半身を覆っている革製の肌着を外されていた。
身体の線を隠すための肌着。
それを外された今、彼女の身体の膨らみは隠しようもなかった。
フリッツがガクリと膝をついた。
「なんで……、アロイス、お前、なんで女なんだよ……」
彼の口から弱弱しい懇願の声が漏れる。
「エリカ、頼む……。アロイスを助けてくれ……」
エリカが申し訳なさそうに眉根を下げる。フルフルと首を横に振った。
「申し訳ありません、殿下。やってはみたのですが、やはり、私に女性の治癒は……」
顔を伏せるエリカに、レジーナは目の前が暗くなる。
血の気の失せたアロイスの顔。ゼェゼェと苦し気な呼吸を繰り返す。
レジーナはアロイスの側に膝をついた。
(嫌よ! こんなの嫌! 絶対に駄目……っ!)