テラーノベル
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「……兄貴、いいよ。後は紗南がやってくれるから」
遥が突き放すように言ったけれど、凌先輩は立ち止まらずに歩み寄り、私の手から包帯の予備をそっと受け取った。
「ダメだよ、遥。紗南ちゃんはマネージャーであって、君の専属トレーナーじゃない。彼女だって疲れてるんだから、休ませてあげなきゃ」
凌先輩の言葉は正論で、優しかった。でも、その瞳は少しも笑っていない。
「紗南ちゃん、おやすみ。ここは僕に任せて」
「あ……はい。おやすみなさい、二人とも」
私は逃げるように保健室を後にした。閉まりかけたドアの隙間から、二人の険しい沈黙が漏れ聞こえてくる。
廊下を歩いていると、中庭に続くテラスの影に、人影が見えた。
タバコは吸わないはずなのに、手持ち無沙汰そうに夜風に当たっている小谷先生だった。
「……朝倉か。遥はどうだ」
「あ、小谷先生。凌先輩が交代してくれました。今は二人で……」
「そうか。あの兄弟は、昔からああだ。互いに高め合っているのか、足を引っ張り合っているのか分からん」
先生は自嘲気味に鼻で笑うと、私の方を向いた。
「……成瀬には、明日俺から話しておく。お前はもう自分の心配だけして寝ろ。顔色が悪いぞ」
「先生……ありがとうございます。あの、先生も、お疲れ様でした」
私が深々と頭を下げて通り過ぎようとした時、先生がボソッと呟いた。
「……成瀬が、お前に感謝していたぞ。俺を足止めした功績だとか何だとか、訳のわからんことを言っていたがな」
その言葉に、私は思わず足を止めて先生の顔を見ようとしたけれど、先生はすでに背を向けて、暗いグラウンドの方を見つめていた。
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