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春の匂いがした。
少し冷たい風が頬をかすめて、どこか懐かしい気がした。
――こんな季節、前にもあった気がする。
いや、“前にも”じゃない。
何度も、だ。
「……また、ここか」
見慣れた公園。見慣れた空。
全部知ってる景色なのに、胸の奥だけがざわついている。
このあと、何が起きるのかも。
誰が、いなくなるのかも。
全部、知ってる。
「……はは」
乾いた笑いがこぼれた。
何回目だっけ。
もう数えてない。数える意味もない。
どうせまた、同じところで間違える。
どうせまた――
「おい、何ぼーっとしてんだよ」
聞き慣れた声に、心臓が一瞬だけ跳ねた。
振り返らなくてもわかる。
そこにいるのは、きっと――
「置いてくぞ?」
変わらない調子。
少しだけ呆れた声。
……そのままでいてくれよ。
頼むから、今回くらい。
ゆっくり振り返る。
そこにいたのは、やっぱり
いつも通りの顔をした三ツ谷だった。
「……遅ぇよ」
何気ない一言。
いつもと同じ、はずなのに。
喉の奥が、うまく開かない。
言わなきゃいけないことなんて、山ほどあるのに。
伝えたいことだって、何回も考えたのに。
結局、出てきたのは――
「……ごめん」
たったそれだけだった。
三ツ谷は軽く肩をすくめて、前を向く。
「いいって。行くぞ」
その背中を見ながら、ゆっくり息を吐いた。
――まだ間に合う。
――今回は、きっと変えられる。
そう思った。
何度目かもわからない、この春で。
私はまた、同じ嘘をつく。
「絶対、守るから」
……その言葉が、どれだけ空っぽかも知らないまま。