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17
「腹減った」
唐突にそう言ったのは、松野千冬だった。
「さっき食ったばっかじゃねぇか」
呆れたように返すのは、隣を歩く三ツ谷隆。
そのやり取りが、なんだかおかしくて。
「千冬ってほんと分かりやすいよね」
思わず笑いながら言うと、千冬がムッとした顔でこっちを見る。
「は?ちゃんと考えてるっての。今は“甘いもんの腹”なんだよ」
「そんな都合いい腹ある?」
「あるんだよ」
即答だった。
三ツ谷が小さく吹き出す。
「じゃあ奢りはお前な」
「なんでだよ!?」
「言い出しっぺ」
「横暴すぎんだろ…!」
いつもの流れ。
くだらない言い合い。
でも、その全部が心地よかった。
三ツ谷が少しだけ歩幅を緩めて、私の隣に並ぶ。
「お前、今日やけに静かだな」
「え、そう?」
「そう。さっきからずっと考え事してる顔」
図星だった。
一瞬、言葉に詰まる。
も――
「気のせいだよ」
笑ってごまかす。
三ツ谷は少しだけ怪しむようにこっちを見たけど、それ以上は何も言わなかった。
前を歩いてた千冬が振り返る。
「早く来いって!店閉まるぞ!」
「はいはい」
三ツ谷が軽く手を振る。
そのまま自然に、私の肩を軽く押した。
「ほら、行くぞ」
その一瞬の距離の近さに、少しだけ息が詰まる。
……こういうの、前もあった。
何回も。
何回も、繰り返してきた。
同じ場所で、同じ会話をして、同じふうに笑って。
その先に何があるかも、全部知ってる。
「――ねぇ、三ツ谷」
気づいたら、口が動いていた。
「ん?」
「……いや、なんでもない」
言えなかった。
言えるわけがなかった。
この時間が、どれだけ大事かなんて。
この中の一人が、いなくなる未来なんて。
「変なやつ」
三ツ谷が軽く笑う。
前で千冬が「早くしろって!」って叫んでる。
その声も、笑い声も、全部。
――ちゃんと覚えてる。
忘れるわけ、ない。
絶対に。
たとえ、この世界から消えたとしても。
私は、全部覚えてるから。
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