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『オリオンの膝下で』Ⅶ
付き合って初めてのデートは恋人として大事だと僕は思っている。
だからまだキスすらも顔を真っ赤にして戸惑うシンくんに「デート、どこ行きたい?」と聞いてみた。
「デート?」
「うん。初デートだから思い出に残る場所がいいよね。シンくんは行きたい場所ある?」
仕事終わり、シンくんの住むアパートに行ってまだ慣れないシンくんの緊張を解すためにほぼ毎日会いに行っていた。
付き合いたては普段のツンケンした態度とは一変して緊張して僕が近付くだけで体をビクンと震わせていたのが懐かしい。
今は触れるだけのキスをしたあとにシンくんの手を握ると頬を赤く染めながらデートと聞いて目を丸くするも口元は嬉しそうに笑みを浮かべている。
「行きたい場所かぁ・・・南雲は?」
「シンくんの行きたい場所に行きたいな」
「なっ・・・!それ狡いぞ!」
「だって本当なんだもん」
嘘はついていない。僕らはまだお互いのことを何も知らないに等しい。だから少しでも知りたくてシンくんの行きたい場所に僕も同じ景色を見たいと思っていた。
「どこでもいいのか?」
「うん!水族館でも動物園でも遊園地でも!あ、でも旅行は今は難しいかなぁ。長期休み貰わないとだし今泊まったらエッチなことしちゃうかも」
「っ」
初々しい反応を見るのは楽しくて、僕が冗談混じりのことを言えばシンくんは音が出そうなほど顔を真っ赤にするから肩を揺らして笑う。
「冗談だよ。行きたい場所思いついた?」
「ああ、ひとつだけ」
どこ?と聞くとシンくんは何か考える仕草をしたあと「まだ内緒」と言ってきた。
結局当日になっても行きたい場所は教えてくれなくて、シンくんの運転で車に乗り込んだ。
「まだ教えてくれないの〜?」
「ああ」
車内には流行りのJ-POPが流れている。シンくんはこういう流行りの曲が好きなのかと思いながら痛々しい歌詞のラブソングに耳を傾けて小さく笑う。
「これラブソングじゃん。シンくんったらオマセさんだねぇ」
「え!?これラブソングなのか!?」
恋人とのドライブでラブソングを流すなんて恋愛経験皆無なシンくんの割には珍しいと思って言ってみたらどうやら恋の歌とも知らなかったらしい。
「知らないで聴いてたんだ」
「テレビでいつも流れてるから・・・」
前を見ながら顔を赤くするシンくんは素早く片手で流れている曲をスキップして別の曲を選曲した。
「いーじゃん、初デートなんだから」
「あ、おい・・・」
普段からシンくんが運転することが多かったから自然と車内の選曲はシンくんがセレクトしていた。僕が勝手に操作してさっきの曲に戻すと『デート』というワードで唇を尖らせた後、大人しく運転を続ける。
時折運転するシンくんの横顔を盗み見て半分ほど開けた窓から流れる風に目を細めた。
「着いたぞ」
何も知らされずに連れて来られた場所は博物館だった。
『尾久旅科学博物館』という看板を駐車場で見つけて、そういえば大分前に爆破事件があって半壊したと大掛かりなニュースが流れていたのを思い出す。
確か神々廻と大佛が殺し屋殺しXの手掛かりを掴む為に仕事でこの博物館に向かったら坂本くんにも出会った、と話していたからきっとシンくんも現場にいたのだろう。
Xの仲間と接触して戦闘になったと聞いたからその影響で博物館が半壊したのだろう。
なぜ博物館だろうか、と疑問を抱くもシンくんは既に修理が済んで通常営業している博物館を見上げながら嬉しそうな顔をしていたから聞かないでおいた。
ーー博物館が好きなのかな。ーー
初デートだからてっきり恋人らしいデートスポットを想像していたけど、これはこれでシンくんらしい。
チケットを買って館内に入ると多くの家族連れやカップルで賑わっている。
「南雲!ここで前に坂本さんと行った時、記念写真撮ったんだ!」
「あ〜、あの部屋の一番目立つ場所に飾ってある写真?」
嬉々として話すシンくんに僕はシンくんが住むアパートの狭い部屋に飾られた大きな写真の存在を思い出す。
憧れでもある上司の坂本くんとの記念写真はシンくんにとって宝物らしく、いつも自慢してくるけど僕としては旧友にイチャイチャしているところを見られているみたいで複雑だ。
「僕とも撮る?」
「えっ、いい・・・のか?」
ーーうっわ、めっちゃ可愛い。ーー
口では遠慮がちなのに表情が嬉しさを隠しきれない様子が可愛くて胸がキュンと鳴る。危うくシンくんにつられて僕までニヤけてしまいそうなのを我慢して恐竜の被り物をして記念撮影を撮った。
写真を買ったシンくんはまだ館内に入って数分しか経ってないのに「楽しいな」と笑うから僕も頷いた。
しばらく館内を周っているとシンくんが珍しく携帯を気にしている様子で徐々に携帯を触る頻度が多くなる。
「ちょっと〜デートなんだから携帯触るの禁止〜」
わざと距離を詰めて不機嫌そうに唇を尖らせて文句を言えばシンくんは顔を上げて眉を下げた。
「ごめん・・・実は南雲に会わせたい人がいて今日はココを選んだんだ」
「え?」
「あっ!今時間あるって!」
どうやら誰かと連絡を取っていたらしく、相手から返信が来たのかシンくんが嬉しそうに笑って僕の腕を引いて歩き出す。
慣れた足取りで関係者以外立ち入り禁止の別館に侵入して隠し扉を開けて地下に進んで、まるで映画の世界に連れて来られた気分だ。
会わせたいひと、とは誰だろうか。そもそも表では博物館として営業して裏ではこんな奥まった地下があるのにも驚いた。
「ほぼ壊されて修理中で汚いけど我慢しろだってさ」
「あ、うん」
ここまで来てもシンくんの意図も掴めないし目的も話してくれない。黙って後ろをついていくと地下室には研究員のような白衣を着た人たちが沢山いた。
「よっ!久しぶり」
「お〜来たな、シン」
「久しぶり!商店は楽しいか?」
研究員たちにフランクに話しかけたシンくんに対して彼らは厳しそうな表情から我が子を見るような優しい表情に変わってシンくんの周りに集まりだす。
ーーこれは・・・?ーー
和やかな雰囲気に変わったなか、僕ひとりだけ取り残された気分になったのは一瞬ですぐにシンくんが僕の腕を引っ張って「あの」と切り出す。
「おっさんいるか?」
「所長ならーー」
「シン、待たせたな」
奥から声がして僕が見るとボサボサな髪をひとつに束ねた白衣姿の男性が近づいて来た。30後半から40前半に見えるけど無精髭のせいで老けて見える。
「おっさん!」
「お〜コイツが南雲って奴か」
「!」
片手にはタバコを持ったまま、僕に近付いて上から下まで見たあと「デケェな」と独り言を呟くから隣のシンくんが小さく笑う。
男性の正体も不明のまま現状が理解できないでいるとシンくんがやっと説明してくれた。
6歳のシンくんは父親の友人だった朝倉所長に預けられたらしい。その後すぐに両親は行方不明、朝倉所長と研究員たちに育てられた話を初めて聞いた。
このラボで研究していた超能力の薬をたまたまシンくんが飲んでしまい、読心の超能力が身についたことも話してくれた。
表向きでは博物館で裏社会の人間にバレないように地下で政府非公認の研究施設を創ったひとがシンを預かった朝倉所長らしい。
両親の話をしなかったのは僕も同じで、それがお互い気楽だと思っていたから話を聞いて若干戸惑ったけどシンくんは全く気にしてない様子であっさりしていた。
「昨日な、シンから珍しく電話があって『紹介したい人がいる』って言ってきたんだよ」
「えっ」
シンくんが他の研究員たちと話している間、僕は朝倉所長に缶コーヒーを奢ってもらった。朝倉所長の言葉に思わず飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。
「てっきり結婚相手を紹介されるのかと思ってヒヤヒヤしちまった」
「は、はぁ・・・」
すぐ家出したから育ての親、とまでいかないが親のような気持ちが芽生えている彼らに幼かったシンくんは我が子のように可愛がられたのがこの数分だけで分かる。
「アイツ生意気でしょう」
「え、あ〜はい」
「順位とか数字をすぐ気にしちゃう奴なんだけど誰よりも努力するでしょう」
「・・・はい」
「優しくていい子でしょう」
「はい、とても」
シンくんが今日初デートでこの人たちに会わせてくれたことを僕は一生忘れないだろう。心の奥がくすぐったい、口元が緩やかな笑みが溢れて悲しくないのに涙が出そうだ。
「ーーアンタがシンの恋人で良かった」
そう言って朝倉所長はカフェオレを一気飲みしてタバコを吸いだす。シンくんも過去に吸っていたけど坂本くんに倣ってタバコをやめたことは聞いたことがある。
朝倉所長に僕とシンくんが恋人関係だと話していなかったけど、まるで知っているかのような口調に僕は目を丸くした。
「恋人だって、シンくんが?」
「いいや。ただ紹介したいって言われただけだ。でもなぁ、アンタとシンを見たら一目で分かったよ」
小さく笑う朝倉所長の横顔は可愛がっていたシンくんが男の恋人を連れて来たことに驚きもせず、罵倒することもなく、ただ優しい表情を浮かべている。
「南雲さん」
タバコを灰皿に潰して僕と正面に向き直って頭を下げた朝倉所長にかなり驚いた。
「俺はアイツの人生を狂わせた上に家族っていうのを教えてあげられなかった。今の坂本商店やアンタと出会ってシンは『新しい家族ができた』って言ったんだ。シンをこれからもどうか、よろしく頼む」
家族、という言葉に僕自身いい思い出はないけどシンくんの言う『家族』に僕が含まれているなんて思わなかった。
顔を上げた朝倉所長を真っ直ぐ見つめて僕は口を開く。
「はい。これからもシンくんを大事にします」
ーーもう誰も失いたくない。ーー
走馬灯のように最後見た赤尾の後ろ姿が頭の中に蘇った。
さよならもまたねも言わず、人は突然会えなくなるなんて分かっていたのに僕らは友人を失った。
あんな思いはもうしたくない。だから僕は今度こそ大切な存在を大事にしたい。
今日でより一層この気持ちが強くなったのは、きっとまたシンくんのことが好きになったからだ。
博物館を出る頃にはもう夕方だった。満車状態だった駐車場も、閉館時間だから僕らの車がポツンと残っていた。
「何も言わずに連れて来て、ごめんな?」
「どうして謝るの?すごく楽しかったし嬉しかったよ」
車に乗る前にシンくんが謝ってきたから助手席に乗り込む前にシンくんに近付いて抱き締める。
「えっ!お、おいここ外だぞ・・・」
「誰もいないよ」
「そうだけど・・・あ〜もう・・・」
抱き締められたシンくんは戸惑ったけど僕が離れる意思がないことを察して諦めたように背中に手を回してくれた。
「おっさんと何話したんだよ」
「ん?シンくんは小さい時はナイトキャップ被って寝てたとか」
「なっ・・・!?オッサンそんなこと話してたのか!」
もっと大事なことを話してくれたけど、シンくんに言うのは違う気がしてはぐらかした。教えてくれた幼少期の思い出話のことを言えばシンくんは顔を真っ赤にして顔を上げて背伸びしてくる。
身長差で頑張って背伸びしても僕の顔には近づけないから僕が背中を屈めて背伸びするシンくんの唇にキスをした。
もう何度もキスをしているのにシンくんは慣れなくて、でも嬉しそうに目を細める仕草は愛おしい。
「連れて来てくれてありがとう、シンくん」
唇から離れて囁くとシンくんは小さく頷いて僕の胸元に額を押し付けてくる。
本当はもっとキスをしたいんだけど、と考えていると「そうだ!」と何か閃いたシンくんが顔を上げて満面の笑みを浮かべた。
「次のデート場所は南雲の行きたい場所な!」
「え?僕?」
「俺が行きたい場所に行ったんだから、南雲が行きたい場所に俺も行きたい・・・ダメか?」
きっと僕はこれからもシンくんの上目遣いには敵わないだろう。「分かった」と苦笑を浮かべるとシンくんはもう一度背伸びしてくる。
「南雲、キスして」
いつもシンくんは僕に振り回されてばかりだと言うけれど、実際は僕の方がシンくんに振り回されてばかりだ。
でもそれは全て僕にとって正しいタイミングに思えた。好きな人の全てが正義になる、そんな恋の魔法に僕は初めてかかっているんだ。
「もう、仕方ないなぁ」
口ではそう言いながら笑みは誤魔化しきれていない、だからシンくんの口角も緩く上がった。
体を屈めて2度目のキスをしながら僕は、自分の行きたい場所を頭の片隅で考えることにした。
カタン、と玄関から音がして眠りから目を覚ます。
どうやらシンくんの部屋で眠ってしまったらしい。
過去の出来事を夢で見ることなんて今までになくて、しかも夢の内容はシンくんとの大切な思い出だから現状を更に虚しくさせる。
ノロノロと体を起こして玄関に近付いた。郵便物が届いていたらしく、白い便箋が入っている。
手に取ると住所もなければ送り主も消印もない。
ーー誰だ?ーー
中身は少し分厚い、途端に怪しく感じて慎重に封を開けるとDVDが入っていた。
『朝倉シン』
パッケージもない透明ケースに入ったDVDには手書きでシンくんの名前が書いてある。それを目にして僕はすぐにXの仕業だと察したから取り乱さなかった。
そして封筒にはまだ何か入っていたからひっくり返すとバラバラと小さな何かが足元に散らばる。
「ーー爪だ」
誰のもの、かなんて考えなくても分かる。DVD、剥がされた爪、そして僕がここにいると分かって送ってきたXに唇を噛み締めた。
『シンをこれからもどうか、よろしく頼む』
頭を下げた朝倉所長の姿が浮かんで僕は空になった封筒を握り締める。このDVDにはシンくんが映っている、もしかしたら殺されているところを見せられるかもしれないし拷問されて助けを求めている内容かもしれない。
「・・・シンくんは絶対僕が助ける」
散らばった爪は赤黒い血がこびり付いていて時間が数日は経過しているのが分かる。まだ生きているのか分からない、しかしXがただ殺しただけの映像を僕や坂本くんに見せてくるとも考えにくい。
そんな僅かな希望を持ちながら、まずは坂本くん知らせずに僕は意を決してDVDを観ることにした。
『オリオンの膝下で』Ⅷ
「2秒後、11時の方向に射撃」
簡潔に伝えられた情報に素早く反応して射撃を躱して落ちていた死体が持っていた銃を拾って射撃された方向に投げると隣のビルの屋上にいたスナイパーが倒れたのを確認した。
「もう敵の気配はない」
「オッケー」
別の死体を引き摺っていたフードを深く被ったシンが言うから俺は首の関節を鳴らす。
「お前いつまでそれで顔隠してんだよ」
「・・・Xに言われただろ」
暫く殺連の関係者にはシンの存在を知られたくないとボスは言っていた割には俺が行動する度にシンを連れて行かせるのが謎だった。
黒のマスクを外したシンがポケットからタバコを取り出して火を点ける。
血と埃が充満した狭い室内で更にタバコの匂いも追加されて「臭ぇ」と文句を言うがシンは吸い続けていた。
「楽、天井の監視カメラ壊してくれ。俺じゃ壊せない」
「・・・」
今も作動しているか分からないが確かに監視カメラはある。しかしこのままシンの言うことを聞くのは嫌で数日前までは薬漬けされたセックスに溺れていた淫乱の癖に、と考えているとエスパーで思考を読み取ったシンが俺を見た。
「ちょうどいいじゃん。殺連のカレシに見せつけようぜ」
「はーー」
カメラを壊さずに近付いてフードを剥ぎ取ると文句を言おうとしたシンに強引にキスをする。
タバコの味がする苦味のあるキスだが薬漬けにされていた甘ったるい味のキスよりはマシだ。
「ん゛っ、む」
抵抗しようとするも舌を口内に捻じ込むとシンはすぐに大人しくなる。一見普通に見えるシンだが、もうボスと俺の手によって洗脳されているシンは与えられた目先の快楽からは逃げられないことを体で教わっていた。
「は、ぁ・・・っ」
舌を絡めるキスにすっかりトロンとした顔に変わったシンはさっきまで見せていた無表情なものと比べて色気がある。
「ちょっと遊ぼーぜ、シン」
「ん・・・っ楽・・・」
タバコは床に踏み潰すと今度はシンから背伸びしてキスを強請った。その瞳は虚ろで生気を感じられないけど俺は結構気に入っていた。
カメラで見える場所で壁に手を付いて後ろを向いたシンの充分に慣らされていない秘部に自身を挿入するとシンの体が震える。
「ぃ゛、あ・・・っ」
痛みと圧迫感で呻き声を上げるも抵抗なんてしてこないシンはいやらしく腰をくねらせた。
「なぁ、お前っていま自我どんくらい残ってんの?」
「は、ぁ゛っ、あ、がく、もっと、奥っ・・・」
「残ってないか」
「ぁっ、ゔ、っ〜〜っ!!」
腰を掴んでいる俺の手を弱々しく握ってきたシンに体を屈めて更に奥に挿入する膝をガクガク震わせながらシンは絶頂を迎える。
「おい〜。俺まだイッてないんだから勝手にイくなよ」
「ひゃぅ!」
腰を揺らしながら臀部を叩くとそれだけで感じるのかシンの中が締め付けてきた。きっとボスにも同じことをされて感じるように調教されたのだと分かる。
「勝手に外でヤッたって知ったらボス怒るかな。シン、ちゃんと黙ってろよ?」
「ん゛っ!ぅ、うん、分かった、ッ」
「いい子だ」
更に奥に挿れて密着するとシンが首を動かして蕩けた瞳で見つめているから噛み付く勢いでキスをした。
「ふ、ぁっ、ん゛っ」
掠れた喘ぎ声は昨夜も俺とセックスしたからで、ボスは俺がシンを気に入っていると勘違いして喜んでいた。
ーーまぁヤりたい時にいつでもヤれるから便利だし今日みたいなサポートは戦闘中楽しかった。ーー
つまり気に入ってるのか?と俺は未だ実感が湧かないまま律動を激しくするとキスに集中できなくなったシンはまた達してしまいそうなのか「がく」と弱々しく俺を呼ぶ。
ジワジワと湧き上がる独占欲は小さな子供がお気に入りのおもちゃを手に入れた感覚と似ている。俺はきっと幼少期にそんな感覚を持ったことがなかったから初めての感覚に高揚感を抱いた。
「っ・・・イきそ」
このまま中出ししたら後処理が面倒だし鹿島さんにバレたら余計に怒られそうだ。
射精する寸前に引き抜いてシンを強引に跪かせると何をされるか察したシンは小さな口を開けた。
「っ」
「ん・・・っ」
わざと口内ではなく顔面に射精すると咄嗟に目を閉じたシンの顔にドロリとした精液が飛び散る。顔面が俺の精液と汗で汚れたシンの口内に自身を捻じ込むとビクンと体を震わせながらシンは口淫をする。
精液を搾り取るようにチュ、と音を立てて吸う姿は娼婦のように淫靡だがシンの虚ろな瞳とミスマッチで更に興奮した。
「・・・やっぱお前のこと気に入ってるわ、俺」
今頃シンの恋人や仲間たちは血眼になって探していることを思いながら顔を上げて監視カメラを見つめる。
殺連の奴らが、もしかしたらORDERであるシンの恋人がいずれ観るかもしれないと思うと薄く笑みを浮かべてやった。
「で、どうやってアイツ利用するんすか?」
「ん?」
読んでいた本から目を離してソファーに寝転んでゲームをしている楽が聞いてくる。
さっきまでシンくんと外でセックスしたことが鹿島にバレて叱られていたけど全く悪びれる様子がなかったのを思い出しながら「そうだなぁ」と呟く。
「暫くは楽と殺し屋殺しをして貰おうかな」
立ち上がって簡易ベッドで眠っているシンくんの寝顔を覗き込みながら伝えると「ふーん」と興味なさげな返答がきた。
シンくんは鹿島に睡眠薬を飲まされて今は眠りに就いている。金髪に触れながら「仲良くなれた?」と楽に聞くとゲームを操作する手が止まった。
「・・・まーまー」
「そうか」
曖昧な返事だが気に入らなかったら僕の見えない場所で楽は殺していただろう。意外にも気に入ってくれて小さく笑って体を屈める。
「ーーこれからもっと楽しくなるよ、シンくん」
耳元で囁いてからシンくんの柔らかな頬にキスを落とした。
『オリオンの膝下で』Ⅸ
シンくんの自宅に送られてきたシンくんのであろう爪が入った封筒をゴミ箱に捨ててから中に入っていたDVDを観た。
そこには薬で陵辱されているシンくんの姿が映っていて、Xたちに犯されて身も心も壊れたシンくんに自ら爪を剥がす様子まで映っていた。
──これを僕に見せてアイツらはどうするつもりなんだ。──
怒りで我を忘れた僕が死に物狂いでXたちを探し出して殺すとでも?その頃にはすでにシンくんは完全に壊れているか死んでいるかもしれないんだ。
映像のシンくんが今では殺されている可能性も高いけど、わざわざ僕に見せるくらいだからコレだけじゃ終わらせないつもりだろう。
「──X、僕が殺してやる」
友人の赤尾を殺し、そして最愛の恋人のシンくんまで奪おうとするXに殺意が芽生えて唇を噛み締めた。
DVDを持ってシンくんの部屋を出るとちょうど坂本くんがアパートの前に立っていた。僕が片手にDVDを持っていることに気づいて「それは」と聞いてきたからスーツの胸ポケットに隠す。
「僕は殺連本部に戻る。何かわかったら連絡するね」
「・・・ああ」
あんな映像を坂本くんには見せられない。シンくんのことを本当の家族のように大切にして、シンくんも坂本くんのことを敬愛していた。
もしシンくんを助けることが出来たとして、あんな陵辱された映像を坂本くんに観られたことを知ったらシンくんは酷く傷付くだろう。
「何を隠した」
「なんのこと?それよりシンくんの家に何か用だった?」
DVDの内容をもしかしたら坂本くんは察したのかもしれない。僕は見せるつもりがないことを強く咎めずに坂本くんはアパートを見上げた。
「何か手掛かりがないかと思って来た。・・・あと、もしシンが当たり前のように家にいたら、と考えてしまって」
「疲れてるね。ゆっくり休みなよ、奥さんと子供も坂本くんを心配しているよ」
もう坂本くんは一般人なんだ。Xによって陵辱されたシンくんを見たら我を忘れてXたちを殺すかもしれない。
「僕が必ずシンくんを助ける」
「南雲、あまり思い詰めるな」
「そのセリフ、そのまま君に返すよ」
多くの表情を見せない坂本くんは学生時代からの僕を見ているから心配しているのだろう。
「じゃあね」と坂本くんから離れてタクシーを捕まえて、バックミラーで坂本くんを見る。
車を発車してどんどん姿が小さくなっても坂本くんは僕を乗せた車を見つめているから僕は隠したDVDを手に取って眺めた。
──シンくん、どうか生きててくれ。──
殺連本部に着くと豹と偶然鉢合わせて僕を見るなり「タイミングがいいな」と言うから首を傾げる。
「ちょうどXの新しい情報で呼び出された」
「!」
X、と聞いて僕が血相を変えたからシンくんのことも知っている豹は何も言わずに並んで会議室に向かった。
殺連の役員が数人パソコンを操作していて「殺し屋殺しのXの仲間をとらえた映像です」とビルの防犯カメラを見せてきた。
最初こそ、殺し屋組織のアジトでなんてことのない様子だったが扉を蹴破られた瞬間、室内は戦争と化した。
いくつか仕込まれたカメラには二人の青年が映っていた。
ひとりは殺連本部襲撃でXと行動していた楽という名前の青年。彼は殺連本部では派手に暴れたことは聞いていたけど戦闘力は映像から見ても僕と同等か、それ以上のように感じる。
そしてもうひとり、黒いパーカーでフードを深く被ってマスクもしているから男女か分からなかったけど骨格を見る限り男だ。
彼の動き方に既視感を覚えた僕は自然と手が震えて、だけど目線は彼を追いかけてしまう。まるで敵の攻撃を事前に把握しているような躱し方、銃の撃ち方に僅かな足の癖、僕は見たことがある。
「強ぇな、コイツら」
映像を見ていた豹がポツリと呟くも僕はジワジワと伝う汗の不快感、そして動揺で返事ができなかった。
戦場はすぐに終止符を打って彼ら二人だけが室内に立っている。足元に転がった死体なんて気にせず、二人が何か話している様子で、彼がタバコを吸い出した。
「──シンくん」
荒い映像でも僕がシンくんを見逃す筈はない。黒のマスクを外したシンくんの姿の映像に思わず名前を呟くと豹が驚いた表情を浮かべる。
──なんで楽と行動を?シンくん、躊躇いなく人を殺してた。──
何が起きているのか分からない。だけどシンくんが生きていることが分かって目頭が熱くなっていると楽が突然シンくんのフードを剥いでキスをしてきた。
「これは・・・明らかに見せつけてますね」
解析していた役員がポロリと本音を呟くのも無理はない。まるで僕らには手を出せない、シンくんを助けられないと分かっていながら楽はその場でシンくんを犯しだす。
「彼は抵抗してないから仲間ですかね」
「そうかもな」
本来攫われて人殺しを強要されてカメラの存在も二人は気付いているのに目の前で性行為を見せつける。それに一番の疑問はシンくんは抵抗している様子がなく、何も知らない役員がシンくんをXの仲間だと思うのも無理はない。
恐らくシンくんに今自我はない。薬漬けされてXたちに逆らえないように洗脳されているんだ。
まざまざと彼らの性行為を見せられた僕らは一言も発さずに異様な空気に変わる。そして性行為が終わってシンくんの顔面に射精したあと楽がこちら、カメラに目を向けて口角を上げた。
──絶対殺してやる。──
間違いなく僕個人の当て付けだ。殺意が一瞬で沸いて今すぐにでもパソコンを破壊しそうになる僕に豹は「落ち着け」と殺気を感じたのか声をかける。
「これは3日前の映像です。他の殺し屋組織の防犯カメラにも彼ら二人の姿があり、全て壊滅されています」
「つまり、次にXが狙う殺し屋組織を予測すれば彼らと接触できるってことだよね」
心も体も犯し、薬漬けで洗脳させた上に殺し屋殺しを加担させたXたちには憤りしかない。だけど今もシンくんは生きている。
今ならまだ間に合うかもしれない、と僅かな希望を抱いた僕はシンくんが攫われてから止まっていた時計が動き出すのを感じた。
部屋に入ると蹲って啜り泣くシンくんを見つけた。
「仕事お疲れ様。今日は疲れちゃった?」
薬漬けされて洗脳状態のシンくんは頻繁にパニック状態に陥るようになった。人殺しをして、かつての坂本くんたちを思い出して罪悪感に駆られ、でも洗脳状態だから自分が何故こんなに苦しんでいるのか分からずにパニックになっている。
鹿島から貰った安定剤兼睡眠薬の注射を手にした僕は啜り泣くシンくんの頭を撫でながら首元に注射した。
「や、やだぁ・・・っ!」
「落ち着いて、僕だけを見なさい」
「ぅ・・・すらぁ様・・・」
「いい子だ」
突然首元に何か刺されて暴れそうになるシンくんに命令するとシンくんは涙で濡れた虚ろな瞳で僕を見る。
注射器を抜いて床に落としてシンくんの両頬を撫でるとシンくんは目を細めて震える唇で「なぐも」と愛しい恋人の名前を呟いた。
──しぶといな。──
堕ちるところまで堕ちたのにまだ忘れていないシンくんに苛立ちを覚えて頬を撫でていた両手で首を絞める。
「あ゛・・・すらぁ、さま」
「君は誰のモノ?」
力を加えて窒息するギリギリまで絞めるとシンくんの喉奥からカヒュ、と弱々しい息遣いが聞こえた。
「すらぁさまの、もの、れす」
涎と涙を流しながら何とか口にしたシンくんに満足して手を離すと咳込むシンくんを抱き締める。
「酷くしてごめんね。でも君のためなんだよ」
「っ、俺の、ため」
耳元で囁いてシンくんの洗脳を強くするとシンくんは僕の背中に手を回して胸元に擦り寄った。
「そうだよ。酷くしちゃったから今日は優しいエッチをしてあげる」
着ていたシャツに手を忍ばせるとシンくんはトロンとした瞳で「はい」と答えるけど睡眠薬が効いた状態だから意識はほぼ手放しているだろう。
──僕もシンくんを気に入ってしまったみたいだな・・・簡単に手放せない。──
自然と口角が上がって目の前のシンくんは南雲の名前を口ずさんだことさえ忘れていることに愉悦を覚えた。
今も彼らはシンくんを探している。そんな中でシンくんと交えるセックスは今以上に愉悦を覚えるものだと予感しながらシンくんにキスをした。
『オリオンの膝下で』X
触れ合うようなキスだけでシンくんの瞳はトロンと蕩けて舌を口内に捩じ込むとシンくんの体はピクンと震える。
「ぁ・・・っ♡」
「今日はしっかり薬を入れてからシた方が良さそうだな」
まだどこまで自我が残っているか分からないけどセックス中に南雲の名前を出されたら殺してしまいそうな気がしてシンくんの首筋に新しい薬を注射する。
腕にや首には痛々しい注射痕が増えてシンくんの服を全て脱がせると楽が残した噛み跡やキスマークが残っていた。
「楽に気に入られてるね」
「は、ぅ・・・すらぁさま・・・」
「そうだね。今日は優しいエッチをしてあげる」
いま楽が混ざったらいつもの乱暴なセックスになりそうだ。薬を追加されて虚ろな瞳で僕を見るシンくんの反応してない自身を握ると縋るように僕の肩に触れてくる。
上下に優しく擦るとシンくん自身はすぐに硬くなって短い喘ぎを漏らすから塞ぐようにキスをするとシンくんは敏感に反応した。
「あ゛っ、ぁっ、あっ」
「昨日もたくさん楽としたのにもうイきそうだね」
「ぁっ、すらぁさまの、手、だから・・・っ」
一見して朝倉シンは完全に壊れている、ように見えるけどまだ足りない。完全に壊すには痛みを与えるよりも効果的なものがあるんじゃないかと考えた僕はシンくんを押し倒して体中を愛撫した。
「ん・・・っ♡」
弱い場所を狙って丹念に舐めるとシンくんは腰をくねらせるから腰を掴んで乳房を舐める。
「ここ、南雲にも触られた?」
「へ・・・?」
「答えなさい」
ピンク色に色付いた乳房を舐めながら聞くとシンくんは虚ろな瞳のまま不思議そうな顔をしたけど答えを急かせば「はい」と素直に頷く。
「僕と南雲、どっちが気持ちいい?」
舌を這わせ、軽く甘噛みしながらシンくん自身を片手で握るとシンくんは震えた声で「すらぁさま」と答える。
「じゃあこっちは?」
首筋、鎖骨、太もも、全身に愛撫すら度に南雲と比較させるとシンくんはポロポロと涙を流しながら「Xさま」と答える姿に加虐心が湧き上がる。
しかし今日は乱暴なセックスをするつもりはない。媚薬入りのローションを指で濡らして秘部に押し込むと毎日楽や僕に犯されている体は従順に僕から与える快感を受け入れてしまう。
「っ、あ、う・・・っ」
「ココ、赤く腫れてるね。楽にたくさん可愛がってもらったんだ」
指をすんなり受け入れたシンくんの中は僕の指を締め付けてくるから指を増やして広げるように動かすとローションの音がクチュクチュと鳴ってシンくんの体が震える。
「ぁ、あっ、あっ、すら、ぁ、さま」
「気持ちいい?」
「は、ぃ♡ナカ、あっついです」
媚薬を塗りつけるように中を指で擦る度にシンくんは理性を失って僕の名前を呼んだ。
「シンくん、僕の本当の名前は有月って名前なんだ」
「あ・・・っ、う、づき?」
「うん。呼んでごらん?」
わざと前立腺を指で擦るとシンくんの体が跳ねて「うづきさま」と舌足らずに呼ぶから僕は自然と口角が上がる。
「いい子だね。今日はいっぱい気持ち良くなろうね」
薬の過剰摂取は翌日が体調不良になりやすいと鹿島に説明されたけど構わず薬を取り出して「口を開けなさい」と言って秘部から指輪引き抜く。
「あまり注射痕が多いと服にも隠しきれないからね。直接飲ませてあげるよ」
「あ゛」
「そう・・・飲み込んで」
口を開けたシンくんに注射器の中身の薬を直接飲ませる。量はかなり少ないが危険で、薬を飲んだシンくんは涙を流しながら僕に両手を広げる。
「ひ・・・、ぁ゛っ、うづきさ、ッ・・・」
何もしてないのにビクビクと震えるシンくんが僕に助けを求めてくるのを無視をしてベルトを外してズボンと下着を脱いだ。
勃起した自身を濡れた秘部に少し触れただけでシンくんは気持ち良さそうな声を出すから僕は体を屈めてシンくんの首を絞める。
「ぃ゛っ」
「こうするとね、気持ちいいんだよ」
殺さない程度に首を絞めながらゆっくりと自身を秘部に押し込むとシンくんは首を絞められながら絶頂を迎えて潮吹きをした。
「っあ゛〜〜!!」
絞めていた喉元がビクンと震えて異性のように潮吹きをするシンくんに最初は驚いた。だけど中がキュンと締め付けられてまだ半分も入ってない状態で律動を始めるとシンくんは喘ぎ声混じりに僕の名前を呼ぶ。
「ぁっ、い゛っ、ぁっ、あ、っうづきさま、ッ♡」
「気持ちいい?」
「ひゃい・・・っ♡気持ちいいれす・・・っ♡」
首を絞めるのをやめて汗の涙でぐちゃぐちゃなシンくんの顔にキスをしながら腰を揺らすとシンくんの表情は蕩けて僕の腕を掴んで自分の首に導く。
「うづきさま、ッ、首絞めて・・・っ、さっきみたいに気持ちいいの、欲しぃ・・・っ♡」
「いいよ」
自ら強い快感を求めるシンくんの姿はきっとシンくんの最愛の南雲は見たことないだろう。淫らで甘美なほど快感に従順なシンくんの姿に興奮して更に奥に挿入してから首を絞めた。
「あ゛っ、あっ、あ゛っ!ぃ゛っ♡〜〜ッ♡」
「っ、はは。締め付けがいつもよりキツいね。ハマっちゃった?」
きっと楽に教えたら一発でシンくんを首絞めで殺してしまうだろう。ある程度加減を見ながら首を絞めて律動を繰り返すとシンくんは何度も連続で絶頂を迎える。
「おいで」
繋がったまま背中に手を回して抱き上げるとシンくんは自ら膝上に跨ってキスをしてきた。
僅かな薬の甘い味とシンくんの唾液が混ざり合って舌を絡めるとシンくんは艶かしく、そして覚束ない様子で腰を揺らす。
「ん゛っ、ぁ、あ゛っ」
体に力が入らないのか上下に揺らすのではなく前後に腰を揺らして奥の前立腺と僕自身を擦るように動くシンくんはキスをしながらくぐもった喘ぎを漏らした。
「うづきさまっ、ぁっ♡きもちいぃです・・・っ♡」
「うん、僕も気持ちいいよ」
「ん゛ッ♡ナカ、いっぱい出してください・・・っ」
中出しを懇願するシンくんの瞳は僕しか映っていない。もう何度も中出ししたのに「いいの?」とわざとらしく聞いてみる。
「南雲が悲しむよ」
「ぁ゛っ、い゛っ」
腰を掴んで奥を抉るように突くとシンくんの体が震えて「うづきさま」と僕の顔に近づいてキスをしてくるから触れるだけのキスをした。
「うづきさまぁ・・・っ」
「シンくん、エスパーを使って」
片手を腰から離して汗で濡れた額をトン、と叩くと従順なシンくんはエスパーを使った。そこに大量の情報を流し込むとシンくんは目を見開いて律動は止まっているのに絶頂を迎える。
「ぁあ゛ぁあ゛あ゛っ」
「すごいな、本当に脳イキできるんだ」
エスパーの力に興味を持った鹿島がシンくんが寝ている間にいろいろと研究をしたらしい。そして脳波を弄ることによって今までのセックスより強い快感を錯覚させることができると教えてもらった時は半信半疑だった。
目の前のシンくんは僕の思考だけを読み取ろうとして大量の今まで自分が陵辱された、強姦された記憶を流し込むとシンくんは途端に様子を変えて逃げようとしたけど奥に挿入したまま絶頂を迎える。
さっきの首絞めなんかじゃ比にならない、というようなシンくんの反応が面白くて僕は構わずシンくんの腰を揺するのを再開させた。
「ぁ゛っ♡あっ♡ぁっ〜♡」
「っ、シンくん・・・」
射精を促すような締め付けに耐えきれず息を詰めて射精すると「んっ」とシンくんも震えて涙を流す。何度も啄むようなキスを繰り返して腰を揺するとシンくん自身からは半透明の精液がダラダラと溢れた。
「──シンくん、愛してるよ」
抱き締めるように背中に手を回して耳元で囁くとシンくんの中がキュンと締め付ける。もう言葉も出せないくらいのシンくんに僕は笑みを浮かべて再びベッドに押し倒してキスをした。
冷水のシャワーが頭上にひたすら降りかかるかな、排水溝に流れていく白く濁った体液を眺めながら俺は濁った思考で何も考えられなくなっていた。
「俺・・・なにしてたんだっけ」
気がついたらシャワー室にいた。下腹部に酷い違和感があって太ももから伝う精液に嫌悪感を覚えて冷水のシャワーを浴びてどれくらい時間が経ったか覚えていない。
ぼんやり頭上から冷たいシャワーを浴びていると突然走馬灯のように有月とのセックスを思い出して「ヒッ」と悲鳴を浴びて蹲る。
──俺、有月とあんなこと・・・自分から中出しせがんで・・・あれ?なんで有月って呼んでるんだっけ?──
生々しいセックスと曖昧な記憶が混じり合って吐き気がして俺はその場で嘔吐した。特に食事も摂った覚えもないから胃の中は空っぽで胃液と血が混じったものだけしか出てこない。
「ゔぇ・・・っ」
それでも何度も咳き込んで、恋人の南雲を思い出そうとしても南雲の顔を思い出せなかった。
「あ、れ・・・?」
あんなに毎日負けないように、屈しないように南雲と過ごした日々を思い出して耐えていたのに途端に思い出せなくなってしまった。
両手が震える。体が冷え切って吐瀉物がシャワーで流れていくのを目で追えない。
息遣いが不規則になっていって意識が朦朧としていくうちに、いつの間にかシャワーが止まっていた。
「そんな冷たいシャワーじゃ体を壊しますよ」
「ッ!」
冷たいシャワーと同じくらい冷たい声が背後からして振り返ると鹿の剥製を被った男、鹿島が立っている。
「ひとりで後処理をするなと言ったでしょう。ベッドに戻りましょう」
バスタオルを俺の体に羽織らせた鹿島が俺の腕に触れたから「やめろっ!」とパニックになって叫ぶと鹿島は俺を冷静に見下ろした。
「食事も摂らないし困ったものですね。・・・少しいい子になってもらいましょうか」
スーツの胸ポケットから注射器を取り出した瞬間、俺は有月に飲まされたことを思い出して頭が真っ白になる。鹿島の前に大人しく跪くと「おや」と驚いた様子も見せるも剥製の奥から小さく笑う声が聞こえた。
顎を掴まれて何も言わずに口を開けると鹿島は注注射器の中身を俺の口内に注ぐ。躊躇いなく喉を鳴らして飲み込むとすぐに視界がぐにゃりと歪んで体がフワフワしてくる。
「飲ませた方が効果が強いのは本当ですね」
独り言で呟いた鹿島は俺を横抱きして浴室を出た。視界が歪んで気持ちいい、自分が自分ではないみたいで、その度に記憶が一つずつ消えていく気がする。
なんの記憶が消えたんだ?それすら分からないまま俺は「うづきさま」と意識を失う寸前、彼の名前を呼んだ。
『オリオンの膝下で』XI
本を読んでいると「なぁ、ボス」と楽に呼ばれてページに栞を挟んでから顔を上げる。
「なんだい、楽」
「アイツの薬変えたのか?」
アイツ、というのはシンくんのことだろう。ゲームをしている楽の膝上に頭を乗せて寝ているシンくんを見てから「少しね」と濁した。
「ヤるとき抵抗しなくなったし自分からチンコ咥えだしたんだけど」
「そうなんだ。確かに人が変わったみたいだな」
ここ数日はいつも与えていた薬を注射ではなく直接飲ませるようにしてからシンくんの心は完全に壊れて僕らの人形になった。
副作用が強いのか、痩せて体調を崩す日が増えたけど暴れて抵抗されるよりは労力は削られないと鹿島も話していた。
「好きになったなら楽にあげるよ」
「えーでもアイツ、ボスのこと大好きだから俺に眼中ないっすよ」
年齢も近いし、楽とシンくんは出会う場所が違っていれば友人にも兄弟にも恋人にもなれたかもしれないと頭の片隅で考えていた。冗談混じりに言えば楽は浅く息を吐いて膝上で眠るシンくんの頭を撫でながら言うものだから苦笑する。
「X様、手筈が整いました」
「そうか」
「またアジト移動すんの?今月で何回目だよ」
扉をノックして入って来た鹿島を合図に立ち上がると楽はうんざりしたような顔をしてからゲーム機をポケットに突っ込んでから寝ているシンくんを横抱きにした。
「んん・・・」
「シン、起きたらひとりで歩けよ」
「ん・・・」
「話聞いてないし、また寝たとかウゼ〜。ナメられてんのかな」
一度目を覚ましたもののシンくんは虚ろな瞳を揺らして楽の腕の中で再び眠るから僕は肩を揺らして笑う。
「アジトに行く前に君たち2人にはいつもみたいに仕事をお願いしたいんだ」
「はーい。てかシン起きるかな」
眠る時間が増えたのも薬の副作用だけど僕らにとっては都合がいい。仕事前に強引に起こすか、と楽が話していると「そういえば」と鹿島が思い出したように切り出した。
「薬を新しく調合したので仕事前に与えましょうか」
「そうだね」
「無理矢理興奮状態にして敵を殺すこともできますし、お好きなようにもできます」
お好きなようにと言われて思わず小さく笑うと鹿島は扉を開けて部屋を出るように促すから楽と部屋を出る。
「最近マジで弱い奴しか殺してねぇからつまんねぇよ」
「コラ楽!これはX様にとって大事だと──」
「はいはい。シンが起きるから声抑えろよ鹿島さん」
「〜っ!貴方ってひとは!」
2人の他愛のない喧嘩は僕にとって穏やかな時間だも感じていた。シンくんは楽の腕の中で少し身動ぐだけで深い眠りについているのを横目で確認しながら階段を降りる。
「楽」
「なんすか」
「そろそろ骨のある奴が来るからリラックスして」
そう言う僕の言葉に楽はチラリと僕を見てから薄く笑みを浮かべて「はーい」と返事をした。さっきより機嫌が治った楽を見て鹿島が頭を下げるから「行こう」と軽く鹿島の背中を押す。
「──尊い正義の一歩だ」
シンくんがX一派の仲間としてみなされて指名手配されたことに僕は憤りを覚えた。だけど、あの動画を観て殺しをしていたシンくんのことを僕らのように近くで見ていた人間以外ならXの仲間に見えるのは仕方ないことだろう。
──シンくんは何らかの洗脳を受けている。あのシンくんが進んで殺しなんてするわけない。──
優しくて不器用で、誰よりも正義感があるシンくんは今でも僕の中では今でも太陽のように眩しい存在だ。
たとえ、見知らぬ男に犯されている動画を殺連の上層部に見られたとしても僕だけがシンくんの味方でいるつもりだった。
「ORDERの任務にX一派の抹殺の命令が下った」
どんな小さな証拠も掻き集めてシンくんがいる場所を突き止めてやる、と資料を読み漁っていると神々廻が現れて僕に残酷な命令を告げる。
「──それはつまり、シンくんを見つけたら保護ではなく殺せということ?」
「ああ、そうやな」
以前まではXに攫われたシンくんは保護対象だったのに躊躇いなく人殺しに関与していることから、例え薬物で操られていたとしても明確な証拠がないから抹殺処分の対象にされてしまった。
もし、僕以外のORDERのメンバーにシンくんが鉢合わせたら間違いなく殺される。エスパーの力を使ってもシンくんではORDERに勝てないのは明白で僕は焦燥感に駆られた。
「なぁ、南雲」
「・・・なに」
「お前、この仕事下りろや」
は、と息をするように呟いて顔を上げると神々廻の表情はいつもより強張って見える。
「完全に私情を優先しとるやん。そんな奴現場に行ったら死ぬだけやで」
「僕がシンくんに殺されるとでも?」
「お前なら、シンに銃で撃たれても躱さない気ぃしかせんわ」
反論はできなかった。きっと今、シンくんを前にしたら僕は殺せないし攻撃されてでもシンくんを抱き締めるかもしれない。
「それでも行くって言ったらどうする?」
わざと気丈に振る舞って口角を上げると神々廻が眉を寄せて僕の胸ぐらを掴んだ。机に積み重なっていた資料の山がバラバラと床に落ちていくなか、睨み付ける神々廻に対して僕は表情を崩さなかった。
「勝手に死ねや」
「死ぬ訳ないじゃん。シンくんを救って潔白を証明させる」
「命令違反やで」
「そんなのクソ喰らえだ」
胸ぐらを掴んでいた神々廻の手を掴むとあっさりと離してくれたからキツく締めていたネクタイを緩める。
「神々廻って何だかんだシンくんに優しいよね」
「は?」
「神々廻も殺す気ないでしょ」
「・・・」
恐らく僕の話をいつも聞いていたからか、それか以前シンくんと話したことがあると聞いていたからシンくんが正常な状態で人殺しをしている訳ではないと判断したのだろうか。
「俺は別に・・・」
「強がっちゃって〜。シンくんは僕の恋人だから神々廻にはあげないよ〜?」
「アホ言うなや」
冗談混じりに笑えば神々廻は呆れたように浅く息を吐くも否定はしてこないから苦笑する。
「ヘマすんなや」
「もちろん。Xの目撃情報があるアジトの廃墟と殺し屋殺しの新しいターゲットの目星もついてる」
ちなみにこの情報は僕が独自で殺連本部の知り合いに探りを入れてもらったから殺連の上層部はまだ知らない。
──必ずシンくんを助ける。──
だからどうか、せめて無事でいてくれと毎日願っては折れそうな心をシンくんの笑顔を思い出して耐えてきた。
「行こう」
数ヶ月前。
シャワーから浴びて部屋に戻ると先にシャワーを浴びたシンくんはベッドに寝転んで僕が着ていた柄シャツを抱き締めて眠っていた。
──か、可愛い・・・っ!──
付き合って何回目かのお泊まり。シンくんが住んでいるアパートは決して広くもないしセキュリティーがしっかりしてるわけでもない。だけど僕はこの狭さが最近は割と気に入り出している。
目の前の可愛い恋人な寝顔に身悶えながら下心が疼くも、ここで手を出して遊びだと思われるのは嫌だからグッと耐えて近付く。
音を立てないように近付いてスマホのカメラでこっそり撮影するとカシャ、と軽快なシャッター音が鳴ったと同時にシンくんは目を覚ます。
「ん・・・」
──寝起き可愛すぎる・・・!朝まで僕の理性持ってくれ〜!──
目を擦って幼い寝起きの顔を見せるシンくんに胸がキュンと鳴った。がんばれ僕の理性、と必死に堪えていると自分が僕の着ていた柄シャツを抱き締めて寝ていたことに気付いたシンくんがすぐに顔を真っ赤にさせて起き上がる。
「ち、違・・・っ!」
「違うって何が〜?シンくんってぇ、僕のことだーいすきなんだね」
「っ」
──否定しないんだ、素直で可愛すぎる。──
揶揄えばすぐ怒って否定するかと思えけどシンくんは耳まで赤くしてそっぽを向くから、あまりの初々しさに僕まで顔が赤くなった。
「そ、そうだ!部屋着、ほんとに置きっぱなしにしていいの?邪魔じゃない?」
話題を逸らして僕は最近泊まる度に私物をシンくんの部屋に置いて行くことが増えた。それは僕の家でも同じで、僕のマンションの部屋には少しずつシンくんの部屋着や私物が増えた。
「ああ。いちいち持って来るのダルいだろ。俺も南雲の家に幾つか置いてるし・・・それに」
「?」
耳まで赤くなったシンくんは僕の柄シャツをギュッと抱き締めたまま、目線は僕を見つめる。
「──なんか、嬉しくて」
「え?」
「南雲のものが、部屋にあると俺はもうひとりじゃないんだって・・・思えて」
僕らはまだお互いの過去を話していない。殺し屋としての僕の職業柄を気にして聞いてこなかったのか、はたまたシンくんも自分の過去を打ち明けたくないのかもしれない。
だけど唯一分かることは僕らは孤独を知っていることだ。孤独を乗り越えた先で大切な誰かがいること、愛するひとがいることを僕らは知っている。
「──うん、分かるよ」
自室のベッドに置かれた高級な寝具に見合わないエビの寿司の形をした枕はシンくんのお気に入りだ。その場にシンくんがいなくても寿司枕を見るとシンくんのことを思い出して心がむず痒くなる気持ちは僕だけではないことが嬉しかった。
「ていうかさ、」
「ん?」
「シャツ抱き締めるより目の前に本人がいるんだから、こっちに抱き付いて欲しいな」
両手を広げて笑みを浮かべるとシンくんは顔を赤くさせながら押し黙ったあとシャツを律儀に畳んでからおずおずと僕に抱き付く。
ふわりと香る僕と同じシャンプーの匂い、抱き締めるだけでポカポカする暖かい体は僕より小さくて猫みたいだ。
──ああ、幸せだな。──
狭い室内なのに息苦しくない。お互いの心音が聞こえて落ち着く。腕の中でシンくんが猫みたいに欠伸をするから僕はクスクス笑って頭を撫でる。
「寝よっか」
「・・・ああ」
決して大きくはない、男ふたりが寝転がれば体を寄せなければ寝れないベッドもシンくんとくっつく理由になるから僕はこの狭いアパートの部屋を結構気に入っていた。