テラーノベル
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××××年○○市△△駅の前。
初対面ながら、君とは運命を感じた。
お人形のような白い肌、髪は茶色く艶のあるロングヘアー。
華奢でどこを取ってみても美しい君。
私は思わず君を見つめてしまった、罪な人だ。
私の心を奪って、こんなにも夢中にさせるなんて。
物を落としてしまったときも、あんなに笑顔で拾ってくれるなんて。
近くで見ても、可愛らしい顔でいい匂いがして。
嗚呼…
もう君を、君のことが好きで好きでしょうがない…
みんな私を透明人間のように扱うのに、君だけは私を見てくれた。
名前はなんていうんだろう 、どこに住んでるんだろう?
恋人は?兄弟は?
聞きたいことが沢山ありすぎて、聞けない。
『もう、大丈夫そうですね』
「あ、えっと…」
言葉が詰まる…声が出ない、話したいのに。
『気をつけてくださいね、それじゃあ』
そう言って君は何処かへ行ってしまった。
話せなかった。
あんなにも近くにいたのに、もう本当に後悔しかない。
でも…
君のことで頭がいっぱいだったけど、もう会うことはないだろうし…
この気持ちはしまっておこう。
家に帰ってからも自分にそう言い聞かせていた。
昔から対面では会話を交わせない私。
そんなんだから、周りからも嘲笑われ透明人間のように扱われ…
「ふぅ…」
余計なことなんて考えずに、明日の準備でもしよう。
「あ、そういえば… 」
拾ってくれたものに匂いがついていたらラッキーだな。
そう考えながら鞄から一つ一つ物を出し、君を思って嗅いでみる。
「…これにも匂いはないか」
残念だ、神はとことん私を嫌っているようだ。
私物はもう全部確認した、もうやめよう。
「…あれ、何だこれ?」
最後に出てきたのは、私のものではない身分証。
写真を見ると、駅前で会った君だった。
何たる幸運、奇跡。
でも、なんで?
君の物なんて入っているはずがない。
「まさか、拾ったときにあの子が落としたのか?」
ふふふ、かわいいとこもあるんだな。
私のものを拾って、君も物を落として。
こんな所で、君を又眺めることができるなんて
幸せだ…
「嗚呼…」
だめだ、声が漏れてしまう。
でも、止まらない。
「ふふ…好きだ、愛してる…」
「…んん、朝か…」
気づけば、太陽が私の顔を照らしている。
珍しく部屋は整頓されていて、テーブルには君の身分証が飾ってある。
写真とはいえ君に汚い部屋を見せるわけにはいかない、と部屋中を掃除していたらしい。
「…いい朝だな」
こんなに心地良い朝はいつぶりだろうか。
いつもなら、朝日が鬱陶しいと感じてしまうのに。
支度を終え、時間にも余裕ができた。
昨日まではできなかった事ができたのだ。
ありがとう、本当に。
会えて良かったよ。
写真越しの君に口づけをする。
「恥ずかしいな…」
初めてを君にあげちゃったよ。
次は本物に…なんてね。
外に出ると、いつもより陽の光が色鮮やかに見えた。
又、会えたりするだろうか?
…駅に行ってみるか。
時間に余裕もあるし、少し寄ってみることにした。
自宅から駅までは街を通らないといけない。
朝だからということもあって、街には活気があ る。
人が行き交い、笑い声や話し声がうるさいほどに頭に響く。
少しの間だけでいいからと、君を探してしまう私がいる。
「あ…」
あれは?
見たことのある茶色い髪。
今日は髪を結っているけど、私の目に狂いはない。
「…かわいい、なあ…」
「え、何誰のこと言ってんの?」
聞いたことのある声。
「ふふ、えっとね…ってお前かよ。」
「俺で悪いかよ」
いつの間にか後ろにいたのは、会う約束をしていた友人。
気は合うんだけど、いつも突然現れるから心臓が持たない。
「また女の子見てんの?」
またって何だよ。
「まあ、うん。」
「へえ、どの子?可愛い?」
友人はそう言って、手当り次第女の子を指差して’’あれ?’’と聞いてきた。
答えるわけがない。
というか、言葉にうまく出来ないし。
何よりあんな子をお前なんかに教えたくない。
「…ふーん、まあ言わないならいいんだけど」
「うん」
まだ、いるかな…
目で追うくらいバレないだろう。
君がいたところを探したけど、そこにもう君の姿はない。
クソ…見失っ た。
まあ、いい。
又君を見れたし。
家に帰れば又眺めれる。
とりあえず、今日の予定を終わらせよう。
「…行くぞ」
私と友人は街を進んだ。
いつもと変わらない風景。
だけど、やっぱり色鮮やかに見える。
…早く、君を見たいな。
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