テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
#イラスト部屋
「ライくんいる?」
ドアが軽くノックされ、聞き慣れた、
けれど どこか底の知れない甘い声が響く。
伊波ライは、デスクに広げていた機械のパーツや
怪しげな図面を慌てて引き出しに突っ込んだ。
ここは、マフィア『にじさんじ』の武器開発部門の一角。
メカニックとしての腕を買われているライだが、
今は少し『個人的な趣味』に没頭していたところだった。
「…はい、いますよ! 叶さん、どうぞ」
ライが努めて明るい声で返すと、音もなくドアが開く。
そこには、仕立ての良いスーツを崩すことなく着こなした、
ファミリーの幹部・叶が立っていた。
その手には、不釣り合いなほど可愛らしい 包みが握られている。
「よかった。忙しいかなと思って。
…ふふ、なんだか慌ててたみたいだけど、 なにか隠し事?」
叶は室内に一歩踏み込むと、
猫のような足取りで ライのデスクへと近づく。
その柔らかな微笑みに、ライの背筋に冷たい汗が流れた。
この人は、隠し事を見抜く天才だ。
「いえ、別に! ちょっと新しい試作機の
調整をしてただけですよ。 で、今日は何の用ですか?」
ライは平静を装い、工具を置いて椅子をくるりと回した。
「実はね、葛葉がまた、わがまま言ってて。
彼専用の銃、もっと『派手に弾けるようにして』だって。
意味不明でしょ?」
叶は困ったように肩をすくめ、
手に持っていた包みをライのデスクの端に置いた。
「これ、差し入れ。 甘いもの、好きでしょ?」
「…ありがとうございます。 でも、叶さんがわざわざ
僕の部屋まで来るなんて、 ただの差し入れじゃないですよね。」
ライが少し警戒した目を向けると、 叶の目が スッ と細められた。
その奥に宿る温度のない光が、 彼が『ファミリーの処刑人』
であることを思い出させる。
「察しがいいね。 …ねぇ、ライくん。 最近、上の連中に
内緒で『面白いおもちゃ』を 作ってるって噂、本当かな?」
叶の指先が、ライが隠したばかりの
引き出しの取っ手に、ゆっくりと伸びていった。
ライは反射的に叶の腕を掴もうとしたが、
その指先が触れる直前で止まった。
相手はファミリーの幹部だ。
ここで下手に動けば、
それから 「クロ」だと認めるようなものだった。
「…何の用ですか。 僕はいつだって、
ファミリーの利益になるものしか作ってませんよ。」
ライは努めて声を震わせないよう、 真っ直ぐに叶の瞳を見つめ返した。
しかし、叶は防弾ガラスのように硬い微笑みを崩さない。
「ふふ、そうだといいんだけどね。 最近、街のルートで
『出所のわからない妙な小型発信機 』 が出回ってるって、
剣持くんが零しててさ。 ライくん、心当たり…ない?」
叶の指が、引き出しの表面を トントン 、とリズム良く叩く。
その音が、まるでライの心音を刻んでいるかのように部屋に響いた。
「……。 心当たり、と言えば。 試作品の廃棄データが
ハッキングされた 可能性はありますね。 調査が必要かもしれません。」
ライが苦し紛れに言葉を繋ぐと、叶は ふっ と表情を緩めた。
その豹変ぶりにライは思わず息を呑む。
「あはは! ライくんってば、顔に出すぎ。 嘘つくの苦手でしょ?」
叶は引き出しから手を離し、ライの肩を ポン と叩いた。
「冗談だよ。 君がファミリーを裏切るなんて思っていないさ。
…ただ、葛葉が退屈してるのは本当なんだ。
その『おもちゃ』、完成したら僕に一番に見せてよ。
もし面白いものだったら、上にバレないように
僕が『調整』してあげるから。」
叶はそう言い残すと、出久へと歩き出した。
ドアに手をかけたところで、彼は一度だけ振り返る。
「あ、差し入れのケーキ、早めに食べてね。
中に『甘くないもの』が混ざっても怒らないでよ?」
パタン 、と静かにドアが閉まる。
一人残されたライは、デスクに突っ伏して大きく息を吐き出した。
「…心臓に悪いって、マジで」
震える手で叶が置いていった包みを開けると、
そこには高級そうなショートケーキと、その横に ──。
『ライくん、次は鍵をかけようね』
そう書かれた、見覚えのある
『ライ自身の自作発信機 』が置かれていた。