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任務帰還後・数日
研究区画/個体差再検証室
任務帰還から数日。
カピターノの損傷は、
異様な速度で回復していた。
通常兵士の三倍。
強化個体でも二倍が限界。
だが彼は――
それを上回っていた。
⸻
研究端末の前。
ドットーレはデータを何度も見返している。
ド「治癒促進薬の反応曲線……」
画面を拡大。
ド「他個体平均を大幅に逸脱」
別のデータを重ねる。
ド「神経興奮値も同様に上昇率が異常」
仮面の奥で笑みが深まる。
ド「……これは」
小さく呟く。
ド「実に興味深い」
⸻
呼び出し
翌日。
カピターノの端末に、
研究区画からの召集通知が届いた。
簡潔な文面。
追加経過観察の必要あり。至急来室。
⸻
研究区画。
扉が開く。
カ「用件は何だ」
ドットーレは既に準備を整えていた。
薬品、測定器具、寝台。
ド「来てくれて助かるよ、隊長殿」
カ「任務関連か」
ド「広義では」
カ「……また実験か」
ド「“また”とは心外だね。
前回は治療だ」
カ「興奮作用付きのな」
ドットーレは笑う。
ド「その件だ」
端末を操作し、
回復データを表示する。
ド「君の治癒速度は異常だ」
カ「体質だ」
ド「それだけでは説明がつかない」
さらに数値を拡大。
ド「薬剤反応倍率が他個体の約2.7倍」
カ「……」
ド「つまり同じ薬でも、
君だけ効果も副作用も増幅する」
沈黙。
カ「だから何だ」
ドットーレはゆっくり薬剤ケースを持ち上げた。
ド「再検証だよ」
カ「断る」
即答。
ド「予想通りだ」
カ「前回で十分だ」
ド「だが前回は戦闘直後でデータが乱れていた」
一歩近付く。
ド「今回は安定状態での反応を測りたい」
カ「必要ない」
ド「必要だ」
声が少し低くなる。
ド「君の身体特性は戦術資産だ」
カ「……」
ド「それとも」
わざと間を置く。
ド「興奮作用が怖いかい?」
カ「……」
沈黙が答えだった。
ドットーレは笑う。
ド「安心したまえ。今回は投与量を調整する」
カ「信用できない」
ド「では条件を出そう」
カ「何だ」
ド「理性維持を確認できた時点で終了」
カ「……」
ド「強制拘束も無し」
さらに続ける。
ド「投与後の距離も君の裁量に任せる」
カピターノは数秒考え――
小さく息を吐いた。
カ「……一度だけだ」
ド「契約成立だ」
⸻
再投与
寝台には座らない。
カピターノは立ったまま腕を差し出す。
ド「警戒心が強いね」
カ「必要な警戒だ」
ド「まあいい」
針を準備。
ド「今回は前回の0.7倍投与」
カ「覚えている」
ド「観察対象として優秀だ」
針が打ち込まれる。
薬液が流れる。
カ「……」
今回は声を漏らさない。
だが数十秒後。
変化は現れた。
呼吸が深くなる。
体温上昇。
ド「発現速度、やはり早い」
脈を測ろうと手を伸ばす。
カ「……触れるな」
ド「測定だ」
カ「距離は俺の裁量だろう」
ドットーレは止まり――
小さく笑った。
ド「確かに」
だがその場から動かない。
ド「なら私はここで観察する」
至近距離。
吐息が混ざる位置。
カ「……離れろ」
ド「離れている」
カ「十分近い」
ド「前回よりは距離がある」
事実だった。
だが。
薬効は確実に巡っている。
カピターノの呼吸が荒くなる。
ド「心拍数上昇」
カ「記録するな」
ド「無理な相談だ」
さらに観察。
ド「やはり君は増幅率が高い」
カ「……」
ド「興奮作用も例外ではない」
その言葉に、
カピターノの手が一瞬強張る。
ド「理性は?」
カ「保っている」
ド「証明できるかい?」
沈黙。
数秒後。
カピターノは自ら一歩近付いた。
ド「……ほう」
カ「これでも崩れていない」
至近距離。
吐息が重なる。
カ「これが証明だ」
ドットーレの呼吸がわずかに乱れる。
ド「危険な証明方法だ」
カ「観察対象はお前だろう」
ド「今回は相互観察だね」
視線が絡む。
数秒。
ドットーレは小さく笑い――
一歩だけ下がった。
ド「十分だ」
カ「……終わりか」
ド「終わりだ」
だが最後に付け加える。
ド「結論として――」
端末に入力。
ド「君は薬剤適合率が極端に高い」
カ「それで?」
ドットーレは仮面越しに笑う。
ド「今後の投与計画を再設計する必要がある」
カ「……やめろ」
ド「安心したまえ」
少し声を落とす。
ド「次回はもっと慎重に、
もっと近くで観察する」
沈黙。
カピターノは数秒見下ろし――
カ「……次はない」
ド「それも前回聞いた」
小さく笑う。
ド「だが君は来た」
扉へ向かう背に告げる。
ド「また異常値が出たら呼ぶよ、隊長殿」
足が止まる。
だが振り返らない。
カ「……任務優先だ」
ド「もちろん」
そして静かに続ける。
ド「だが観察も任務の一部だ」
扉が閉まる。
⸻
研究端末に残された新記録。
個体差異:極大
治癒促進・興奮作用ともに増幅
再投与試験――成功
ドットーレは満足そうに呟いた。
ド「やはり君は特別だよ、隊長殿」