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3 - ︰ 『 重なる距離、隠した想い 』

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2025年05月28日

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「 侑、お前これどこまで分かってる? 」


「 えーっと…この文法、ちょっと怪しいです 」


「 正直でよろしい。ほな、ここの構造な―― 」


静かな部屋に、シャーペンの音と北信介の落ち着いた声が響いていた。

北さんの家は勉強に集中できるって噂は聞いてたけど、こんなにも静かやと逆に落ち着かん。


……いや、落ち着かんのは、この距離のせいや。


教科書を開いて、隣で覗き込むように説明してくれる北さん。

肩が、近い。手が、近い。

北さんはただ真面目に教えてくれてるだけやけど、オレはって言うと、もうさっきから心臓がうるさくてしゃあない。


「 ほら、この文の構造。ちゃんと分解してみ 」


「 あ、はい….えっと、主語が ‘He’ で…動詞が ‘has been’? 」


「 惜しい。進行形と完了形の組み合わせやから…. 」


すっと北さんの指が、オレのノートの間違いをなぞる。

その指先が、オレの指先と一瞬だけ触れた。


……やば。なんか、へんな汗出てきた。


「 侑、顔赤いけど大丈夫か? 」


「 えっ、いや..たぶん暑いだけです。北さん、冷房つけてええですか 」


「 ええけど…..無理すんなよ。詰め込みすぎんでいい 」


「 ありがとうございます…. 」


ほんまにやさしい人や。

そのやさしさに、たまに勘違いしそうになる。

いや、勘違いちゃうな。――ずっと前から、ちょっとずつ、気持ちが動いてるのはオレの方で。


――そのとき。


「 あ、ペン落ちた 」


「 あ、取ります! 」


北さんの足元に転がったペンを取ろうとして、体を乗り出した瞬間。

カーペットの端に手が滑って、バランスを崩した。


「 ――うわっ! 」


「 ――侑っ…..! 」


気づけば、北さんの体に覆いかぶさる形になっていた。

肩に手をついたまま、距離、ゼロ。

息が当たる。目が合う。思考が止まる。


「 っ..す、すみませんっ!! 」


慌てて体を起こす。けど、手のひらに残る感触が、妙にリアルで。

顔が火照って、まともに北さんを見れへん。


「 ….わざとやないんですよ、ほんまに 」


「 分かっとる。お前がそんなことするタイプやないのはな 」


そう言いながらも、北さんの声が、いつもより少しだけ低い。


「 ..でも 」


「 …..え? 」


「 もし、わざとやったとしても。オレ、怒らへんと思う 」


言葉の意味を理解するまでに、数秒かかった。

顔を上げたら、北さんがちゃんと、オレを見てた。


「 お前、オレのこと…どう思ってるんや? 」


冗談やない。北さん、真面目な顔してる。

その問いに、心の中で誤魔化し続けてた想いが、急に現実になった気がした。


「 ….尊敬してます。ずっと、あこがれてて..それで、たぶん….. 」


「 たぶん? 」


「 …..好きなんです。北さんのこと 」


沈黙が落ちた。

でも、不思議と怖くなかった。


北さんは、ゆっくりと、口元をゆるめた。


「 ほな….もうちょい勉強がんばったら、ええことあるかもな 」


「 ……え? 」


「 そういうんちゃんと伝えられるようになるには、まず英語のテストで赤点回避せな 」


「 えぇ~、めっちゃ現実的ですね.. 」


「当たり前やろ。….でも、俺も、もうちょっとお前のこと見てたいと思ってる」


「 ……えっ 」


「 ほら、集中せえ。こっからが本番やぞ 」


優しい声と、あたたかいまなざし。

それだけで、もう今日は寝れそうにない。




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