傷ついた心、君のせい

春菜は、心の中で揺れる感情を必死に抑え込んでいた。智也と三咲の関係が少しずつ微妙になりつつあることを、彼女は敏感に感じ取っていた。智也の言葉に込められた不安や悩みが、春菜の胸に深く響いていた。しかし、彼女はそれをどうしても口にできずにいた。そんな中で、ひとつだけできることがあると感じた。
「智也くん、今度一緒に出かけない？」春菜は、突然そんな提案を口にした。自分でも驚くほど、思い切った提案だった。しかし、彼女はそれが智也と二人きりの時間を持つための唯一の方法だと直感していた。

智也はその提案に少し驚いた様子だったが、すぐににこやかな笑顔を浮かべて答えた。「うん、それいいね。どこか行きたいところがあるの？」

春菜は少し考えた後、「特に決めてないけど、気分転換になるような場所ならどこでもいいかな。」と、軽く答えた。心の中では、ただ智也との時間を少しでも持ちたかっただけだった。

智也はしばらく考えてから、「じゃあ、近くのカフェに行こうか。ちょっと静かなところで、ゆっくり話せる場所がいいな。」と提案した。

その言葉に春菜は安堵した。智也の提案は、まさに自分が求めていたものだった。「それ、いいね！ありがとう、智也くん。」春菜は思わず笑顔を見せた。

二人はそのままカフェに向かうことになった。春菜の胸の中には、少しの不安と大きな期待が入り混じっていた。智也との時間が、どれだけ大切で貴重なものになるか、彼女はまだわからなかったけれど、この一歩を踏み出すことで何かが変わるかもしれないという予感がしていた。

カフェに到着すると、店内は落ち着いた雰囲気で、ほのかに漂うコーヒーの香りが心地よかった。春菜は、智也と向き合って座りながら、少し緊張していた。しかし、智也はその緊張を感じさせないように、穏やかな笑顔を浮かべていた。

「最近、どう？」智也が軽く聞いた。

春菜はその問いかけに少し戸惑ったが、素直に答えた。「うーん、特に変わったことはないけど…最近、智也くんと話す機会が減ってきて、ちょっと寂しいなって思ってた。」彼女の声は少しだけ震えていたが、その気持ちを伝えたかった。

智也は驚いたように春菜を見つめ、「そうだったのか…ごめん、気づかなくて。」と、少しだけ申し訳なさそうに言った。「でも、今こうして話せるのは、すごく嬉しいよ。」

春菜はその言葉を聞いて、少し安心した。智也が自分の気持ちを理解してくれることが、何よりも心強かった。

「ありがとう、智也くん。」春菜は自然と笑顔を見せた。その瞬間、智也も穏やかに笑って、春菜に向けて手を差し出した。

「ありがとう、春菜。君とこうして過ごせる時間が、大切だと思ってる。」智也の言葉は、春菜の胸に深く響いた。その優しさが、春菜の心をさらに温かくした。

その後、二人はゆっくりとカフェで過ごしながら、あれこれと話をした。春菜は、智也とこんなふうに心を開いて話すことができることに、深い安心感を感じていた。そして、彼と過ごす時間が、何よりも大切で、かけがえのないものであることを、改めて実感していた。

「智也くん、ありがとう。今日こうして出かけてくれて、本当に嬉しいよ。」春菜は、心からの感謝の気持ちを込めて、智也に言った。

智也は少し照れくさそうに笑いながら、「うん、僕も楽しかったよ。春菜と話すの、久しぶりだったから。」と答えた。

その言葉に春菜は、思わず胸が温かくなった。智也との距離が、少しずつ近づいていくことを感じていた。今まで感じていた不安や疑問が、少しずつ薄れていくような気がした。

春菜は、この日をきっかけに、自分の気持ちを大切にしながらも、智也との関係をもう一歩進める勇気を持つことを決意した。どんな結果が待っているのかはわからないけれど、今はただ、彼との時間を楽しみ、心からの笑顔を忘れずにいたいと思った。

そして、二人はゆっくりとカフェを後にし、再び歩き始めた。知らず知らずのうちに、二人の手が徐々に重なり合った…。