沐宇様の言葉は、俺の人生を一変させた。男であることを知られても尚、俺を守ると言ってくれる帝。そして、皇太后という、後宮の頂点に立つ役割を俺に与えるという。混乱と戸惑いで頭がいっぱいだったが、彼の真剣な眼差しに、俺は小さく頷くことしかできなかった。
夜が更け、侍女たちは皆下がった後、沐宇様は再び俺の宮を訪れた。
「…沐宇様?」
「夜分に失礼。皇太后として、夜伽の作法を全く知らないわけにはいかないでしょう。他の女たちに何かを尋ねられても、困るだろうから」
そう言って、彼は少し顔を赤らめる。人見知りで臆病だと語っていた彼の、不器用な優しさが伝わってきた。
「はい、ありがとうございます…」
彼は俺の隣に座り、まるで書物を読むかのように、淡々と夜伽の作法を語り始めた。しかし、次第にその内容は具体的なものになっていく。
「…こうして、相手の顔をそっと引き寄せて…」
沐宇様の手が、俺の顎にそっと触れる。初めてのことに心臓が跳ね上がる。
「…そして、こうして、唇を合わせる。口付けは、相手への愛情を示すもの。ただ触れるだけではなく、想いを込めて行うのです」
そう言って、彼は俺の顔をゆっくりと自分の方に引き寄せる。吐息がかかるほどの距離で、彼の瞳が俺を真っ直ぐに見つめる。俺は緊張で呼吸が止まりそうになる。
「っ…//」
唇が触れ合う直前で、彼は動きを止めた。
「…大丈夫です。これはあくまで作法ですから」
そう言いながらも、彼の指先も震えている。彼は俺の頭を優しく撫で、安心させるように微笑む。
「私が教えた作法を、他の者に見せる必要はない。ただ、貴方を守るための知識として、心に留めておいてほしいのです」
「…はい。ありがとうございます、沐宇様…」
「ところで、貴方の本当の名を聞いてもいいですか?」
「私の名前はdnqです。」
「dnq…」
噛みしめるように帝はそう、口にする。
「失礼に当たりますが、沐宇様の本当の名は…?」
「私の名を聞いて失礼にはなりませんよ、貴方は。
私の名はmfです。」
この世界は一人二つ名前が存在するのだ。本当の名は家族や心を本当に許せる人しか話してはいけない。本当の名を教えてくれた沐宇様は俺のことを…//ちゃんと思ってくれているのだな。
彼の言葉と優しい眼差しに、俺の心は温かくなっていく。この人は、本当に臆病で人見知りなのだろうか。それとも、俺の前だけで、こうして不器用な優しさを見せてくれているのだろうか。俺は彼の深い瞳に吸い込まれそうになった。
翌朝、俺は皇太后の宮へと引っ越すことになった。そこは絢爛豪華で、家が騒がしかった俺にとっては、あまりにも静かで、眩しいほどに綺麗だった。
「桜綾…いえ、貴方。少しこちらへ」
沐宇様は、引っ越しの手伝いを終えると、俺を静かな一室に呼んだ。
「貴方の髪は、姉君のものよりもずっと美しい。もう、傷めることはない」
そう言って、彼は俺の白く美しい髪を撫でた。俺が姉に似せるために、わざと傷ませていた髪。彼はそのことを知っていたのだろうか。
「しかし、それでは姉君と見分けがつかない…」
「もう、その必要はないのです。貴方は、貴方らしくいてくれればいい」
彼はそう言い、準備していた箱から、丁寧に作られたカツラを取り出した。それは、姉の髪と寸分違わない、見事なカツラだった。
「これなら、もう誰も貴方を姉君と間違えることはない。そして、貴方のその美しい髪を、誰かに傷つけられることもない。私のそばにいる限り、貴方は安全なのですから」
沐宇様は自ら、俺のカツラを被せてくれた。その手つきは優しく、まるで宝物を扱うようだった。
「…はい、ありがとうございます、沐宇様…」
俺は戸惑いながらも、素直に感謝の言葉を述べた。男であることを知られても、俺を尊重し、守ろうとしてくれる。彼の優しさに触れ、俺の心は温かくなる。
俺の新たな生活が始まる。男であることを隠しながら、慣れない立場で後宮の頂点に立つことになった俺。しかし、俺を支え、守ってくれる沐宇様という存在がいる。俺は、彼と共に、この後宮で生きていくことを決意した。彼の言葉と優しさが、俺の心を強く支えてくれた。
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コメント
8件
読み進めるにつれちょっと胸が痛くなるんですよ😭😭 最高すぎます⋯!!!!
mf君dnちゃんと幸せに!!! 最高です! これからも頑張ってください!
わー、お話が進んでいる‼︎ なんかかこう、切なさもあるのは何なのでしょうか…‼︎ 幸せになってほしい…‼︎