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いえいいえい✌誰が投稿してるんだろうねw
第3話 —決意の夜—
雨は小降りになったが、空は依然として重く垂れ込めていた。
東京湾沿いの冷たい風が錆びたコンテナを鳴らす。
潮の匂いが鼻を刺す倉庫街。
そこに、ほとけは部下たちを集めていた。
地図を広げた机を囲む。
湿気で紙が波打つ。
ペンの先で港の区画を指し示した。
「奴らの現拠点はここだ。旧海運会社の倉庫。監視カメラは死んでる。近隣は廃墟同然。警察も滅多に来ない」
部下の一人が言った。
「いふの奴、そこを本拠にしてるのは間違いないんですか」
「確実だ」
ほとけは即答した。
自分で調べた。
夜通し尾行もした。
あの姿を、傷を引きずりながら奥の部屋に消えるのを、この目で見た。
「周辺には警戒の見張りが三人。武装は拳銃とナイフが確認済み。多くはないが、奴らは訓練されてる」
「どうします?」
「夜間。雨が上がった瞬間を狙う。音が響きやすい。敵も気を抜くタイミングだ。そこを叩く」
若い衆たちは無言で頷いた。
冷たい決意が部屋に満ちる。
それは人を殺す前にだけ漂う、あの独特の空気だった。
ほとけは視線を上げた。
部下たち全員の目を確かめる。
「……言っとく。相手は危険だ。撃ち合いは必至だ。死にたくない奴は今のうちに抜けろ」
誰も動かない。
咳払い一つない。
「いいか。あいつを殺す。奴を殺さなきゃ、この争いは終わらない。うちの組長も、それを望んでる」
「はい」
「殺れなかったら、俺が殺す。お前らは他を制圧しろ」
「……」
若衆たちは目を伏せた。
噂は広まっている。
「ほとけが情を移した」
「今回も殺れないんじゃないか」
その視線が痛かった。
だがほとけは飲み込んだ。
吐き気がするほど、冷たい声を絞り出す。
「次は、必ず仕留める」
会議が終わり、若衆たちが散っていった。
湿った夜風が入り込む廊下を、一人歩く。
血のついたグローブをポケットで握りしめた。
乾きかけた血がザラつく。
それが罪の証みたいだった。
(なんで……あの夜、引き金を引けなかった)
思い出す。
あの目を。
関西弁で挑発しながら、諦めたように笑った目を。
「……俺も、あいつもや」
あの言葉が耳から離れない。
階段を下り、裏口から外に出た。
小雨が霧のように降っていた。
街灯に照らされ、舞う水滴が黄色く滲む。
煙草に火をつけた。
肺に熱が落ちる。
くぐもった咳が出る。
「……情なんか、移るかよ」
自分に言い聞かせた。
だけど、嘘だった。
認めたくなかった。
あの夜、撃てなかったのは、ただのミスじゃない。
――殺したくなかった。
目が滲む。
慌てて袖で拭った。
「馬鹿みたいだ」
雨が少し強くなった。
肩の傷が疼いた。
縫い目が開きそうなくらい痛む。
その頃、東京湾岸の廃倉庫。
いふもまた、部下たちを集めていた。
「……来るぞ、あいつ」
机の上に広げた拳銃を手で弄びながら、いふは低く言った。
「ほとけ、っちゅうんやろ」
部下たちが顔を見合わせる。
「兄貴、マジで向こうから来ますかね?」
「来る。絶対にな」
いふは言い切った。
煙草を咥え、ライターを弾く。
火がつく瞬間、目がぎらりと光った。
「奴はそういう男や。逃げへん」
「……俺らは?」
「迎え撃つ。準備万端でな」
舎弟が鼻を鳴らした。
「兄貴も殺る気ですか?」
「当たり前や」
短く吐き捨てる。
煙が鼻から抜けた。
「……殺さなあかん。あいつがおらんようならな、東京は手に入る」
「でも兄貴、あいつのこと――」
「黙れ」
言葉を叩き切るように言った。
倉庫内がシンとした。
「余計なこと考えんな。俺らは稼がなあかん。勝たなあかん。生きるためや」
「はい」
「そやけど……」
いふは小さく笑った。
煙草を指で弾いて火を消す。
「俺が殺す。誰にも渡さん。……俺が決着つける」
部下たちは頷いた。
それが「兄貴のルール」だと知っていた。
会議が終わり、皆が散ったあと。
いふは一人になった倉庫の奥の部屋に座り込んだ。
雨漏りのしずくがポタポタと落ちる。
古い木箱の上に肘をつき、顔を伏せた。
肩の傷が痛む。
縫った糸を爪でひっかく。
血が滲む。
けどやめなかった。
「……ほとけ、か」
あの夜を思い出す。
ナイフが交錯する火花。
壁に押し付け合う息遣い。
撃ち合う目。
あの目が離れない。
死ぬ覚悟の目。
全部投げ捨てたような目。
けど――助けを求めるような目。
「……殺したら、楽になるんか」
小さく呟く声が震えた。
「俺らは、そんなんで、ほんまに楽になれるんか」
雨音が返事をしなかった。
夜は更けていく。
東京湾の潮風が生臭い。
倉庫街には誰もいない。
でも、その静寂の中で、二人は同じことを考えていた。
【ほとけのモノローグ】
殺さなきゃならない。
あいつを殺さなきゃ。
それが俺の務めだ。
組を守るため。
家族を守るため。
俺が、俺でいるため。
でも、あいつの目が離れない。
撃ちたくなかった。
引き金を引けなかった。
あれが俺の弱さだ。
だから、次は絶対に殺す。
そう言い聞かせないと、心が壊れそうだった。
【いふのモノローグ】
殺したる。
あいつは邪魔や。
あいつを殺したら、この街を手に入れられる。
それが俺の勝ちや。
そうせなあかん。
けど、あの目が、笑ってんのに泣いとった。
俺も同じ目ぇしてんの、バレた気がした。
殺したいのに、殺したない。
そんなアホな話あるか。
「ほとけ……」
名前を呼ぶだけで胸が痛む。
雨はやまない。
夜は終わらない。
そして、決戦の日が近づいていた。
どちらかが死ぬ。
それが分かっていた。
分かっているのに――互いに引き寄せられていく感覚が、恐ろしくてたまらなかった。
コメント
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最初のとこの口調??的にわむちゃんでは…? バチバチの戦いになりそう!!
え...誰が投稿してるの?! 目覚めた?目覚めたのか? てか水くんの俺ッッッ!凄い好き💕