テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#近未来
鳳蓮荘
751
#能力
キュルノ
1,318
#ホラー
天野 夢縁
431
#学園
大正
5,104
コメント
1件
第32話、読み終えました……! いやあ、こんなに心に響く戴冠式は見たことないよ。クロードが三派閥をデータで鎮めるシーン、めちゃくちゃかっこよかった!「どれも選ばない」って、ただの無責任じゃなくて、全部を掌で転がす覚悟が見えた。それに、師匠の「よくやったな」が……もう、涙が出そうになったよ。孤独を抱えながらも、自分のやり方で生き抜く姿が、本当に尊い。ドブネズミの王道、これからも応援してるね!
闘技会が終わり、気がつけば俺は魔王城の最上階、黒磁石で出来た大玉座の前に立たされていた。「これより、新魔王クロード・ヴァルネ様の戴冠式を執り行う!」
老臣のしわがれた声が響き渡る。だが、謁見の間に集まった魔族どもから湧き起こったのは、祝福の歓声などではなく、互いを牽制し合う鬱屈した空気と激しい罵声の応酬だった。
「ハーフの愚か者を玉座に座らせるなど言語道断! 今すぐ人間界へ攻め込み、下等生物どもを皆殺しにして魔界の威光を示すべきだ!」
——血に飢えた狂戦士ども率いる【人間虐殺・主戦派】。
「何を世迷い言を! 人間界との貿易と技術交流こそが魔界に豊かさをもたらす! 新魔王様には人間との平和的共存を誓っていただく!」
——利権と商路の拡大を狙う貴族層を中心とした**【人間共存・温和派】。
「フン、下らん。人間と関わること自体が間違いなのだ。魔族は魔族だけで完結すればいい。境界線を完全封鎖し、古き良き孤立を保つべきだ!」
——純血主義に固執する頑固な旧教派【完全孤立・自立派】。
そして、広場を埋め尽くす大半の民衆——「誰が魔王になろうと税金が安くなって食えればどうでもいい」と欠伸を噛み殺している【政治的無関心層】。
見事なまでにバラバラな四分五裂。
師匠が「権力に群がる脳筋ども」と吐き捨てていた通りの惨状に、俺は本日何度目かわからない盛大な欠伸をかました。
(……はぁ。面倒くさすぎる。誰だこんな面倒な椅子を用意した奴は)
「クロード様! どうかご決断を! 我ら主戦派に全軍の指揮権を!」
「いいえ、共存派に未来の全権を!」
「封鎖こそが至高!」
詰め寄ってくる派閥の代表ども。
セリスが「どうするのよ……」と青ざめた顔で俺の横顔を伺い、シャーロット、エレナ、シエルの三人が固唾をのんで見守っている。
俺はゆっくりと大玉座の肘掛けに腰を降ろすと、脚を組み、煙草に火をつけた。
紫煙をゆったりと天井へ吹き上げ、消音拳銃(サイレンサー)の重みを確かめる。
「……静かにしろ、脳筋ども」
俺の冷ややかな一言に、殺気立った謁見の間が静まり返る。
「主戦派。お前らは人間を全員殺すと言ったな」
「は、はいッ! 圧倒的火力で人間どもを——」
「不合格だ。人間界の特務機関が保有している現代兵器の規模を知っているか? 指向性C4地雷、対物ライフル、高圧気体兵器……俺が闘技会で使った兵器の数万倍の量が配備されている。無策で突っ込めば、お前らはただの爆竹みたいに全滅して終わりだ。……死にたいなら一人で散歩してこい」
主戦派の巨漢が、ぐうの音も出ず青ざめる。
「次に共存派。お前らは仲良く平和共存と言ったな」
「え、ええ! 対話と経済で——」
「甘すぎる。防衛力と情報戦の主導権を握らずに顔を回せば、人間界の強硬派につけ込まれ、魔界は単なる資源の切り売り場(植民地)にされるだけだ。……お花畑の脳みそで政治をするな」
共存派の貴族が絶句して引き下がる。
「そして孤立派。お前らは境界線を閉ざすと」
「当然だ! 我ら魔族だけで——」
「無理だな。魔界の魔導鉱石の精錬に必要な触媒の三割は、人間界からの輸入に頼っている。今すぐ境界を閉じれば、三年で魔界のインフラは全滅して餓死者が出る。……現状の流通データすら見ていない奴がドヤ顔で語るな」
三派閥の代表どもが、完璧な現実の数値(データ)を突きつけられ、完全に黙りこくった。
「……クロード、あんた……いつの間にそんなデータまで……」
セリスが呆気にとられたように呟く。
「ハンスから買い叩いた情報屋のレポートだよ。……いいか、よく聞け」
俺は煙草の灰を雑に床へ落とし、大玉座の上から冷徹な視線で大広間全体を見渡した。
「俺は共存も、虐殺も、孤立も……『どれも選ばない』」
「な……なんですと!?」
「俺がやるのは『冷徹な兵器力による完全な力の均衡(抑止力)』だ」
俺は胸元から、ハンスから買い占めた最新型の【広域光学迷彩陣】と【超高圧C4弾薬】の権利書をチラつかせた。
「主戦派。お前たちの望む『力』は、俺が人間界から買い漁った現代兵器と暗殺術で魔王軍を再編し、人間界が手を出せないレベルの絶対的防衛壁(抑止力)として構築してやる」
「共存派。人間界との取引は、俺が境界線の第一監視ルートを完全支配した上で、対等以上の有利な条件でのみ『限定的交易』を行わせてやる。利権の横取りは許さん」
「孤立派。魔界固有の文化と領域は、俺の光学迷彩結界で完全に不可視化して守ってやる。外部の干渉は一切受けん」
派閥の連中が、息をのんで俺の顔を見つめる。
互いの主張の「都合の良い部分」だけを現実的な兵器と情報で担保し、同時に「愚かな暴走」を物理的に不可能な仕組みに組み替える。
師匠から耳にタコができるまで叩き込まれた、「誰にも期待されず、誰も信じず、だが全員を黙らせて支配する」最悪で完璧なドブネズミの帝王学だ。
そして——俺は最後に、最も数の多い【政治的無関心層】の民衆へ向けて、気怠げに声を張った。
「で……お前ら一般の民草(無関心層)。俺のこのやり方なら、人間との無駄な戦争で息子が死ぬことも、境界線の閉鎖で飯が食えなくなることもない。……オッズ180倍の勝者として、魔王城の膨大な余剰資金から減税もしてやる」
その瞬間——広場を埋め尽くしていた何万人もの無関心層の民衆から、地鳴りのような大歓声が巻き起こった!
『お、オッズ180倍の魔王様バンザイーーッ!』
『減税だ! 飯が食えるぞーーッ!』
『戦争も閉鎖もなし! 最高じゃねぇか!!』
数の暴力。
熱狂する民衆の歓声に押し潰され、三派閥の過激派どもはもはや反対の声を上げることすらできなくなった。
「……ふぅ。これで全員黙ったな」
俺は大玉座に深く背をもたれかけ、本日何度目かわからない盛大な欠伸を吐き出した。
「クロード……アンタって人は、本当に……『知らぬ間に周りを巻き込んで狂わせる』男ね」
呆れ返りながらも、どこかわくわくしたような瞳で俺を見つめるセリス。
「やっぱりアタシのクロード! 最高にかっこいいーっ!」と叫ぶシャーロット。
「180倍の魔王様付きの側近、アタシが一番乗りね!」と笑うエレナ。
「……風のように、どこまでもお供する……」と静かに頷くシエル。
「……勝手に盛り上がってろ。俺は自室に戻って寝る」
俺は新魔王の重い王冠を無造作に肘掛けへ放り投げ、消音拳銃の感触をポケットの中で確かめながら、気怠げな足取りで玉座の間をあとにした。
人間界と魔界の均衡、裏で蠢く特務機関、そしてハンスからの新しい兵器の納品。
やるべき『仕事』は山積みだが……とりあえず今は、この不快な静寂の中で、冷えた缶コーヒーでも飲んで泥のように眠るだけだ。
新魔王としての初仕事をどうにか形にし、泥のように重くなった体を自室のベッドに投げ出した瞬間、俺の意識は再び底知れぬ睡魔の底へと沈み込んでいった。
……またあの鬱陶しい夢か。
どうせまた「魔王の心構えその二」だの「泥を啜る覚悟が足りん!」だの、耳にタコどころか脳みそが腐るほど聞き飽きたダミ声が聞こえてくるのだろう。
だが、瞼の裏に広がったのは、いつもの殺伐とした地下鍛錬場ではなかった。
すべてが淡い灰色に煙る、底なしの「夢見の淵」。
その中央に、見慣れた大男――顔が潰れ、いつも安酒の匂いを纏わせていたかつての師匠、前魔王ヴァルモニカ・アスラがどっかりとあぐらをかいて座っていた。
『……おいオッサン。また説教か? 生憎だが、今日はもう三派閥の馬鹿どもを言いくるめてヘトヘトなんだ。勘弁してくれ』
俺が投げやりな声で吐き捨てると、いつもなら「気合が足らんわボケェ!」と怒号が飛んでくるところだが、今日の師匠はただ、微かに濁った片目を細めて、不気味に静かに笑っていただけだった。
『……よくやったな、クロード』
『……は?』
思いがけない低く落ち着いた声に、俺は思わず足を止めた。
『耳タコになるまで儂の説教を聞かされて、さぞや鬱陶しかったことだろうよ。お前はハーフ崩れの出来損ないとして虐げられ、誰も味方のいないドブネズミの人生を歩まされた。……だがな』
師匠はふっと目を伏せ、かつて一度も見せたことのない、どこか誇らしげで、どこか肩の荷を下ろしたような笑みを浮かべた。
『儂はな、血塗られた玉座にしがみつき、力だけを誇示して散っていった歴代のどの魔王よりも、お前を誇りに思う。……お主こそが、真の魔王であったよ』
『……何を気恥ずかしいことを言ってやがる。死にぞこないのオッサンが柄にもない』
照れ隠しに冷ややかな声を返したが、胸の奥で、鉛の弾丸がひしゃげたような妙な熱さが広がっていくのが分かった。
『もう悔いはない、クロード』
師匠はゆっくりと立ち上がり、その巨体を淡い霧の中へと溶かしていく。
『散々っぱら面倒なことを押し付けちまったな。だが、もう誰の指図も受ける必要はない。お前のやり方で、お前の好きなように生きるがいいさ』
『おい、待てよ! まだ聞き足りねぇことが――』
手を伸ばした瞬間、霧が爆発するように晴れ渡り、俺の意識は強烈な現実へと引き戻された。
「……っは……!」
ガバッと跳ね起きるように目を開けると、そこは見慣れた自室の天井だった。
窓の外には、新しく統治を始めた魔界の夜空が広がっている。ひんやりとした静寂が部屋を満たしていた。
「……くそっ、最後まで勝手なことばかり言いやがって……」
額の汗を雑に拭い、俺はベッドの上に胡坐をかいた。
耳の奥から、あのダミ声の残像がスッと消えていく。妙に静かになった頭の中で、俺は深く、深く息を吐き出した。
誰の期待にも応えず、誰の同情も求めず、ただ自分のやり方で泥を啜り、生き残るために銃を磨く。
それが、あのオッサンから叩き込まれた唯一にして最高の教えだ。
「……好きに生きる、か」
俺は枕元に置いてあった愛用の消音拳銃を手に取り、スライドを引いて空撃ちの乾いた音を鳴らした。
気怠い夜風がカーテンを揺らす。
面倒くさい政治も、まとわりついてくるヒロイン共も、全部まとめて俺の掌の上で転がしてやればいい。
「……さて、と」
俺はフッといつもの冷徹な笑みを浮かべ、再びベッドの枕に頭を預けた。
誰にも縛られない、俺だけの新しいドブネズミの王道(みち)が、ここから始まる。