コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
夕方。
とりあえず安全だと先生たちが判断し、私も体調が回復したので帰ることになった。
親には…..言わないでおこう。報道陣があんなにいたなら、良くも悪くも広まるだろう。その後、別に何も無かったから心配することない、と伝えればいい。
USJに突如現れたヴィランたち。お昼鳴った警報が鳴らなかったのは、電波でそういう機械を壊すことが出来る…..っていう個性を持ったヴィランがいたってことだと思う。
「愛嶋」
「?」
振り返ると、巨体。うちのクラスで1番背が高い、障子くん。
「もう、体調はいいのか」
心配してきてくれたんだ。
「うん。リカバリーガールのおかげ。あとは脱水症状だけだったから、元気だよ」
「それならいいが…..首の、それ」
自分で首を触ってみてもわからない。
「赤くなってるぞ。痛むのか?」
ヴィランに首を絞められた時の跡だな….。
「ううん。もう痛くないよ。….ねぇ障子くん。今回のこと、怖くなかった?」
「……そりゃあ、怖いさ」
良かった….障子くんも、怖かったんだ…。
「それでも、我々は、怖いからと言って戦闘を離脱していい理由にはならない。傷つくのは怖い。誰だってそうさ。それでも、我々を守る姿・救う姿。ヴィランに立ち向かう姿に感化された。それなら、我々もそうあるべきと努力するだけだ」
「そうだね…..うん!そうだね!ありがとう障子くん!元気出た!」
そうか。だって。障子くん、マスクで表情はあんまり分からないけど、きっと優しそうな顔で笑うんだ。
障子くんと別れてから。
帰宅した私は、家事なりなんなりしながら考えていた。私の課題について。
・操れる水の上限
・接近戦への備え
主にこの2つが挙げられると思う。
水の上限は、必要なとき、必要な量だけ使えるようになること。例えばプロヒーロー・エンデヴァー。あの人は身体から火を出して攻撃したり飛行したりする。あの人だって人間だ。使いすぎたら火傷をするし、生命活動にどこかしら支障を来すだろう。
そんなエンデヴァーさんが今までプロヒーローでいられるのは、必要な時必要な分だけ炎を出して調整しているから….だと思う。私もそれを身につければ、水を攻撃に回したり、防御に回したり援護に回したり出来るだろう。
次に接近戦への備え。どうする?今から柔道とか習う?いやいや、そんな馬鹿な。とすると….やっぱり自主練か。水を使って足元を掬うことは出来ても、水がなくて何もできませんじゃ困る。
まずは柔軟とか、筋トレとか…..出来ることからはじめてみよう。
あ。もうひとつ。課題。気合いだ。ヴィランに対する気合い。爆豪くんみたいに「どっからでもかかってこいやヴィラン共!片っ端から爆破してやらァ!!」ぐらいの気持ちでいかないといけない。ハッタリでも良い。気合いで引いてどうする!力で負けてんだから何かで勝たないと!
爆豪くんみたいなヴィランがいたら、会話しただけで構えてしまう。防御が元々弱いんだから、防御の姿勢ではいけない。
轟くんみたいに堂々とする姿勢も忘れずに。
次の日。相澤先生から体育祭の話があった。こんな状況でするのも….とは思ったけど。じゃあ逆に中止したら、雄英高校がピンチって言ってるようなものだ。
「あんなの食らったって全然問題ないですよ」の姿勢で行きたいらしい。
HRが終わったあとの休憩時間。
廊下に出ようとすると、普通科の子から隣のクラスから、その他いろんな子が集まっていた。これでは外に出られないじゃないか。
普通科の子が口火を切った。彼は見た事がある子で、あの紫の髪の子だ。
「足元掬っちゃうぞっつー宣戦布告に来たつもりなんだけど」
宣戦布告…..?
驚く私を他所に、爆豪くんはなんか言ってる。爆豪くんの強気で煽るような発言。でもそれに、確かに心揺さぶられるみんながいた。私もその1人。
ピンポンパンポーン!
『ヒーロー科・1年A組。愛嶋ゆうさん。至急職員室に来てください。繰り返します。ヒーロー科・1年A組。愛嶋ゆうさん。至急職員室に来てください』
なんだろう?なんにもやらかしてないと思うんだが….。
「ごめんなさい、通らせてください」
人混みを掻き分けて職員室に行かなきゃいけない。
「あんたが、愛嶋….」
かけられた声を無視出来ず、顔を上げると、私を見ている大勢の中から視線が合ったのは、紫の彼だけだった。
「失礼します。愛嶋ゆうです」
「あぁ」
マイク先生が扉を開けて、相澤先生は回転椅子に座ったままこっちを見る。HRでも思ったけど、相澤先生、そんな包帯ぐるぐる巻きで仕事して大丈夫なんだろうか。
「昨日の今日で悪いなぁリスナー」
まぁ座れや、とソファに案内されたので、一旦腰掛ける。
「あのね。今日来て貰ったのは、体育祭のことなの」
ミッドナイト先生!
ミッドナイト先生は、私の向かいに座って私の目を見た。とても真剣な話なんだろう。
「あなたも薄々気づいてるとは思うけど、愛嶋ゆう。あなたは幼少期から、プロヒーローの中でかなり重要視され、守られてきた」
そう。幼児の頃から、度々個性調査をし、雄英高校にも試験無しで入学できたのは皆さんの期待を背負っているから。
個性・水。
操る水が多ければ多いほど威力を増す。日本が抱える自然災害。特に大雨や津波など、将来使える個性だからと言われてここまで育てられてきた。
「今回のUSJ襲撃でも、あなたを連れ去る目的があったのは確か。ヴィランたちの事情聴取でわかったことよ」
やっぱり、誰でもいいわけじゃなかったんだ。私の首を絞めた時、確かにヴィランが話していた。
“ こんなやつがいいのか “
” 個性がいいんだろ “
今までプロヒーローに守られてきたのに、何故か情報が漏れていて、そのうえで狙われた。私じゃなくても、便利で強い個性はいくらでもいる。そう思うと、災害後の調査だったり、なんか色々あってヴィランも、プロヒーローも目をつけたんだろう。
「それを踏まえて、なんだけど。体育祭、あなたは少し違う形で参加してもらいたいの。今後のヒーローインターンに支障が出ないようにするから」
私は将来ざっくりとした目標しかないし、本格的にこの事務所所属じゃないと困るとか思っていない。
むしろ私のせいで、先生方やプロヒーローに迷惑がかかるのが申し訳ない。
「わかりました。よろしくお願いします」
ミッドナイト先生は安堵の表情。マイク先生はサングラスで分からないところを見ると、多分そう。相澤先生は…..包帯で分からないな…..。
その後、競技について説明があった。
「ありがとうございました。失礼します」
「えぇ」
「あ….相澤先生、お大事に」
相澤先生は軽く右手を上げた。
廊下から外を見ると、どうやらしとしとと雨が降って来た。そういえば、さっき教室に来た子。気になるな…。
っと、いたいた。
紫色の普通科の彼。金髪の子と話している。多分、友達?
「傘忘れたの?じゃあ使えば」
「ありがと しんそー!」
金髪の子は傘を借りてルンルンと走って行く。
「貸してあげたんだ。優しいんだね」
「…..あんた。ヒーロー科の」
「駅まで?送らせてよ」
「走るからいい」
この機会に話しておきたい。彼は普通科だし、学校生活で会える回数は低いだろう。
「いいじゃん。一緒に帰ろう」
私は半ば強引に、彼の胸に傘を押し付けた。彼は めんどくさ とでも言いた気な目をしていたが、私が動く気配が一向にないので諦めたのだろう。
「…..なんの用?A組の差し金?」
「ううん。私の独断」
「昼間の。聞いてなかったの?」
「聞いてたよ。ヒーロー科に来たいんだね。私は歓迎するよ?」
「なにそれ。俺を敵とすら見てないって?」
「まさか。そんなつもりは。……昔から口下手なんだよね。仲良くしたいなって思ってるんだけど」
「こっちは仲良くする気ないけど」
「うーん手厳しい。じゃあこれは?ヒーロー科に来るなら、戦闘訓練があるし、追いつくつもりなら必要だと思うんだ。練習相手になってくれない?」
今まで管轄入れずに受け答えしていた彼の回答が、一旦止まった。
「……見下したいの」
「違うよ。一緒に上がりたいの。恥ずかしい話、クラスになかなか馴染めてなくてさ。そりゃあ練習付き合ってって言って断る子たちじゃないんだけど、君がいいなって。宣戦布告?あれ見て勇気あるんだって思ったし」
「………..心操」
「え?」
「心操人使。….答えはすぐ出せないけど。名前だけ。君は愛嶋さんでしょ?呼び出し食らってた」
やった!
「うん!」
「俺ここまでで良いから」
心操くんの歩くスピードに合わせてたら、気づいたら駅に着いていた。
私だってただおしゃべりしたくてここまで着いて来たんじゃない。心操くんについて知りたかったから。ヒーロー科志望なのに普通科に入ったってことは、多分学力は問題なくて、個性が戦闘向きじゃないってことだ。宣戦布告から見て勝てる散弾はと整えてるだろうし、個性がサポート型か….少なくともパワー系ではないんだろう。
心操くんの服を見ると、私がいたせいか左側が濡れている。
「またね心操くん」
水を移動させて….これで風邪ひかないでしょ。私も本当は普段傘なんて使わないけど、今回は使うか。無駄に個性使って、もし市民が困っていたら
…..あ。これだ。私は今まで個性を軸に戦ってきた。けど、いざとなった時最大火力を出すなら、蓄積も大事だよな….。
それに、天候が雨だと使える水が多い。積極的に環境を味方にする戦い方もできるようにならないと。
体育祭当日。
開会式まではみんなと同じ流れ。閉会式後はマイク先生と相澤先生のいる実況席へ。
控え室ではみんながソワソワしてて、緑谷くんと爆豪くん。轟くんと緑谷くん。何やら因縁?的な?のが?ありそうだ。
因縁…..ねぇ…..。
開会式が始まると、今までTVで見ていたよりもすごい歓声が聞こえる。グラウンドから見ると、いつもと違う角度で新鮮だ。
なんと選手宣誓は爆豪くんらしくて。
「あいつ入試1位だったもんなー」
そうだったのか….!入試受けてないから知らないけど、やっぱり爆豪くんって優秀なんだな、
「せんせー。俺が1位になる」
知ってた。
開会式が終わって早速次の種目の説明がある。今の間に放送席に移動を….っと。さすが開会式の間。すれ違う人少ないな。えーと放送席はー…..
「何をしている」
驚いて振り返ると、プロヒーロー・エンデヴァーが立っていた。そういえば、今年の体育祭は強化を例年の5倍くらい強化したんだっけ。
にしてもプロヒーロー・エンデヴァー…..今まではTVでしか見た事がなかった。生で見るエンデヴァー….すごいな、
「えっと、これから放送席に行くんです、」
「種目はどうする」
「種目には基本出ません」
「…..あぁ。お前が」
なにかに納得されたので、多分プロヒーローの中で私に対する共通理解がなんかあるんだろう。
「それでは、失礼します、」
迫力があってすれ違うのもはばかれるが、向こうに行かないといけないので仕方ない。
「貴様がどれほどの個性か知らないが」
エンデヴァーさんの声は、地を這うように低くて。地面から燃え上がる炎の圧。正直、この人がいるのにヴィランが立ち向かっていく、そのヴィランの気が知れない。
「うちの焦凍には敵わん。覚えておけ」
背中で語るエンデヴァーさん。
ここで ” はい “ と言えば睨まれずに済んだかもしれない。
「…….ご忠告ありがとうございます」
でも、敵わないと言われてその通りと言いたくは無かった。
でももちろんエンデヴァーさんの方を見ることはできなくて、そのまま立ち去ってしまった。エンデヴァーさんはヒーローとしてとてもかっこいいと思っていたし、確かに怖い印象が拭えないわけではないけど、エンデヴァーさんのおかげで犯罪が減っているのは確かだ。
私は世間がなんと言っても、エンデヴァーさんに憧れる気持ちと、尊敬の気持ちは消えない。
「愛嶋。こっちだ」
角を曲がったところで、放送室から相澤先生が覗いていた。
「相澤先生….事前に聞いてはいましたが、大丈夫なんですか?」
「まぁな」
放送室に入ると、マイク先生と相澤先生の席の後ろに空いた席がひとつ。
「まぁ座れ」
「ありがとうございます…..あの、相澤先生」
「ん?」
マイク先生が原稿をペラペラしている間に話しかけてみる。
「さっきエンデヴァーにお会いしたんですけど、あの、すごい、すっごく、かっこいいですね」
「…..守備範囲広いな愛嶋」
「まぁまぁいいじゃねぇか!」
相澤先生からインカムを受け取って右耳につけた。
実況席には多くのモニターがあって、選手の状況はこれで判断する。
最初に飛び出したのは轟くん。さすが。
それに続いてA組のみんなが個性や身体を上手く使って戦闘用ロボットを超えていく。
身体がうずうずするのを水分補給することで抑えながら、みんなを見守った。そうだ、心操くんは?心操くんの個性….どんな風に動くんだろう。
人が多くて見にくいな….。先頭は轟くん、爆豪くん….やっぱりトップだ。次の綱渡りでも個性の威力が高い2人がかなり有利に見える。私の個性でも、どうしたらいいか….一掃するのは簡単だけど、広範囲での攻撃は消耗が激しいし。
次の地雷源の道。先に行くメンツが不利になるコース。後に来る人にとってはなんでもない逆転のチャンスだが、トップに躍り出るのは難しいだろう。私だったら立ち幅跳びの要領で、後ろの人に水を食らわせた反動で飛ぶしかないかな。
と思っていたら、板を持って爆発を逆手に飛んできた緑谷くん。発想の展開…..!私には考えつかなかった。すごいな緑谷くん……。
障害物競走の結果が出たらしい。発表するマイク先生の手元を見て驚いた。
「マイク先生!これホントですか?!」
「Heyリスナー、声が入る、」
そこにあった成績。
1位 緑谷出久(A組) 2位 轟焦凍(A組) 3位 爆豪勝(A組) 4位 塩崎茨(B組) 5位 骨抜柔造(B組) 6位 飯田天哉(A組) 7位 常闇踏陰(A組) 8位 瀬呂範太(A組) 9位 切島鋭児郎(A組) 10位 鉄哲徹鐵(A組) 11位 尾白猿夫(A組) 12位 泡瀬洋雪(B組) 13位 蛙吹梅雨(A組) 14位 障子目蔵(A組) 15位 砂藤力道(A組) 16位 麗日お茶子(A組) 17位 八百万百(A組) 18位 峰田実(A組) 19位 芦戸三奈(A組) 20位 口田甲司(A組) 21位 耳郎響香(A組) 22位 回原旋(B組) 23位 円場硬成(B組) 24位 上鳴電気(A組) 25位 凡戸固次郎(B組) 26位 柳レイ子(B組) 27位 心操人使(普通科C組) 28位 挙藤一佳(B組) 29位 宍田獣郎太(B組) 30位 黒色支配(B組) 31位 小大唯(B組) 32位 鱗飛龍(B組) 33位 庄田二連撃(B組) 34位 小森希乃子(B組) 35位 鎌切尖(B組) 36位 物間寧人(B組) 37位 角取ポニー(B組) 38位 葉隠透(A組) 39位 取蔭切奈(B組) 40位 吹出漫我(B組) 41位 発目明(サポート科H組) 42位 青山優雅(A組)
もちろん緑谷くんにも驚いたが、それ以上に心操くん27位。サポート系の個性だと思っていたけど、この順位を見るにサポートではなく、攻撃ではないものの周りに何かしらの影響を出す….。
例えば、相澤先生とかミッドナイト先生のように周りを戦闘不能にしその間に自分が上がる。
そういう個性の可能性も出てきたな….。
次の騎馬戦も、2人以上で組んでハチマキを取る。相手陣の個性の把握と、それに見合った分析をしないといけない。障害物競走で1位を取ってしまった緑谷くんは、それはそれは逃げ切っている。
結果は
1位:轟チーム(轟焦凍、飯田天哉、上鳴電気、八百万百)
2位:爆豪チーム(爆豪勝己、切島鋭児郎、瀬呂範太、芦戸三奈)
3位:心操チーム(心操人使、庄田二連撃、青山優雅、尾白猿夫)
4位:緑谷チーム(緑谷出久、麗日お茶子、発目明、常闇踏陰)
ささささ3位?!
心操くんすごいな….。
というか、心操くんはヒーロー科のみんなの個性を知っているのか?じゃないと騎馬戦でその成績は難しい….。
私だってB組の子の個性はそんなに把握してないのに。
しかも、青山くんは私と同じく近距離が苦手。尾白くんは近距離にこそ強いが、広範囲攻撃には防御に回って裏をかいて攻撃するのがベスト…..庄田くんはパッと見だけだけど小柄な分、押されたら後手に回る。
相性が悪い障子くんのいるチームを超えて3位に躍り出るとは….。心操くん、これは強敵だぞ。
「よーしそれじゃあトーナメントはひとまず置いといて、イッツ束の間!楽しく遊ぶぞレクリエーション!」
レクリエーションタイム。とりあえず出場するので、みんながいる控え室に降りて来た。すると、緑谷くんと尾白くんが何やら話している。真剣な話なので、廊下で聞いていよう。
「操る個性か….強すぎない?」
「俺、問いかけに答えた直後から記憶がほぼ抜けてた。そういうギミックなんだと思う」
心操くんの個性についてだ….。いいことを聞いた。
「とまぁここまで話したけど、緑谷。俺の分も頑張ってくれな」
けど、こうやってコソコソしてるのも男らしくない。
「尾白くん。緑谷くん」
「わぁっ愛嶋さん?!」
「いつからそこに、」
「入るタイミング失っちゃって。2人とも競技お疲れ様」
「ありがとう。…..でも俺は騎馬戦ほとんどなんにもやってなかった、っていうか、記憶ないし」
「ありがとう。愛嶋さんはどこにいたの?障害物競走も、騎馬戦も、そういえば見てないけど……」
「私、相澤先生と一緒に放送室にいたんだ」
2人が、” あのマイク先生の Heyリスナー!声が入る! っていうのは愛嶋さんのことだったんだ “ と納得した顔だ。君たちわかりやすいな。
「みんなの活躍は見てたよ。尾白くんどんまいだけど、有益な情報どうもありがとう。私レクリエーションは出るんだ。またね」
本当は今すぐグラウンドに行って整列しないといけないんだけど、それより先に心操くんのところに行かなきゃ。
えっと普通科の座席は、こっちか!
「あ。あんたヒーロー科の愛嶋じゃん」
「っと、どうも、」
急ぎ足で歩いていたところを、普通科の金髪の女の子に声をかけられてしまった。確か、この間心操くんが傘貸してた子だよな。
掴まれた手を振りほどきたかったが、できるなら穏便に済ませたい。
「あんたさ。心操のこと嗅ぎ回ってるらしいじゃん。心操が優秀で焦っちゃったんじゃないの?ヒーロー科がみっともな。それで?あんたは全然競技出てないみたいだけど?」
「心操くんのこと嗅ぎ回ってるってのは本当だけど、ヒーロー科は関係ない。私がしたいからしてるだけ。競技はー…..あー….」
先生方から派手な行いや、確実なメディア露出は控えて欲しいって言われてなんて言えない。レクリエーションが許されたのは、メディアの人達の多くが休憩に入る時間帯だからって理由だし…..。
「諸事情で出られないんだけどさ、この後は出るよ」
「諸事情?は?なにそれ。やっぱ心操が怖くて逃げ出したんでしょ」
あ、その話続きます?
いや、レクリエーションに行かなきゃいけないんだって。今多分整列して….ほら!レクリエーションに参加するみんなグラウンドに出てきてる。客席からグラウンド、すごく近いけど中走ろうと思うと階段があったり迂回しなきゃいけなくて遠いんだよ、
「心操は普通科期待の星だかんね。あ、もしかして心操の情報貰いに来たとか?
せこーい!そんなん教えるわけないじゃんね。そういえば呼び出し食らってたけど、あんたヒーロー科からもハブられてんじゃない?可哀想〜」
あ〜、ミッドナイト先生がマイク片手に呼んでる、
「ちょ、ごめん私行かなきゃ、」
「逃げるの?そうやって怖いからって逃げて来たんだ。だっさぁ〜!ヒーロー科ってやっぱりそういう人しかいないんじゃないの?」
ここで言い返してはダメだ、時間がかかるだけ、そんなの無駄なだけ…..分かってる。分かってるけど止められなかった。
「ヒーロー科は関係ない。私の態度が癪に触るなら、私だけの悪口にして」
「は」
金髪の子のさっきまでの威勢はどこに行ったのか。ピシリと固まってしまった。私は昔から、何かに対して怒るとか、反抗とかして来なかった。しても無駄だと思ってたから。でも今回は、少なくとも間違ったことを言ったつもりはない。
「愛嶋!早く!」
ミッドナイト先生の声でハッとした。
「ごめん急ぐから!」
時間も無いので、普通科の客席からグラウンドに直接降りた。バッと、風を切る音が耳の近くで鳴って、着地。
「遅くなりました、」
「もう!何してんのよ」
すみません、と謝りながら整列する。
「普通科の生徒となんかトラブったみたいだったけど、大丈夫なの?」
インカムからミッドナイト先生の心配する声が聞こえる。なにかあったようには振る舞いたくないな….えーっと…..
「いや、握手求められちゃって。人気者は辛いですね ははは…..」
我ながら苦しい言い訳!
とか思っていると、レクリエーションの借り物競走がスタートする。登場する場はここしかない予定だし、折角なんだから楽しまなないと。
お題はー…..
” 普通科の子 “
気まづい。
困ったな、1番近い席の普通科の子は金髪のあの子だけど、借りられてくれる希望が見えない。他にはー…..あ!
「心操くんいい所に!」
「え」
偶然考え事をしていたであろう心操くんが、入場口に向かって歩いてるのが見えたので慌てて追いかけた。
「忙しいところごめん。借りられてくれない?」
「…….」
「……も、もちろん、強制じゃないんだけど……」
「…..困ってるの」
「そう、だね。困ってる…..かな…..」
「……..わかった。いいよ」
「ありがとう!」
心操くん….この間も傘貸してたし、本当は全然良い子なのかもしれない。
先頭を見ると、随分離れて走ってる。このまま順位を落とすのも癪だし、メディアに見られていないならいいよね。
「心操くん、手離さないでね!」
「え」
心操くんの手をしっかり握った。
波を出して乗る。このまま距離を詰めて….抜かした!でもこれは何度も使えないから、ここからは心操くんの手を引いて走って行こう。これくらい距離の差があれば抜かされることは無いと見ていい!
「……あのさ」
「なに?」
走りながら喋ると舌かむよ。
「愛嶋さん、走るの遅いね」
短足で悪うございました!!
と思っていたら、1位でゴール。よしよし!
「なんせこの身長なもんでね」
私は心操くんの肩ぐらいの身長。もしかしたらもっと低いかもしれない。遺伝だから、そんなに文句はないが、個性と合っているかと言われたら微妙な身長だ。
「ふーん」
「借りられてくれてありがとう。じゃあ」
心操くんの視線を背中に受けながら集合場所に戻る。中学生までは借り物競走なんて順位がつく競技、みんな必死に走っていたのに、雄英高校ではレクリエーションの括り。さすが雄英と言わざるを得ない。
「愛嶋。お前まだ元気だな」
インカムから相澤先生の声がする。
「そりゃあもちろん」
「ならちょうどいい。今、多くのメディアから調整の時間が欲しいからプログラムを調整しろとの依頼が来た。時間を稼いで欲しい。レクリエーション終了後、擬似トーナメントをする。メディアには出ないから安心しなさい。準備をしておけ」
それは….つまり….急遽戦闘に入らないといけないってことですか相澤先生?!