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〜第3幕〜ー終演ー


「…元貴。できた。これが俺の『第二稿』。」


若井はそう言いながら俺の方にパソコンのモニターを見せてきた。流石、自信満々だっただけあって30分足らずで完成させられたようだ。


「早いね。ちょっと見せて。」


俺はそれを一通り読み、


「…OK。異議なし。」


「じゃあそろそろ彼が仕事を終える時間だ。行ってくる。」


そう言ってスーツに着替え、若井の部屋をあとにした。


彼のことを待つこと数分、もう一度あの記事に目を通す。


「……笑」


俺はスマホの画面を前にして一人、ほくそ笑んだ。そうしていると、もうすっかり顔見知りになったあの男がビルから出てきた。


…彼には、感謝を伝えないとね。


少しの間彼を尾行し、後ろから声をかける。


「あの記事…読ませていただきましたよ。藤澤さん。」


彼はぎこちない様子で振り向いた。俺は取材の時と同じように振る舞っているつもりだが、彼ほど鋭い観察眼を持った者なら、俺が全く違う笑みを浮かべていることぐらいすぐに分かるだろう。


「…なんの用ですか。」


ものすごく俺のことを警戒している。そんなに怖がらなくてもいいのに。


「感謝を伝えに。ありがとうございました。本当にあなたは『使える』記者だ。」


「…どういうことですか。」


まだ状況を読めていないらしい。その疑念と少しの不安が混じった目。完全に絶望の色に染まったのも良いがその目もたまらない。


「あなたが書いた記事。『真相』はすべて、僕、いや僕達が仕組んだものだったんです。」


「…と言いますと?」


まだまだ平静を装っているようだが、彼が少しだけ眉間にしわを寄せたのを俺は見逃さなかった。更に追い打ちをかける。


「藤澤さん、あなたは様々な『違和感のピース』を拾い上げた。取材の時の僕の態度や、若井の動画の様子などですね。そしてそれらを組み合わせ、見事に『真相』という名のパズルを完成させてくださった。でもそれは、所詮こちら側で『用意したエンディング』に過ぎないんです。」


「…『用意した』…?」


だんだんと彼の目に不安の色が滲んでいく。


「これは、僕とあなたが主演のドラマだ。脚本を書いたのは、僕と…若井滉斗。」


「…若井滉斗、だと…?」


俺の口から若井の名が出たことがそんなにも不思議だろうか。まぁそれも無理はない。だって彼は、俺が若井滉斗を誘拐したと思っているのだから。


「ええ。若井は最近、ネタに困っていたんですよ。だがそれと同時に、明確な構想を持っていた。『リアリティのあるもの』を書きたい、というね。だから僕が一つ、提案をしたんです。『じゃあ実際に人間の行動を観察してみない?』って。」


「…あなた方、まさか、」


ようやく全てを察したようだ。声が明らかに震えている。


「ええ。あなたにはその実験台になっていただきました。本当にありがとうございます。おかげで良い物語が書けそうだ。」


「やはりジャーナリストですね。『違和感』を決して見逃さず、なおかつその察知までの時間が桁違いに短い。正直、僕も若井も驚いてるんですよ。ここまで思い通りの…僕らの『台本通り』の動きをしてくれるなんて。」


何も嘘はついていない。でも彼の目はどんどん絶望に染まっていく。


「…いやぁ、まさかあなた方の掌の上だったとは…。お見事です。ですが一つ、疑問が。なぜ若井滉斗は、あなたのその狂ったとも取れる計画に乗ったのですか。」


ほう、まだ取り繕う余裕があるらしい。


「流石藤澤さん。鋭いですね。…若井はね、僕に『支配されること』が好きなんですよ。」


「…は?」


彼は心底驚いた、といったような声を上げた。


「若井は、自分の人生が僕にどれだけ影響されているか、よく分かってるんだと思います。でも彼は、それを拒まなかった。むしろ、心地よく感じています。…僕としても、他人を操るの、面白いんですよ。」


「これはWin-Winの関係なんです。そんな若井が、僕の提案を断るわけないじゃないですか。」


俺の言葉を聞いて、彼は全てを諦めたかのような表情を浮かべた。


「…俺は本当に『使える』記者だったわけだ。お役に立てて光栄です。」


「あはっ、ふふっ」


俺は思わず吹き出してしまった。そう、その顔が、その言葉が聞きたかった。


「あははっ、その通りです。」


「皮肉なもんだ。藤澤さん、今のあなたこそ、あなたが…記者という人間が追い求める姿ですよ。その顔。とても良い。」


不思議なことだ。記者はこの顔を追い求めて取材を続けるのに、自分がその立場になるとこんなにも脆いんだから。今の彼こそそれだ。まさに「記者が記事にしたくなる顔」。最高に愉しい。


『ターゲット』が、自分が完全に騙されていたことを理解し、『敗北』を認める。これ以上ない快感。これだから…


「…これだからこの『ゲーム』はやめられない。」


彼は、これが最期の言葉だとも言わんばかりのか細い声で問いた。


「…あなた方は、親友ではなかったのですか。こんな狂った計画をして…」


そんなの決まってる。


「もちろん、『親友』ですよ。」


「…飽きるまでは、ね。」


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