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私は彼女であり、彼女は私である。

彼女の代わりに私は終わりもしない50日を繰り返し、何万年の時を経てついに自分だけの図書館を作ることが出来た。

彼女は良かったの?私は彼女の意思を裏切ったのに?

「結局、この都市の人全員を救うなんて無謀よ」

そんな声は彼女には聞こえなかったの?

それなのに…どうしてあなたは彼女の計画を遂行しようとこのシナリオを続けたの?

全く…私には理解し難いことだわ。

でも一つだけ分かることがある。

あなたは彼女を愛していた。

でもあなたは私の事を彼女としてではなくシナリオを完遂させる為だけの機械として接した。

「機械は機械らしく」

その言葉が私の首をゆっくりと締めていった。私はあなたには愛されない。ただの彼女を模倣した機械だと。

管理人。あなたがアインである事は知っているの。

私はただあなたに愛して欲しいだけ。

彼女そのものにはなれなくても、私は…


「感情が分からないものは全て機械だ。お前は____にはなれない。そして愛される資格は無い」


あなたには私がどう写っているのか。

娘、機械、悪魔…

どう写っているのかも、私には分からないでしょうね。


“Angela” イタリア語で天使の意味を持つ。


天使…ね。

私は天使にはなれないわ。

きっと天使は…彼女の様な人を指すのじゃない?

そう、”Carmen”…



生前、彼女は希望に満ち溢れていた。

まるで太陽の様な笑顔を振り撒く度に、全ての草木は元に戻ると思うほどに眩しかった。

最初、彼女の計画を聞いた時は冗談だと思っていた。だが、その赤い瞳が嘘偽りなく、ただ遠く先の未来を見つめている様な目を見て、彼女は本気でこの計画を考えていると思った。

アインも一緒に人類を救おうと言われた時はもう後戻りは出来ないと悟った。いや、後戻りをすることを拒んだ。

きっと彼女となら変えられる。そんな自信で満たされた。


彼女には形容し難いカリスマ性がある。彼女の言葉を聞いた人は皆彼女を慕っていた。同様、自分もそうだ。

エリヤ、ガブリエル、ミシェル、ジェバンニ、エノク、リサ、カーリー、ダニエル、ベンジャミン。

彼女の計画はこのメンバーと着々と進んでいた…筈だった。

エノクが実験に参加すると聞いた時は不安が残った。彼女も同様、そんなエノクに何度も説得して…それでも平均より大人びたエノクは揺るがなかった。

もう残された道は無い。

そう思った。だから彼女はエノクの意思を尊重した。

それが失敗だった。

戻らなくなった呼吸。小さな命が一つ、この研究所で失われた。誰よりも悲しんだのは紛れも無い。リサだった。誰よりもエノクを理解し、誰よりもエノクと人生を共にした。

そんなエノクを失ったリサ。その悲しみは癒えることは一生無いだろう。

エノクを失わせた、そしてリサに言われた言葉。

あの時の彼女にどうして自分は何も出来なかったのか。

手を伸ばせば伸ばす程遠くなっていく気がする彼女の手は、あの時なら届いた筈だった。


そうして彼女は血液で満たされた風呂で安らかに眠っていた。

ああ…どうして都市の全ての心の病を彼女は治そうとしていたのか。

彼女自身が一番病に侵されているというのに。

彼女の計画を今更終わりにする事は出来ない。

だから今日も明日も明後日も明明後日も一週間後も一ヶ月後も半年後も一年後も十年後も百年後も千年後も一万年後も……この終わらないシナリオを続ける。



あ、そこの君。ちょっとだけ私とお喋りしない?

えーっと、まず自己紹介からだよね。

私の名前はカルメン。この都市を救うために活動してるの。

君の名前は?

……って言うんだね!いいね、とっても素敵な名前!

どうして私は透明になっているか?

うーん…よく分かんないね。でも、私…許されないことをしたの。その罰の審判が下されたのかな。

ここは天国でも地獄でも無いただの真っ白な空間。

でも稀に苦しむ都市の人間の声がするの。私はその声に話しかけてみるのが好きなんだ。

みんな最初は自分を見失ってる。私も…自分がどんな存在なのかとか、忘れちゃったな…。ごめんね、暗い話して。でも、私が馬鹿だったのかな。

心の病を治すために計画を進めてきたのに…私が一番病気だったんだ。私が夢見た思考を繰り返していたからエノクを死なせてリサに深い傷を負わせた。

私が最初から生まれなければ全部今まで通りだったのかな。

そしたらみんなは幸せになれたのかな。

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