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ティナが事故を未然に防いで救急車で搬送された直後、現場および周辺は警察機関によって速やかに封鎖されたが、初動に遅れが生じたのは仕方の無いことであった。
現場に残されたサンダルの残骸やティナの血痕の一部が紛失していたのである。
『チャーリーよりアルファへ、ゲストのサンプル回収に成功した。次の指示を乞う』
『大戦果だぞ、チャーリー!直ちに回収地点へ向かえ。速やかに本国へ送る必要がある。アルファより各チーム、ただちにチャーリーチームの援護に回れ』
『チャーリー了解、直ちに回収地点へ向かう』
『こちらブラボー、ゲストの監視はどうする?』
『アルファよりブラボー、そちらも重要事項だ。ブラボーチームは引き続きゲストの監視を継続せよ』
不穏な通信によるやり取りが行われているが、それらは全てアリアによって傍受されていた。
アリアとしては直ぐ様行動に移ることも出来たが、今回の旅路にはティリスも参加しているため状況を報告すべくプラネット号へと回線を開いた。
事の経緯を説明するとフェルが直ぐに動こうとしたので、それをティリスが止めた。
「待った、フェルちゃん」
「でも、ティナが怪我を!」
「現地の人達が対応してるし、今は任せよう。多分、これ幸いとティナちゃんからサンプルを回収しようと考えているだろうしね」
ティリスの言葉にフェルが首を傾げる。今まさに何処かの工作員が回収してアリアが問題視している案件であるからだ。
「それは、良くないのでは?」
「ティナちゃんが自発的に提供したなら文句はないよ。地球には存在しない物質がたくさん含まれているし、解析には年単位の時間が必要になるだろうね。そして、解析されても問題はないよ。困らないし」
『マスターティリス、工作員も放置するのですか?』
アリアの疑問にティリスは笑みを深める。
「私は言ったよ?ティナちゃんが自発的に提供したなら文句はないって。どういうわけかティナちゃんは日本って国相手に思い入れがあるみたいだし、多少の優遇は眼を瞑ろう。アード人のサンプルなんて、地球上にある国なら何処だって欲しいだろうからね」
ティリスは笑みを深める。
「でも、コソコソするようなアオムシを許すほど私は優しくない。ティナちゃんが身体を張った成果を掠め取ろうとするなら、尚更ね。追跡は?」
『問題ありません。既に派遣した国家を含む背後関係も把握しています』
「なら問題ないよ。ティナちゃんは手当てを受けながらのサンプル採取を許可するだろうし、それを公表させて……コソコソしてるアオムシを背後の連中諸とも破滅させる。これは警告だよ☆」
「警告、ですか?」
「そうだよ、フェルちゃん。優しくて一生懸命なティナちゃんに悪意を向けるような輩は、これからの交流に必要ないよねぇ?☆」
「確かに、ティナだから問題になっていないだけですからね」
「そう、これは地球人のためでもあるんだよ☆だって、皆はティナちゃんみたいに優しくないからねぇ?☆」
運ばれた病院で手当てを受けた私は、明らかに豪華な病室で身体を休めていた。VIPルームって書いてたし、お金持ちが使う部屋なのかな?
ちなみに手当てと言っても止血をするくらいだ。鎮痛剤を含めて、地球の薬剤がアード人にどんな結果をもたらすか分からないってアリアが猛反対した。
いや、それならジョンさん達に何か渡すとき止めてよ。いや、やらかしたのは私だけどさ。
ガーゼで保護して包帯でぐるぐる巻きにされた足を見て、ため息を漏らしてしまった。鎮痛剤も無いから痛みはそのままだ。アリア曰くフェルが来て治癒をしてくれるから少し我慢して欲しいってさ。それなら今すぐに治癒して欲しいけど、それだと日本側の面子を潰してしまうらしいから、今は大人しくすることにした。政治についてはよく分からないから、任せることにした。
……病院のデータベースに侵入して医療関係や薬剤関係の情報をどんどん収集しているのは見なかったことにする。
「ごめんなさいね、ティナちゃん。もう少し出来ることがあれば良かったのだけれど」
私が怪我をしたと聞いた美月さんが慌てて駆け付けてくれた。とても忙しいだろうに、なんだか申し訳ないな……。
ちなみに朝霧さんは現場の指揮を取っているらしい。外交官なのに良いのかな?
「いえ、後で治療しますから大丈夫ですよ。むしろ、一生懸命手当てをしてくれて感謝しています」
アード人は翼以外は地球人と見た目に大きな違いはないけど、作りは別物だ。アード人の体内には地球人の持つミトコンドリアみたいな未知の微生物やらも居るしね。環境適応魔法のお陰で有害なものは無い……筈。アリアが大丈夫と言ってたから大丈夫。うん。
「そう言ってくれるなら、皆も報われるわ。
……貴女のお陰で大惨事を回避することが出来た。本当にありがとう」
美月さんはゆっくりと頭を下げた。
「もう、頭を上げてください。私は当然のことをしただけですから。怪我人は居ないんですよね?」
「ええ、皆無事よ。怪我を省みず皆を救ってくれた。ヒーローだって大騒ぎになってるわ」
「そんな、ヒーローだなんて」
柄じゃないよ。そう考えると、美月さんが優しげな、それでいて誇らしげな笑顔を浮かべた。
「あら、間違いなんかじゃないわよ?だって、私にとってティナちゃんは世界でただ一人のヒーローなんだから。あの日から、ずっとね」
「もう、恥ずかしいからやめてください……」
顔が熱くなるのを感じながら、私は俯いてしまった。それを見て美月さんは嬉しそうにしてるし……。
「ふふっ……そうだった。ティナちゃん、貴女の手当てをした時に出来たものだけど……どうする?貴女が臨むなら責任をもって処分するわ」
つまり、アード人の血液とかだよね。未知の存在であるアード人の情報を得られる貴重なサンプルだ。黙って回収しても良いのに。
でも、今回痛感したのは後々のために地球人にもアード人のことを知ってもらう必要があるって事だ。
アリアのお陰で地球人の情報は過剰なくらい集まっているし、美月さん達なら悪巧みをしない……筈。
「有効に使ってください。お互いを知るために、ね」
「……分かったわ。貴女の信用を裏切らないと約束する」
「おねがいします」
必要ならアリアに協力を頼むだけだよ。お互いを深く知ることが大切だと信じてるから。