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端末に着信があって美月さんは一旦部屋を出た。総理大臣だもんね、多忙なのは当たり前だ。むしろ私に……いや、そう考えるのは悪いかな。何よりも優先してくれるのは素直に嬉しい。
ただ、鎮痛剤も何もないから足の痛みが酷い。いっそ治癒魔法を使おうかと考えたけど、そのままマナ欠乏症になるのは目に見えてる。これ以上皆さんの負担を増やすわけにはいかないし、病室のひとつをいつまでも占拠しているわけにもいかない。必要な人はたくさん居る筈なんだから。
しばらく眠ろうかと目を閉じていると、足先から足全体に暖かさが広がっていく。それに合わせて痛みがどんどん引いていくのが分かった。これは……。
「フェル?」
「はい、ティナ」
目を開けると、フェルが私の足に治癒魔法をかけていた。いつの間にか転移してきたみたいだね。
「……ごめん」
私には謝ることしか出来ない。フェルを心配させてばっかりだから。
「良いんですよ、ティナ。無茶も無理も慣れました。いいえ、そんな貴女だから私は今も生きているんです」
「フェル……」
天使かな?あっ、妖精だったわ。
そんなことを考えていると、フェルが優しく手を握ってきた。
「でも……命だけは大切にしてください。私を一人ぼっちにしないで……」
泣いてはいないけど、瞳がうるんでいるのは分かった。
「うん……それだけは約束する。フェルを一人ぼっちに何かしない。ずっと一緒だよ」
これだけは変えられない。確かに私は無茶をするけど、フェルを一人ぼっちにするつもりなんて全く無い。いや、死ぬつもりもない。
そりゃあセンチネルが居るんだから断言は出来ないけど、出来る限り足掻く。
「あら、お邪魔だったかしら?」
しばらく見つめ合ってると、用事を済ませた美月さんに発見されて慌てて離れた。何故かフェルはちょっと不満そうだったけど。
「邪魔だなんてとんでもない。今手当てをして貰いましたから」
私は包帯を丁寧に取って、足を上げて綺麗になったのを見せる。
「あんな大怪我が一瞬で……魔法って不思議よね」
「あはは、フェルが規格外なのもありますけどね」
「そう……フェルちゃん、貴女にもちゃんと謝らせて。大切なティナちゃんに失礼なことをして、怪我までさせてしまった。本当にごめんなさい」
美月さんが頭を下げると、フェルも慌てた。
「頭を上げてください。首相が悪い訳じゃないってことは分かりますし、ティナが気にしていないなら私も気にしませんから」
「ありがとう……。それで、妹さんは?」
ばっちゃんからはごゆっくりなんてメッセージが来てるし……よし。
「まだプラネット号に居るみたいです。あの娘、泣いちゃったら恥ずかしくて部屋に引きこもっちゃう所がありますから今はそっとしておきます。明日には連れてきますよ」
然り気無くバッチャンは泣き虫で部屋に閉じ籠る系の属性を付与しておいた。
……怒られないよね?
「そう……それなら、改めて謝罪の場を用意させて貰うわね。ティナちゃん達はどうするの?ここを使ってもいいし、宇宙船へ戻る?」
「それなんですけど、用意してくれた旅館はまだ使えますか?」
せっかくフェルと二人きりなんだ。心配掛けちゃったお詫びもしたいし、故郷である日本でゆっくり過ごしたいって思いもある。
「ええ、もちろんそれも出来るわよ。完全な貸し切りにしてあるから、ゆっくり過ごせる筈よ。スタッフの質も自慢なの」
「じゃあ、そちらで過ごさせていただいて良いですか?」
「分かったわ。場所は都心から離れてしまうから少し距離があるけれど……」
「場所だけ教えてください。フェルと一緒に飛んでいきますから」
警備何かで余計な手間を取らせたくないし、その方が早い。そう思って言ったんだけど。
「あらあら」
美月さんから微笑ましいものを見るような目を向けられて、顔が熱くなった。
「では美月さん、また明日。お医者さんの皆さんには……」
「貴女が出たらパニックになるから、私から伝えておくわ。大丈夫、ちゃんとお礼もするわよ」
「私からも何か差し入れをしますね!いこう、フェル!」
「はい、ティナ!それでは失礼します」
出来ればお医者さん達に挨拶したかったけど、確かに私がノコノコ出ていったらパニックになりそうだ。時間はあるし、明日手土産を持ってまた来よう。お礼は大切だしね。
私は翼を、フェルは羽を広げて窓から飛び立った。もちろんはぐれないようにしっかりと手を握ってね。
余談だが、夕方の帰宅ラッシュの最中に都心を堂々とのんびり飛ぶ二人は滅茶苦茶目立ち、別の意味で大騒ぎになった。
『なあ、今俺の頭上を銀髪天使と金髪妖精が飛んでいったんだが。二十連勤で頭がバグったかな』
『安心しろ、アンタの頭は正常さ。それと、お疲れ様……』
『ブラックだ……』
『今空飛んでたのティナちゃんとフェルちゃん!?』
『ティナちゃん大怪我したって聞いたけど、大丈夫だったんだなぁ』
『治癒魔法みたいな奴じゃないか?見た限り怪我は無かったし』
『マジでファンタジーだよなぁ』
『と言うか、都心を手ぇ繋いでのんびり飛ぶな!www』
『しかも笑顔だぜ?ほら、写真』
『尊すぎる……』
『尊死した』
『早いなwww』
『しかもフレンドリーなんだよなぁ。手を振ったら振り返してくれたぜ』
『と言うか、この娘達今朝来日したばっかりだよな!?イベント多すぎないか!?』
『国会で挨拶して、バカがティリスちゃん泣かせて』
『暴走トラックから命懸けで皆を救って、大怪我して』
『んで、今は仲良く都心を飛んでいると』
『濃すぎるわ!wwww』
『ティリスちゃんは?』
『政府の話じゃ、落ち着くために宇宙船へ戻ったらしい』
『あの議員、とんでもねぇことしやがったな』
『抗議がスゴいらしいぜ?政党やらのHP落ちたからな』
『そりゃ落ちるだろうなぁ』
『ティリスちゃんが地球嫌いにならなきゃいいけど』
『こればっかりはティナちゃん達次第だからなぁ』
のんびり都心を飛んだ私達は、郊外にある豊かな自然の中にある大きな旅館へとたどり着いた。THE・日本の温泉旅館って感じで風情がある。合衆国とは違って派手さや華やかさは無くて、全体的に慎ましい感じが懐かしい。
取り敢えず邪魔にならないように先ずは正面の駐車場に降り立った。そこには何故か大人気SF映画のシ◯ワちゃんスタイルのジャッキー=ニシムラ(エアガン装備)さんが待ち構えていた。
彼はゆっくりとハーレーから降りて口を開いた。
「I’ll be back」
「いや、来なくていいよ」
そう返したら、なんかエ◯ルみたいな顔になってた。