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目を覚ましたメリーティアは、ずっと悪夢を見ていたかのような心地だった。
天井を映したまま緩慢に瞬きを繰り返す。また朝がきてしまったのかとため息をつこうとして、懐かしい天井だと気づいて飛び起きた。
周りを見渡す。あの息の詰まるような離宮ではなく、領地にあるハイゼンベルグ邸の自室だ。
メリーティアは自身の両手を見下ろし、わなわなと震えた。
死ぬ直前の苦痛を今も鮮明に覚えているのに、身体には異常がない。毒を飲んだ事実などはじめからなかったように、名残を感じなかった。
メリーティアはハッとして部屋を飛び出す。
食堂へ急いだ。朝食を抜くことが多かったメリーティアとは違い、この時間にほかの家族はいつもそろって朝食をとっている。
あれがすべて夢ではなかったのなら、ニルスとした約束が本当なら、この扉の先には家族がいるはずだ。
メリーティアは祈るような気持ちで食堂の扉を開けた。
「まあメリーティア。着替えもせずにこの子はどうしたのかしら?」
「おはようメリーティア。こんな朝早くに起きてくるとは珍しいな」
「メリー、どうしたの。そんな顔をして。また怖い夢でも見た?」
一斉に話しかけてくる家族の顔をそれぞれ眺め、メリーティアはずるずると尻もちをついた。
家族が生きている。あの頃のまま、優しく名前を呼んでくれる。それがどんなにうれしいことだったか、ようやく思い出せた。この時間がどれほどかけがえのないものなのか、今ならわかる。
子どものように泣きじゃくるメリーティアのもとに三人が駆け寄ってくる。メリーティアは三人にまとめて抱き着いて、しばらく泣き続けたのだった。
鼻をすするメリーティアを胸に抱き寄せて、母がおっとりと話す。
「あらあらかわいいお顔が台無しよ、メリーティア。昨日は『一週間後にはグウェンダルのもとに行くんだ』ってにこにこしていたのに、家族と離れるのが急に寂しくなってしまったのかしら?」
「やっぱり結婚はやめるかい? 好きにしていいよ。メリーティアがずっとここにいたいなら、そうすればいい。お父さんも娘が嫁にいくのは寂しいからね」
「メリーが泣くところなんてひさしぶりに見たな。悪夢を見るんだーって騒いでいたとき以来じゃないか? まさかグウェンダルか? グウェンダルがメリーを泣かせたのか?」
ニルスは本当に時間の神と生命の女神に頼んで、メリーティアの時間を巻き戻して生き返らせてくれたようだった。
「なんでもないの。なんでもないのよ……」
グウェンダルのもとに行く一週間前というなら、まだ彼とは婚約している段階だ。メリーティアが十八歳になったから、帝都のホールトン邸に住んで三カ月後には式を挙げることになっている。
もう家族を、グウェンダルを、あんな目には遭わせたくない。
その機会を与えられたのだ。一度しかない機会を無駄にするわけにはいかない。この人生は復讐に費やすつもりだ。ニルスに言ったとおり、自分は幸せになれなくてもかまわない。
メリーティアはしばし家族との再会を味わったあと、やるべきことに邁進した。
まずは何よりも、解毒剤を確保しておきたい。
家族が毒殺される原因となったのは、皇位継承争いだ。
しかし、ハイゼンベルグ侯爵家はすでに第二皇子を支持すると表明しており、今さら変えようがない。一週間で両親を説得できるような言い訳が思いつかなかった。
それにメリーティアの今後の行動次第では、皇后がハイゼンベルグ家を陥れようとするタイミングが変わる可能性もある。
安心するためにも、帝都に行く前に解毒剤を手に入れておきたかった。
幸いにも、皇后は一種類の毒を好んで使うようだ。家族を死に至らしめたワインも、メリーティアが死んだ原因の茶も、同じ桃の香りがした。毒の特定はそう難しくはないだろう。