ある日の昼、折西は影街に買い物に
出かけていた。
「コピー用紙と今日の食材と…
全部買ってますよね!よし、帰りましょう!」
買い忘れがないかチェックした後、
お姉さんと一緒に影國会へと戻ろうと
していた。
「あっ、あの!お兄さんって影國会の
職員さんですよね!?」
「えっ!?あっ、はい…」
慌てて振り返るとそこにはお団子2つに
左目に星のペイントをした小柄な女の子が
立っていた。
「すすす、すみません!おたくの
組長さんとお話がしたいんです!
…少し話の場を設けるように
組長さんを説得して欲しくて…」
「僕もそんなに組長に会えるわけ
じゃないからなぁ…」
折西はやんわり断ろうとしたが少女は
引き下がる気配を一切見せず、折西は
目隠し+おんぶで影國会まで案内するのを
条件に本拠地まで連れていくことにした…
・・・
玄関までたどり着くと少女の目隠しを
外してあげた。
「住所に書いてあった場所と全然違う…!
書いてあった場所ってもっと閑散としてた…
ここが本拠地…!」
「うちの本拠地の事は絶対
外で話したらダメですよ!!」
「大丈夫!!!影國会はきっと僕らの
味方だから!秘密は守るよ!」
影國会は味方とかいう確信の持てない
情報に絶大な信頼を寄せる少女を見て
折西は不安になった。
「そういえば君の名前は?」
「僕?僕はマアク!ロックバンド
【首切れスター】のドラム担当だよ!」
「マアクさんですね…僕は折西です。
ロックバンドで活動されてるんですね…!」
「うん!2人のお姉ちゃん達がバンドに
招待してくれたんだ!」
「そうなんですね…!てことはあと2人
いらっしゃるんですか?」
「う、うん…今は私合わせて3人…かな…」
「今は…というと誰が脱退されたんですか?」
「うん…ウズメっていう男の子が
いたんだけどグループから抜けちゃって…」
「そうなんですか…」
戻ってくるといいですね、と折西が
言おうとしたその時、部屋中にサイレンの音が
鳴り響く。
【ビーッ!ビーッ!不法侵入者発見。
排除システム作動します。職員は
対象者から離れてください。】
「えっ、ええっ!?不法侵入者!?
職員が連れてきてもダメなんですか!?」
「えっ!?ウソ!?僕どうすればいい!?」
「に、逃げ切って組長に直談しましょう!
このシステムは職員の昴さんが
作ったもののはずです…」
「う、うん!わかった!」
意を決した2人は廊下を走り抜けようと
走り始める。
しかしマアクは正面から何かにぶつかり
動きが止まる。
「よお、折西!…その子はどうしたんだ?」
「ひっ!!!この方が昴さんですか!?」
「なんだ、昴の敵か。俺は紅釈!
よろしくな嬢ちゃん!」
紅釈は膝まづいてマアクと目線を合わせ、
ニコッと笑った。
「よ、よろしゅくお願いしましゅ…」
顔の赤くなったマアクは噛みながら
下を向いてモジモジしている。
「こ、この子はマアクさんっていう子で
組長と話がしたいみたいなんです…」
折西が補足すると紅釈は眉毛をぴくりと
動かした。
「…組長に?」
「ええ、マアクさんはロックバンドの
ドラム担当の方でもしかしたらバンド関係で
相談事があるのかもしれなくて…」
「なるほどな…なあマアクちゃん。
それって俺が代わりに依頼受けるのって
難しそう?」
「それは…ちょっと難しい…
組長がいて成り立つ話になるから…」
「そうか…よし!そしたら顔合わせを
しないこと条件で組長と話出来るように
組長に話してみる。とりあえずガリノッポの
システムをくぐり抜けねぇとな…よっと!」
紅釈は折西とマアクを俵のように抱き抱えると
一気に地面を蹴り上げ組長の部屋へと
向かったのだった…
・・・
「組長!失礼します!」
紅釈は組長の部屋に入る。
マアクは紙袋を被って紅釈の隣に立っており
折西は扉から2人をのぞき込むようにして
見ていた。
紅釈がメインコンピュータを壊したため
排除システムは停止し、煙を立てていた。
そのため組長の部屋まで煙たくなっている。
…メインコンピュータを壊したとなると
昴から命を刈り取られるのも時間の問題だな。
そう思った折西はその後のことが
不安で仕方がなかった。
「少し組長と話がしたい者がおりまして…
女性ではあるのですが顔を隠してでの
対談も…難しいっすかね…?」
そんなソワソワした折西とは打って変わって
ハキハキと組長に相談する。
「…」
「…組長?」
しばらくの沈黙が続き紅釈は恐る恐る
組長の肩をトントンと軽く叩く。
「…こりゃあ、気絶してるな…」
後ろを振り返り折西に目を合わせると
「ダメっぽい」と小声で伝えた。
「えっ…ど、どういうことです…?」
「あー、折西は知らないのか。
うちの組長、女性ダメなんだよ…顔隠せば
いけるんじゃねーかなって思ったけど…」
「だからずっと僕らの依頼を
拒否してたのかぁ…」
マアクが申し訳なさそうになるほど…と
呟いた。
「組長のトラウマって女性なんですね…」
3人はただ立ち尽くすことしか出来なかった…
・・・
「ほう、メインコンピュータを破壊したと?」
あれから数時間後、マアクと折西と紅釈は
昴の目の前で正座をしていた。
「あの中には大事なデータが入ってる。
それを、紅釈が壊したってことだな?」
仁王立ちする昴に紅釈は冷や汗をかいている。
「そして折西、お前はわけも分からん女を
勝手に連れてきた…そして正面突破しようと
提案したんだな?」
「…は、はい…」
と折西は小声でカタカタと肩を震わせている。
「そして、お前だ女。
何度も門前払いしているにも関わらず懲りずに
気の弱い折西を利用して事務所に乗り込む
とはな。」
「ヴェッ…えん…」
マアクに関しては泣きすぎて嗚咽を
こぼしている。
「貴様らにはこのメインコンピュータの
弁償として給料から差し引くからな。
女は銀行口座を教えろ。そこから差し引く。」
「マジすか…」
「なあ、マアクちゃんの分は俺が払うから
それだけは辞めてくんね…?
向こうと不必要に火花散らすと組長に
迷惑かかるだろ?」
「ほう、不必要な火花だと言いたいのか?」
「いや、不必要っつーわけじゃなくて…
そもそもお前が従業員に止められる
システム作らねぇのが悪ぃだろうが!!!」
「…お前が過去に通した依頼人のせいで
組長が1週間寝込んだ話でもしようか?」
「ぐっ…」
紅釈は下唇を噛み締める。
「何がともあれ、代金は払って
もらうからな。総額300万!!!!!」
3人はガタガタと震えている。
すると突然、その後ろでスピーカーが
なり始めた。
「300万円だな、了解した。」
「…あ?」
昴がなんだ?とキョロキョロと見渡すと
背後のモニター方面から爆発音と共に
デカいスーツケースが放り込まれた。
「はい!これは今壊した分の代金です♡」
投げ入れたスーツケースとはまた別の
スーツケースを持ったストレートヘアの
女性が昴の背後に回り、どうぞ!と
手渡した。
暫くすると昴のスマートフォンが鳴り、
電話に出ると東尾から
「ごめん…突破されちゃった…えへへ」
と伝えられ、東尾からの電話が切れた。
「…どうも、首切れスターのボーカル、
カリマと申しまーす。」
「私はギターのモルフォです♡」
2人とも影國会の従業員に名刺を渡す。
「…後はお宅の組長さんに話するだけね。」
「けれどどうしましょう〜?
女性恐怖症ですか…お話出来ませんわね…」
「いや、話だけは聞く…」
紅釈の後ろには具合の悪そうな組長が
立っていた。
「く、組長!?大丈夫なんすか!?」
「流石に…被害額を律儀に払う人間を
拒絶する訳にはいかないからな…」
「やった〜♡流石組長さん!」
「…ありがとうございます!」
「よ、良かった…銀行口座伝えずに済んだ…」
・・・
「実は【首切れスター】のライブの日に
ウチの妹が会場を乗っ取って挙式ライブを
するらしくて…」
開口一番、カリマは裏社会と
関係なさそうなライブの話を始めた。
「挙式ライブ?」
組長は両手を組み、眉をひそめる。
「そうなんすよ!!!僕らの5周年の
大事なライブなのに!
会場の所有権を持つ僕らのプロデューサーの
「アイク」をカリマお姉ちゃんの妹が
買収しちゃって…ライブ1週間前くらいに
アイクから首切れスターのライブキャンセルの
電話が来て!!!!!」
マアクは怒りを隠せずに息を荒らげて説明する。
「そこで妹の挙式ライブをぶっ潰す
お手伝いをして欲しいんです。」
「それなら俺だけで事足りると思うんだけど…」
紅釈が手を挙げて発言するとモルフォは
首を横に振った。
「いえ、組長が加われば
最高にロックだと思うんです♡」
「ロック…?」
「まあ、作戦の『拘り』だと思って欲しい。」
「それに、元バンドメンバーの
「ウズメ」を略奪したんですよ、ウチの妹は…
しかもウズメを婿にするとはね。」
「略奪したのはウズメ君だけじゃなくて
さっき言ってたアイク君もなんです〜!
アイク君は会場の権限を持つ私たちの
プロデューサーだったんです…」
「なるほど…協力したい、と言いたいところだが
生憎今月は仕事が立て込んでいてね。
今回は拒否させて頂くよ。」
「…やっぱりそうですよね。
お忙しい中すみません。」
「いえ、こちらこそお見苦しい所を見せて
申し訳ない。帰りは手配しておきますので。」
組長はそう言うと帰り賃より多めの金額を
渡した。
3人は暗い表情で部屋を後にすると
4人の沈黙が続いた。
「…本当に、これで良かったんでしょうか?」
折西が不安そうに聞くと昴はため息をついた。
「下手に影國会が目立てばそれなりのリスクは
追うことになる。これが妥当な判断だろうな。」
しばらくして4人は解散し、各自
仕事に戻るのだった…
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